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シンギングタイム

 

「王都から審議官が来た? 思ったより早いですね……」


 その連絡が来たのは、例の戦いが終わって数日が過ぎた日の朝。

 エステルとアリス、ボクの3人が宿で朝食を取っている時だった。

 エルフ組の二人は朝が早く、また王族と一緒では恐れ多いと既に済ましてしまっている。


 なお、カレンさんはまだ治療院で治療を継続中だが、もう少しで退院の予定である。

 そのため、町から離れたい所を我慢してカレンさんの退院を待っているという状態だ。


 ちょっと状況をおさらいしておこう。

 あの戦いの後、ベルファウスと戦闘に参加せず生き残った騎士達は彼らの駐屯していた建物の地下牢獄に収容された。

 無論、ボクが破壊した2つの牢以外に、だ。

 ただし、あくまで非公式に、という前書きが付く。


 なぜなら、客観的に見ると国のお触れに従って徴兵しようとした一市民が脱走し、あげく多数の騎士を虐殺した上で騎士団長にも危害を加えた、ということになる。

 その非情で凶悪な一市民とは、ボクの事である。 極めて遺憾な事に。


 ただし、騎士団側も法の曲解や非正規手段での奴隷の取得、ならびに一般市民への隷属の首環の利用というあまりにも騎士の誇りに真っ向から逆らうような真似もしている事と、騎士団の力が削がれた今一番の力を持つギルドが極短に騎士団と仲が悪いという事もあり、本件の決裁は保留というのが現状である。


 そこで、正しく現状を伝えた上で判断をするべくギルドから王宮へ報告と依頼が挙げられたのが数日前。

 その結果を待たないと動けない為、ボクは結局町から出る事を許されず、未だこの町にいるというわけだ。


 なお、最悪の場合……ボクに責任が降りかかるようであればセラサスを使っての強行突破でエルフの隠れ里まで逃げ込む予定である。


「おうよ、意外と早かったが事情聴取だな。

 まぁ、俺らギルドの連中は皆小っさい嬢ちゃんの事が悪いとは思ってねぇ。

 しっかりフォロー入れるからよ」


 連絡を持ってきたドランさんはドン! と胸を叩く。


 とはいえ、ギルドにどこまでの力があるのか若干の不安は残る。

 ……正直、聴取するのも王国の役人だろうから、身内びいきして不公平な判断を下しそうな気もしないでもない。


「で、ボクはどうすれば?」


「小っさい嬢ちゃんが良ければ、このままギルドまで来てもらえると助かる。

 あと、できれば……エルフの嬢ちゃんたちも来て貰えるか?」


「……ボクは賛成できないですね。

 あの辛い記憶を彼女達の口から説明しろと?」


「あー……そう、だよな……でもなぁ……」


 ドランさんもメッセンジャーなだけで権限がないだろうから困ってる所だろう。

 とはいえ、せっかく救い出した二人を再び傷つける事は許容したくない。


「おじちゃん……リタちゃんいじめるの……?」


 エステルの必殺技、上目使いウルウルが決まる。

 ドランさんに効果はばつぐんだ!


「……わぁったよ! 小っさい嬢ちゃんだけ頼まぁ!」



 ------



「本日はご足労頂きありがとうございます。

 今審議官に伝えに行ってきますので、こちらで少々お待ち下さい」


 カイルさんに進められて、とりあえずギルドの酒場側の椅子に腰を下ろす。

 今は若干空いている時間らしく、また昼なので酒を飲んでいる人はいない。

 普段ならドランさんが昼間から酔っ払っている所だけど、今日は隣にいるので……


「おーい、とりあえず酒くれやぁ!」


 あ、飲むのね。

 ウェイトレスさんがお酒と果実水を持ってきてくれる。

 そういえば、ここの制服借りっ放しだった。

 今度洗ってお返ししないと……


 チビチビと果実水を飲んでいるうちに、カイルさんが戻ってきたようだ。


「ユーリさま、アリスさま。 お待たせ致しました。

 それでは、ギルド長の部屋へと案内致しますのでどうぞこちらへ……」


 カイルさんの案内で、ギルドの奥へ着いていく。


 そういえば、ギルドの奥に入るのは初めてだ。

 それに、ギルド長の部屋ということはギルド長もそこにいるのだろう。

 お偉いさんに会うということで少々緊張する。


「マスター、大丈夫です。 何かありましたら、私が守ります」


「ありがとう。 でも、それより暴走しないでね。

 中立な立場で判断されるんだから、ボクの方が責められる事もあるだろうし」


「否。 マスターに危害が加わるようであれば我慢できないかと思います」


「判断はボクがするから。 何かしら直接的にされない限り暴力禁止で」


「……是」


 そうこうするうちに、少しだけ豪勢な扉の前に着いた。

 恐らくこれがギルド長の部屋なんだろう。


「お連れしました」


 カイルさんが扉をノックして声をかけると、中から「どうぞ」という声が返ってきた。




 扉を開けると、好々爺然とした風貌の初老の男性と、メガネをかけキリッとした男性の二人が目に入る。

 恐らく、前者がギルド長で後者が審議官なのだろう。


 向こう側も、ボクの姿を見て驚いているようだ。

 確かに見かけ子供だけど、報告も上がっていただろうに読んでいないのだろうか?


「ギルド長と審議官様ですね。 私はユーリでこちらがアリスと申します。

 よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる。

 とりあえず、第一印象は良くしておいたほうが後々良さそうという魂胆だ。


 と、初老の男性が笑みを深くするのが見えた。


「カカ、これはご丁寧にのぅ。 儂は中央騎士団顧問を勤めておる、ジェイガンじゃ。

 こちらが審議官のニコラス。 そして……ここのギルド長はお主の隣におる、カイルじゃよ?」


 ニヤリとジェイガンさんが笑う。

 というか、カイルさんがギルド長なのか! 若すぎるでしょう……。


「そういえば、ユーリさまたちはご存知なかったのですね。

 改めまして、当ギルドの長をしております、カイルと申します。

 ……さて、早速ですが始めましょうか?」


「カイルよ、お主はせっかちでいかん。 まずはこれから行う事の内容等説明せんと

 こちらのお嬢ちゃんが不安に思ってしまうわい。

 それにだ、まず物事を進める前にしておかんといかんことがあるわい」


 ジェイガンさんが居住まいを正して、ボクたちの方を向く。

 先ほどまでの笑みはなく、ひどく真剣な表情で口を開いた。


「ユーリ殿。 この度は我が王国騎士団のものが、大変に迷惑をかけてしまった。

 そして、この町を森林竜(フォレストドラゴン)から救ってくれたとも聞く。

 ユーリ殿に感謝と、そして謝罪を申し上げる。 ありがとう、そして申し訳なかった」


 ジェイガンさんが深く礼をする。

 それをみたニコラスさんが、慌てたようにそれを制止する。


「ジェイガン様! 容疑のかかっているものに、貴方がそのように謝罪をされては騎士団が罪を認めた事になります! お止め下さい!」


 それを聞いたジェイガンさんが、顔を真っ赤にしてニコラスさんに怒鳴りつけた。


「馬鹿もん! どのような理由があろうとも、まずこの年端もいかぬ子供を拘束したというただその一点においても騎士にあるまじき行為ぞ! 恥を知れぃ!」


「しかし……!」


 どうやら、ジェイガンさんというのはずいぶんマトモな騎士のようだ。

 この世界に来てからマトモな騎士といえば村を訪れたカテドラル卿くらいしか記憶がないので、それだけでも好感が持てる気がする。

 とはいえ、内輪もめでケンカが始まりそうなので、割り込むことにした。

 正直、面倒なのでさっさと終わらせたいのだ。


「お待ち下さい。 いずれにせよこの後の事情聴取である程度明らかになるのでしょう?

 ジェイガン様の謝罪は個人の謝罪として受け入れます。 それでいかがですか?」


 ボクの一声で、ジェイガンさんはバツの悪そうな顔で再びこちらに頭を下げた。

 ニコラスさんは……やはり納得がいっていないようだが。


「……みっともない所をお見せした。 重ねてお詫び申し上げる。

 では、早速聴取を進めさせて貰うが、その前に儂の立ち位置を伝えておく必要がある。

 今回、儂は事情聴取に関しては話は聞かせてもらうが、本来は審議官が1人で行うものでな。

 儂は先ほどの謝罪をするため、個人的に着いて来たと思ってもらえれば良い。

 聴取には参加せぬので、そこの辺り理解頂ければと思う」


「判りました」


「ニコラスもよいな?」


「……本来は第3者が傍聴するなどありえませんが、ジェイガン様ならば認めざるを得ないでしょうね。

 ですが、審議に関しては私に一任して頂きます。 さもなければ、越権行為となりましょう」


「承知しておる。 では、後は任せる」


 ジェイガンさんは自らの非を認めるなど、きちんと判断をしてくれそうだったが、参加はしないというのが残念だ。

 というのも、ニコラスさんはまだ良くわからないがどうにも立ち位置が騎士団寄りに思えるからだ。

 ……さて、どうなることか。


 こうして、ボクたちの事情聴取は始まるのだった。


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