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できるかな?


「うーん、やっぱりドラグーン用の装備と違ってアバター用の装備はイマイチだねぇ」


 昨日の失敗を取り戻すべく、宿にて製作(クラフト)スキルを発動させて見た所である。

 出来上がった弓を見てみた所、どうもパッとしないのだ。


 目の前にはギルドから卸してもらった魔物由来の素材が並んでいる。

 今回は、弓ということで主にトレントのドロップを中心に譲ってもらったのだけれど。


「是。 マスターの場合、前提条件を満たすレベルまで上げた所で放置しておりましたので。

 今装備されているものも、全て乱華様からご紹介の生産職の方に作成依頼したものですし」


 そうなのだ。

 おかげで、普通の服が良かったのに乱華の注文でゴスロリになってしまったのだ。

 まぁ、今では気に入っているので問題はないのだけれど。


「騎士団の件もあれだけど、こんなことならアバターの方もしっかり育てておくべきだったよ」


 ドラグーンの強化ばかり目を向けていたので、他は完全に置き去りにしていたのだ。

 おかげで、セラサスに乗っていない今の状態では、魔法が使えるだけの非力な幼女である。

 せめて、せめてほんの少しパラメータを振っておけば!


「否。 そこにロマンがありません。

 中途半端にステータスを振るなど、ただの器用貧乏に成り下がってしまいます」


「むぅ……ついにアリスもロマンというものを解するようになったのか……」


 最近、特に思うのだけれど、アリスは本当にAIなんだろうか?

 ゲームの時以上に人間っぽい振る舞いが増えてきたような気がする。


「まぁそれはそれとして、とりあえず目先の装備だよ。

 普通の木材だと<良質の弓>どまりっぽいし、トレントの素材でどこまでいけるかだね」


「是。 マスターのものぐさのせいで、攻略サイトの情報は丸ごと記憶させられております。

 レシピにつきましてはそのおかげで私が把握しておりますので、そちらから試してみるべきかと」


「トレントドロップが主素材で、今ある素材で作れる最高のものとなると?」


「……<狩人の弓(ハンティングボウ)>ですね。 トレントの枝と蜘蛛糸、それにワイルドウルフのなめし皮が必要です」


「……これまで気にしてなかったけどさ。 蜘蛛糸って……普通、切れるよね?」


「否。 仕様ですので」





<狩人の弓(ハンティングボウ)>の素材を並べて、魔法を使う要領で製作(クラフト)スキルを発動する。


 素材が淡い光に包まれて、宙に浮いたかと思うと素材が分解され、それぞれが光の玉へと変化する。

 クルクルと3つの光が球状に回ると、中心部に向けて集まりぶつかる!

 眩い光が放たれた後、その場には大きな光が一つ残って、その中から次第に弓らしきものが現れる。

<狩人の弓(ハンティングボウ)>の作成に成功したのだ。


「……鍛冶屋さんが見たら、ハンマーぶん投げてくるレベルの光景だよね、これ」


「是。 マスターのレベルのせいでパッとしない程度でも、店売りの品よりは性能が宜しいです。

 あまり大っぴらにはしない方が宜しいかと」


 考えてみると、現在のドラグーンの性能がイマイチなのも、スキルなしでパーツを再現しようとしているせいなんじゃないだろうか?

 実際、ボクもスキルで作成はできるものの、実際にイチから理論立てて設計なんて出来ないわけで。

 むしろ、よくそれを解析して再現できた、と褒めるべきなのかもしれない。


 つまり、ボクがいれば当時のスペックを再現したドラグーンが作れるという事になる。

 また一つ、ボクが狙われる理由が出来てしまった。

 アバター装備はともかく、ドラグーン用の製作(クラフト)スキルが使える事は絶対に知られないようにしないとヤバい……。


「マスター、基本スペックはイマイチとして、効果付与(エンチャント)をするのはいかがでしょうか?

 幸い、かなりの魔石が手元にありますが」


 アリスが横の空間にわき出た歪に手を伸ばし、中から小さな石を取り出す。

 インベントリから魔石を取り出したのだ。


 魔石というのは、モンスターを倒した際に素材と別でドロップする石である。

 巨獣からはそのサイズに見合った大き目の石が出てくることがあり、これらは効果付与(エンチャント)の素材として利用される。

 こちらの世界に来てからは死体から剥ぎ取りしないといけないためあえて集めてはいないけれど、ボクたちのインベントリにはドロップ品の魔石が捨てるほどにあるのだ。


 ちなみに、遺跡や鉱山からも魔石は発掘される。

 こちらは巨獣から出てくるもの以上に大型のものが多く、無属性であるという特徴がある。

 ドラグーンの制御系や心臓部はこういった無属性の魔石を加工したものが用いられる。

 設定では、モンスターの化石化した魔石などが集まって圧縮され、このような発掘される無属性魔石になるということらしいけれど……


 話を戻して、こういった魔石を用いることで、装備に特殊な効果を与えることができる。

 それが効果付与(エンチャント)だ。

 例えば、ボクのゴスロリ服、<ゴシックローブ>は5つの効果付与(エンチャント)を施されている。


 ・自己再生(破壊不可)

 ・物理防御(防御力アップ)

 ・魔法防御(防御力アップ)

 ・拡張(魔法範囲拡大)

 ・幸運(ドロップ率アップ)


 うん、壊れてるね。 でもこれ、普段着なんだ……

 素材集めなんかの時に使う用で、モブを片っ端から大火力で吹き飛ばしてドロップゲット、というコンセプトである。

 倉庫に入れてた本気装備のパイロットスーツは、ドラグーン戦に特化した効果付与(エンチャント)で埋めてあったのだけれど……また手にする時が来るんだろうか?


効果付与(エンチャント)もレベルは低いんだけど、まぁやってみようか。

 <狩人の弓(ハンティングボウ)>のスロットは……2か。 まぁまぁだね」


 インベントリから取り出した、森林竜(フォレストドラゴン)の魔石とその他モブの魔石を幾つか並べる。

 ちなみに、この前倒した森林竜(フォレストドラゴン)の物ではない。

 森林竜(フォレストドラゴン)道場に通っていた頃のものが山ほどあるのだ。


「アリス、弓用の効果付与(エンチャント)でおすすめは?」


「命中率アップや攻撃力アップといったステータス補助、あるいは貫通などの補助効果あたりでしょうか?

 ただ、マスターのレベルではそれほど強力な効果は付与できないと考えます」


 悩ましい所だ。

 エルフ組二人とも腕前があるので命中率アップはいらないだろうから、単純に攻撃力アップはつけるとしてもう一つは……。


 あまり高い効果を狙いすぎると失敗の確率も高くなる。

 なにぶんボクのスキルレベルはそれほど高くないので、どうしても100%成功にはならないのだ。

 失敗するとスロットが潰れる事になるので、その辺りも考える必要がある。


「……あ。 アリス、特殊矢装填はいけそう?」


「是。 少し成功率が危ういですが、50%くらいで付与できるものと推測します」


 よし、方針は決まった。

 後は……天に運を任せるのみ!




「ユーリさま、何か御用と伺いましたが……」


「あ、サリーナ。 昨日買った弓がイマイチっぽかったじゃない?

 なので、ちょっと弓と矢を作ってみたんだけど、どうかなと思って」


「ユーリさま……あの弓はイマイチどころか、かなり質の良い弓ですよ?

 あれでイマイチなんて言ったら武器屋さんに怒られてしまいます!」


 うーん……つっても、あれゲームスタート時の町の最高級程度でそんなに性能良くないと思うんだけど。


「まぁまぁ。 とりあえず試してみてよ……はい」


 何回か作り直してようやく満足の行く出来となった<良質の狩人の弓(ハンティングボウ)>を二人に渡す。

 ……え? 性能が上がってる? たまたまですよ、たまたま。


「……」


 あれ? サリーナが顔を引きつらせたまま固まっている。

 プロの狩人の視点から見て、何か気に食わない点でもあっただろうか?


「サリーナ? やっぱ物足りない? 一応これでもがんばった方なんだけど……」


 と、硬直から復帰したサリーナがまた表情を変える。

 あれ……怒ってる?


「ユーリさま! コレなんですか!」


「ご、ごめん! やっぱボクの作った物じゃダメだよね!」


「違います! こ、コレ、効果付与(エンチャント)付の弓じゃないですか!

 こんなの、里の長老でも作れませんよ! どこのダンジョンの財宝ですか、これは!」


 ……はい?


「しかも3つも効果が……なんですかこの自己再生(破壊不可)って! 普通弓は壊れます!」


「えー……?」


 困ったボクはアリスの方を見るが、アリスも若干困惑の表情を浮べている。

 ちなみに、ボクの狩り用装備には全て自己再生がついている。

 イチイチ修理するのが面倒だったからだ。

 アリスの服には性能重視でつけていなかったけれど、つけておけば血糊で汚れても綺麗になったのにと思わないでもない。


「それに、攻撃力アップに特殊矢装填……? ユーリさま、コレは一体?」


「あ、それね! どうせなら、色んな状況で使えると良いなと思ってつけたんだけど……

 ほら、この爆発矢や拘束矢、変わりダネで回復矢とか色々使えるように」


「……なにコレ。 矢に……全部の矢に効果付与(エンチャント)が……」


 あ、サリーナが倒れた。


「マスター」


「……なに、アリス?」


「やりすぎてしまいましたね。 マスターの悪い癖です」


「ちょ! アリスだって止めなかったじゃん! それにコレくらい普通でしょ、普通!」


「否。 私はマスターのモノです。 マスターのご命令には逆らえませんので」


「ウソだ! 最近逆らうし! いっつもお姫様抱っこするし!」


「否。 マスターは無意識では嫌がっておりませんので」




 結局後ほど目を覚ましたサリーナから、丁重に受け取りを拒否された。

 なんでも、高性能すぎて使うのが怖いとの事。

 一応なんかあったときに困るので無理やり押し付けたけれど、多分余程の事が無い限り荷物の奥にしまわれたままになりそうだ……クスン。



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