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ドキドキショッピング

「うわぁ……」


 ボクたちは町の広場に出てきた。

 面子はエステルとアリス、サリーナとリタ、それにボクだ。


 今の所町から出ることは許されていないものの、町の中での行動は自由にさせてもらっている。

 流石にずっと宿やギルドに篭っているとストレスも貯まるので、買い物に出てきたのだ。


 今回の目的はサリーナとリタの洋服や身の回りの物。

 半年の奴隷生活で殆ど荷物がないため、まずはその辺りから揃えていくつもりだ。


「ユーリさま! 人間の町ってこんなにお店が出るんですね! 私、初めて見ました!」


「うあー! おみせ、いっぱい……」


 エルフ組の二人が大騒ぎである。

 特にリタは興奮してフードを外しそうになり、エステルに頭を抑えられている。


「まぁ、しょうがないか。 しかし、もう少し人というか、男を怖がるかと思ったんだけど」


「否。 今は見慣れぬ町で興奮しているのでしょうが、一時的なものです。

 今のうちに買い物を済ませて、宿に戻った方が良いでしょう」


 そうすると、極力男を近づけさせない方がいいな。

 はしゃいでいる所悪いけれど、流石にあの屋台の方には近づけないようにしよう。


「お姉ちゃん! 二人が先に行っちゃうよ! 早く、早く!」


「はいはい。 アリス、いこっか」


 ボクが振り返りながら手を差し出すと、そっとアリスが手を握ってくれた。


「……是」


 そのとき、ほんの僅かアリスの表情が優しく崩れたような気がした。

 そして、その頬に少しだけ紅色に染まっているように見える。


 気恥ずかしくて、ボクは手を握ったまま前を向いて歩き出した。




「いらっしゃいませ!」


 ボクたちは以前にも訪れた服屋さんを訪れた。

 ちなみに、今日のエステルは前にこのお店で買った服を着ている。

 ボクはゴシックローブのまま……効果付与(エンチャント)のおかげで汚れないんだよね。


「綺麗な服がいっぱいですね……私たちは自分で作る事が多いので、新鮮です」


「アレだったら布地も売ってると思うけど、そっちにする?」


「いえ、せっかくですのでこちらで買いたいと思います。

 ……すみません、ユーリさま。 私たちお金がなくって……」


「気にしなくていいよ。 ボクの方こそ恩を少しでも返させて欲しいしね」


 ちなみにボクのインベントリが復活したので、普通にドラグーンを維持しても困らない程度のお金が手元にある。

 まぁ、資材の方が足りないんだけど……。


 と、奥の方からもう1人店員さんが出てきた。

 あ……嫌な予感がする。


「いらっしゃいま……あぁあぁあぁあ! 私の天使! マイ天使がここに! 

 しかも、ゴスロリ! あぁ……その幼い容貌にエロスを引き立てる黒と白のフリルが!

 しかも何層にも重なったパニエとオーバーニーの間からチラチラ見える白いふとももが私を淫靡に誘ってくる!

 うはぁ、たまらん! その幾重にも重なった布地の奥の柔肌を見たい! 触れたい! 味わいたい!」


「……失礼しました」


 踵を返してその服屋を立ち去ろうとする。

 そういえば、さっきの店員さんが前回も暴走したんだったか……


「ま、待って! お客さんに帰られると給料下げられちゃう!

 大人しくするから! 手出しませんから!」


 ジト目で見つめながら、念のため問いかける。


「……本当に?」


 と、急に挙動不審になった店員さんが、明後日の方向を見ながら口を開く。


「……多分」


 ボクはギュッとアリスの服の裾を掴んで、後ろに隠れた。

 この店員には気をつけないと殺られる!




「サリーナはやっぱりいかにもエルフって感じだし、この緑のワンピースかなぁ?」


 呪われた島の金髪エルフが着てたような服を見つけたのでサリーナに重ねてみる。

 んー……やっぱりスレンダーなエルフには似合うな。


「ユーリさま、ちょっとスカートが短くて恥ずかしいんですが……」


「大丈夫。 どんなに動いてもスカートの中は見えないはず」


「……マスター、それはアニメの中だけの話です」


 となりでは、エステルがリタの洋服を選んでいる。


「リタちゃん、おっぱい大きい……お母さんみたい!」


「うあー?」


 こらこら、そこ公衆の面前で胸部装甲を揉みしだいちゃダメでしょう……

 と、ついアリスの胸に視線が行く。

 うん、大きさも形もアリスの方がボクの好みだ……。


「マスター、目がいやらしいです」


「ハッ! まさか、このマイ天使は百合ッ娘……!?

 たまらん! おかわり3回はイけてしまいます!」


「や、やらしい気持ちはないから!」


「……そういう事は、宿でお願いします」


「……え?」


 アリスを見上げると、表情に変化は無い。

 うーん、聞き間違いだろうか?




 サリーナとリタの服を3着ずつ、ついでにエステルの服を1着買って店を出る。


「あぁ……マイ天使、カムバーック!」


 今日も例の店員さんの暴走で値引きして貰えたのが良かったのか、悪かったのか。


「ユーリさま、こんなに沢山買っていただいてありがとうございました!」


「いや、気にしないで。 さて、他に何か欲しいものはある?」


「そうですね……よろしければ弓やナイフといった装備があると、里に帰った後狩りをしてお金をお返しできるんですが」


「別に返してもらわなくてもいいんだけど……でも、装備はあった方がいいね。

 アリス、この辺りに武器屋ってあったっけ?」


「是。 マスター、案内致します」


 アリスに手を引かれ少し歩いた先に、小さな看板の出ている店があった。

 看板に比べるとかなり大きな店のようで、裏の方からは鋼を叩く音と煙が上がっている。


 店の扉を開けると、所狭しと剣や槍、ナイフや弓といったいわゆるファンタジーな武器がズラリと並んでいた。

 こういうRPGのお約束みたいなのは、実際に体験するとなるとやはりドキドキしてしまう。

 ゲームだとやっぱりメニュー選択で味気ないからね……。


「……いらっしゃい」


 無愛想な、筋肉でムキムキのおじさんに声をかけられた。

 恐らく、本業鍛冶師のおやっさんと言った所だろうか。


「あのー、弓とナイフを見たいんですけど……」


「そっちの奥だ。 だが、弓はお前さんのような子供に扱えるようなものはないぞ?」


「後ろの二人が使うので大丈夫です。 サリーナ、好きなの選んで? リタは……使えるのかな?」


「里では私より上手かったんですけど……リタ、弓使えそう?」


「うあー?」


 リタは小首を傾げて返事をするも、よくわかっていないようだ。

 うーん、使えるなら装備しておいた方がいざと言う時の為にもいいんだけど……。


「……おじさん、弓、試し撃ちってさせてもらえたりする?」


「店の裏に丸太が立ててある。 そいつに向かって撃てばいいさ。

 あぁ、でも使った矢は買い取ってもらうからな?」




 サリーナが選んだ弓と矢を手に、店の裏で試し撃ちを始める。

 サリーナは、流石に手馴れたもので5本の矢を全て丸太に当てる事が出来ていた。


「わぁ……サリーナちゃん、上手!」


 エステルがベタ褒めをしている。

 うん、里でボクたちも練習してたけど、ほとんど的に当たらなかった記憶がある。

 あの距離で外さないのは流石エルフと言った所だ。

 でも、ボクだって銃だったらあれくらい簡単だから!

 だからエステル、ボクの事も褒めてくれても良いんだよ?


「さ、リタ。 あそこの的を狙うの。 出来る?」


 サリーナがリタに弓を手渡すと、リタはすごく自然に弓を構え、そしてスッと矢を放った。


 タンッ!


 小気味良い音を立てて、丸太の中心に矢が突き刺さる。

 と、そのまま流れるように次の矢を構え、狙いをつける間もなく次の矢を放つ。


 パキンッ!


 的の方に目をやると、残念ながら矢は先ほどの一本のみが突き刺さっていた。

 ……いや、違う。

 丸太が刺さっている地面を見ると、そこには二つに分かれた矢が落ちていた。


「……すごいですね。 後から放った矢が寸分違わず前の矢と同じ所に飛び、前の矢を割りました。

 これは私でもできそうにありません」


 アリスが驚いているのか、若干の間をあけて感嘆を述べた。

 実際ボクも驚いている。 そんなのマンガとかでしかありえないレベルでしょ!


 続いてリタが3本の矢を指の間に挟み持って、解き放つ。


 タタタッ!


 もう予想はついたとおり、3本の矢が一糸乱れず縦に並んで突き刺さる。

 もう言葉もない。 これは人間辞めているレベルの腕前だ……人間じゃなくてエルフだけど。


 満足したのか、リタがこちらを振り返って笑顔を浮べる。


「うあー!」


 それと相反するように、ボクたちは恐ろしいものを見たという驚愕の表情を浮べていた。




 試し撃ちした弓矢に加えナイフをそれぞれ購入して、ボクたちは宿に戻った。

 エステルは、早速先ほど買った服に着替えるため部屋に戻っている。


「ユーリさま、今日は本当にありがとうございました!

 里に帰ったら、きっとお返しいたしますね!」


 サリーナがペコリと頭を下げる。

 そんなにありがたがられると、困ってしまうんだけど……


 エルフ組とも別れ、食堂でアリスと二人お茶を飲み始めた所で、アリスが口を開いた。


「ところで、マスター。 今更なのですが、二人に渡すのはあの武器でよろしかったのですか?」


「ふぇ? 使いやすいって事だったし良かったと思うけど、何か問題あった?」


 その為に試し撃ちまでしたんだし、特にリタのあの腕前を見る限り問題があるようには思えないけれど。

 むしろ、鬼に金棒と言った感じで逆に渡してはいけないものを渡してしまった感すらあるというのに。


「いえ、そうではなく。 ドラグーン関連の製作(クラフト)スキルの前提条件で、アバター用装備の製作(クラフト)スキルを取得されていたと記憶しております。

 あのような市販品ではなく、マスターが作成された方が性能が良いように思いまして」


「……」


「マスター?」


「……あぁぁぁぁっ! 忘れてたっ!?」


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