表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/74

YESロリータNOタッチ

 

「もう! また無茶をして! なんで次から次へと事件に巻き込まれるの!?

 まったく、親の顔が見てみたいわ……」


「お母さん、……鏡いる?」


 次の日、心配をかけただろうとカレンさんの所へ行くと、案の定叱られてしまった。

 流石のアリスも口を開こうとするたびキッ! と睨まれるので、何も言えず叱られるままとなっている。

 ちなみに、エステルはとっくに逃げ出して今頃リタさんと遊んでいると思われる。


「で? 次はエルフの隠れ里に行く? また危ない所に行こうとするんだから……」


「ごめんなさい。 で、でも今度は危なくはな……」


「危ないの! 普通は、魔物が出る所なんて安全じゃないの!

 はぁ……少し目を離すとこれだからもう……」


 カレンさんがあきれたようにため息をつく。


「決めたわ。 私もエルフの隠れ里についていきます。

 いいわね? 勝手に1人で行ったりしないこと!」


「ちょ! 1人じゃなくて、アリスもエルフの知り合い二人もいるし……」


「言い訳しない! アリスさん、これで馬車を見繕っておいて。

 家を借りようと思っていたけれど、これだけあれば馬車が充分買えるわ」


 引き出しから、カレンさんが重そうな袋を出してアリスに手渡す。


「是。 承りました。 では私は早速馬車の手配に行ってきます」


 そそくさとアリスが席を立つ。

 奴め、1人だけ逃げる気だ!


「あ、ボクも一緒に見てくるよ! お母さんが快適に過ごせる馬車を選ばないとね!」


 早口でそれだけ言うと、ボクもアリスの後を追って病室を出る。

 後ろからカレンさんの怒鳴り声が聞こえてくるけれど、ボクは何も聞いてない。




 ------




「まったくもう……私がどれだけ心配してるのか、わかってるのかしら……?」


 髪をかきあげながらため息をつく。

 と、視線が自分の下半身に向いてしまう。

 この動かない足が恨めしい。

 自由に動きさえすれば、あの子たちのそばを離れないのに。


 カツン。


 床を硬いものが叩く音がする。


「母親業というのも、なかなかに大変なものでござるなぁ?」


 落ち着いた声が、私の元へ届く。

 視線を上げると、全身を包帯で包んだ男が立っていた。

 村で最後まで一緒に戦った……村長の息子だ。


「村長代理。 もう動けるようになったの?」


「デュフ、もう村はありませんからな。 拙者のことは名前で、ローリーと呼んで下され」


 ローリー、何の冗談か生粋のロリコンである彼はそんな名前らしい。

 正直、ただのどら息子と思っていたので村では名前など気にした事はなかったのだけれど。

 エステルとユーリという二人の娘を抱える親としては、彼の事を警戒していたことは間違いではないだろう。


 しかし、あの日から少し彼を見る目は変わったと思う。


「ローリーさん、あの子に会わなくて良かったの?

 あれ以来まだ一度もあの子にもエステルにも会っていないのでしょう?」


「会いたいのはやまやまでござるが、この姿では……

 あの二人に余計な心配と罪悪感を植え付けるだけでござるよ」


 カツン、と床を叩く音がする。

 その音の元は失った右足から伸びた木の棒。

 みれば、左手も袖から先がなくゆらゆらと中身のない袖が揺れている。

 そして、右目には眼帯。 その中身は恐らくないのだろう。



「ごめんなさいね。 あの時、あの子を守ろうとしなければ少なくともその腕と足は……」


「なに、幼女を守るのが紳士のたしなみでござる。

 YESロリータNOタッチの精神を忘れた者が天使に触れるなど……言語道断でござるよ」


 冗談めかした様に彼は言う。

 果たして、彼は私にも余計な責任を負わさないようわざとそう言ってくれているのだろうか?

 あるいは、本心から幼女趣味が極まってしまっているのだろうか?


「カレン殿も、聞けば下半身が動かないとの事。

 彼女らに余計な負担を与えると心労しておられるのだろうが……」


「……そうね。 貴方と一緒ね」


「なに、拙者とは違うでござるよ。

 彼女らはもうカレン殿の障害は受け入れている。

 だから、カレン殿はいつもどおり、彼女らの母親をすればよかろう」


 包帯から除く遺された彼の目は優しい。

 幼女趣味のぼんくら息子という認識は、改めた方が良いかもしれない。

 ……ぼんくら息子という所だけ。


「ローリーさんはこれから……?」


「おお、それでござるよ。

 拙者、あの日よりひとつ夢ができましてな。

 親父殿の賠償で幸いしばらくは食うに困らぬゆえ、そちらに専念しようかと」


「夢……ですか? しかし、そのお身体では……」


「デュフフ、なに、まだ右手が残っておりますれば。

 ……この前の村での戦。 公的には存在しなかった事にされると聞いたのでござる。

 だが……死んで言った村の者たちまで存在しなかった事にされるのは我慢ならん。

 よって拙者……歴史を書き残そうと思うのでござるよ」


「歴史を……」


「いや、違うな。 拙者、あの日の空に舞った桜が忘れられんのでござるな。

 だから、これから拙者はユーリ殿の事を追って生きたい。

 追って、その全てを書き残す所存でござるよ」


 その姿は誇らしく。

 失ったもの以上のものを得た喜びが溢れていた。


「……本音は?」


「無論、ユーリ殿とエステル殿……我が天使たちを余さず見つめ続けたいでござるよ。

 デュフフ、特にユーリ殿はエルフ幼女……年をとらず永遠に幼女などと、正に拙者の理想ではござらんか!」


「……エルフは成人するまでは人間と変わらず成長するの、知りません?」


「なんと!?」


 先ほどユーリたちの前でした決意に、ローリーを娘に近づけさせないという新たな一文を加え私は気持ちを新たにする。




 ------




 彼、ローリーは後にその言葉通りにユーリの活躍を収めた、1冊の本を著する。

 その本はユーリ側の視点に立って記述をされた唯一の本であり、後の歴史家にとりユーリ側の心情や行動理由を知るのに重要な文献として扱われることとなる。

 ただ、彼のあまりにも詩的な表現と明らかに一方に寄った解釈のため多数の説を生む要因となったことも否めない。


 しかし、そのユーリを称える一冊は演劇や歌など、芸術の分野では高く評価され後々までもその題材の原案として受け継がれていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ