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煉獄の炎

 

「ク……貴様などに、エルフ如きに敗れるというのか、この私が!」


 武器を失ったアロミリナは、魔導兵装(ソーサリーウェポン)をこちらに向け爆発(エクスプロージョン)の魔法を乱射してくる。

 もはやそれしか武装がないとはいえ、このような使い方をしていれば出力は急激に低下してしまうだろう。

 もやはやぶれかぶれの攻撃となってしまっている。


『マスター、念のため自動防衛(オートガード)を開始します。

 任意の終了の際は指示を』


 セラサスの両肩の装甲が展開され、中から一対の巨大なクリスタルが現れる。

 紅い装甲に埋め込まれたそれは、起動とともに内部へ魔法陣が浮かび回転して光を放つ。

 それぞれが物理、魔法に対する防御魔法用の魔法陣である。

 この機構は、それらの防御用の魔法を自動展開するための魔導兵装(ソーサリーウェポン)なのだ。


 自動防衛(オートガード)のを発動するとともに、アロミリナの放つ爆発(エクスプロージョン)はその影響をほぼ打ち消されていた。

 セラサスの前面に壁でもあるが如く、爆炎とその衝撃はそこで途切れてしまうのだ。


 真っ赤な火の壁がその勢いを失うと、そこにあるのは変わらず無傷なセラサスの姿。

 もはや、アロミリナにはセラサスを打倒せしめる攻撃力を残してはいなかった。

 しかし……


『マスター、北方向より敵性存在の接近を確認。

 60秒後に10機接敵(コンタクト)


「ク……、流石に貴様のその強さは想定外であったが、先ほど増援を呼んだ。

 いくら貴様とて、騎士の一団を相手には出来まい?」


 先ほどまでの余裕の無さから一転、嘲笑すら含む声色でベルファウスが語りかける。


「さぁどうする? 今ならまだ許してやろうではないか。

 なんなら、私の部下として貴様も……」


「……黙れ」


 ボクの右手がキーの上で踊ると、それにあわせて再びセラサスの右手に銃が現れる。


「や、やめろ! 増援がきたら貴様は……」


 アロミリナにその銃口を向けると、そのまま流れるように3発の銃弾を解き放つ。


 頭、右腕、そして肩にアームで固定された魔導兵装(ソーサリーウェポン)

 ほぼ同時にそれぞれの箇所で小さな爆発が起き、打ち抜かれた各部が大破する。


「……とりあえず、これで継戦能力は奪った。

 さて、それじゃ団体さんのお出迎えは、大きいのでいこうか」


 モニターの視界には、ようやく到着した先着の10機が映り始めている。

 全て黒い汎用のアロミリナ……恐らく特筆するような能力もないだろう。


 ボクはセラサスを空中で停止させ、右手のキーで大きいの……戦略級魔法の準備を始める。


 戦略級魔法とは、極論を言えば威力の強い魔法の事を指す。

 ドラグーンに乗っていない状態であれば、本来はカンストに近いアバターが複数人集まってようやく発動できるレベル、と言えばその規模が理解してもらえるだろうか?

 この世界の現在の機体性能では無理だろうが、エタドラではドラグーンに騎乗し魔導兵装(ソーサリーウェポン)を用いる事で単機発動を可能とすることが出来る。

 元々ドラグーンとはこのような戦略級魔法を単機で発動することを目的として開発された……という設定もあったりするのだけれど。


 そんな戦略級魔法だが、2点ほど問題がある。

 一つは溜めが長い事。

 今のセラサスのように発動まで完全に動きを止める必要がある。

 なので、普通の対人PVPでは早々使うことが出来ず、メインは勢力間PVPの切り札として使用される事が多い。


 そしてもう一つの問題。

 それが……


「えっと、呪文(スペル)忘れたからテロップお願い」


『是。 サブモニターに表示します』


「何々……むにゃむにゃは第二の死?

 ……アリス、読めない」


『……是。 ルビを振ります』


 そう、戦略級魔法は呪文(スペル)を実際に読み上げて詠唱(キャスト)する必要があるのだ。

 無論、その分時間もかかるし、何より……


「えっと……()は第二の死。

 ……って、やっぱり厨二すぎてちょっと恥ずかしい」


『私以外聞いておりませんので存分に唱えてください』


「うがーっ!」


 恥ずかしいのだ。

 多分エタドラの開発者の趣味だ。

 呪文の音声入力が発動の必須条件というのは当時かなり不評で、修正要望も上がっていたものの一向に修正されなかった曰く付きの仕様である。

 呪文をしっかりと音声入力しないと発動しないのだけれど、騎士(キャバリエ)にはこれを素で読み上げられる精神力が求められたのだ。


「……()は第二の死。 ()も無き命の記されぬ者よ、永遠の火でその身を焼き尽くされん」


 恥ずかしさを堪え一気に呪文(スペル)を読み上げる。


 それとともに、セラサスの胸部装甲が展開して砲口が覗く。

 その奥には紅い巨大な魔石が設置され、呪文(スペル)とともに灯った光が強くなっていく。


 戦略級魔法は通常の魔法と異なり、制御用の魔法陣を用意する必要がある。

 その為、通常の魔法を発動する為の魔導兵装(ソーサリーウェポン)とは別に、専用装備を設けられることが多い。

 そうしないと、やはり巨大になりすぎてしまうためだ。

 セラサスの場合は今展開している胸部に専用の魔導兵装(ソーサリーウェポン)を組み込んでいる。


「……煉獄の炎(ゲヘナフレイム)


 詠唱(キャスト)を終えると、セラサスの胸部に黒い炎が生み出され、圧縮されて小さな球状へと変化する。

 そして、こちらへ向かってくるアロミリナに向かって射出されたそれは、一定の距離を進んだところで消失した。

 否。 一瞬姿を消したそれは、次の瞬間10機のアロミリナの中心に転移した。

 そして……


 世界が音の無い衝撃に包まれる。


 圧縮された黒い炎は、現れたその場所で開放され、その周囲を黒い炎で覆い尽くす。

 その黒い炎は、触れた物を一瞬で燃やし、焦がし、溶かし、消滅させていく。


「な……!」


 黒いアロミリナに騎乗していた10人の騎士(キャバリエ)たちは、何が起こったのか理解する間もなく、その機体と運命を共にする。

 腕から、足から、胴体から……黒い炎が触れた所から炎が浸食し、やがて機体の全てを覆い隠してしまう。

 黒い炎はやがてコクピットへと到達し、その黒い指先を騎士へと指し伸ばしていく。

 払いのけようとも、その振るわれた腕が黒い炎に触れるや否や、触れた部分から腕へと浸食し余計に黒い領域を広げてしまう。

 水をかけようとも、けっして消える事のないその炎はより勢いを増して全てを焼き尽くそうと蠢く。

 そして断末魔の悲鳴を上げることすら許さず、黒い炎は燃え上がり10人の騎士を喰らい尽くしていく。


 ……しばらくの後、炎が急速に拡散していった後には、灰のひとかけらすら残さず全てが消え去っていた。


『マスター、敵機完全消滅。

 発動地点より最大半径2km内が消滅したものと推測します』


「……やっぱりひどいね、これ。

 恥ずかしい呪文いるし、封印しよう」


『否。 必要であれば使うべきです。

 呪文は私しか聞いていませんので問題ありません』


「それが恥ずかしいんだけど」


『否。 問題ありません』


「……はいはい」


 あまりの凶悪さに我ながら若干引いてしまったものの、気を取り直して

 白いアロミリナに意識を戻す。


 流石に戦闘能力は奪ってやったので大人しくしていたようだ。

 まぁ、反撃してきたらきたでまとめて吹き飛ばそうとか思っていたんだけれど。


「さて、待たせたね。

 騎士団長殿、続きをやろうか?」


「ま、待て! 降参だ、降参する! か、金か? 金だったらいくらでもやろう!」


 ベルファウスが醜い命乞いをする。

 どうやら、先ほどの戦略級魔術で完全に心を折ってしまったらしい。

 まぁ、こういう場合の回答は唯一つ。



「だが断る」



 その後、ベルファウスの身柄は拘束されその沙汰を待つこととなる。

 東方騎士団は今回の1件でその保有戦力の大部分を失った事となり、これから灯台を見失った船のように

 行く先も見えぬまま大きな波に翻弄されることになるだろう。


 そして、ボク自身も騎士団の大部分を壊滅させた原因として、普通であれば反逆罪すら適用されかねない身の上となった。

 正直、安全に家族とのんびり暮らしたいという思いとは裏腹に、より険しい道へと自ら歩み寄っているように思えたりもする。


 兎にも角にも……こうして、騎士団との戦いは終わりを告げた。




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 後の歴史書において、公的な記録の残る伝説級(レジェンド)ドラグーン、セラサス・イェドエンシスの戦闘記録としては初となるのが、このウェルチの町周辺で発生した森林竜(フォレストドラゴン)討伐より始まる一連の戦い(東方騎士団事変)である。


 特に、単機で1騎士団を全滅させたという対軍戦は、現在でも歌や小説の題材として人気が高い。

 なお遺されているその内容は、例えば全滅させた数は冒険者ギルドの報告書では十数機、王国で保管されている年代記では数機と記載されているように、表記が一定しない。

 これは、現在もなお歴史家たちによる研究が進められており、今の所隊長機を含む5機程度(1分隊相当)であったのではないか、という説が主流となっている。


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