幼女尋問
ほんのわずかばかり幼女に対しての尋問要素があります。
ご不快な方はその最初と最後だけ読めば話が繋がるかと。
「こっちに入ってろ!
へへ、お前さんみたいに小っこいエルフは貴重だからな。
後でたっぷりとイイ事してやるから大人しく待ってろ!」
「余計な事を言うな、行くぞ!」
無機質な錠前のかかる音の後、二人の男が階段を上っていく音が聞こえてきた。
ここはウェルチの町にある騎士団駐屯地の地下牢獄だ。
思ったよりは綺麗だが、よどんだ空気と湿った床はきっと慣れる事は出来なさそうだ。
あの後、ボクらは騎士団の包囲に対し抵抗せず、大人しく捕まった。
抵抗したとして、最終的にドラグーンを持ち出されたら勝ち目がないだけでなく、周りに被害を及ぼしそうだったからだ。
だが、捕まったのはボクらじゃない。 ボクだ。
アリスには逃げて貰った。
ボクでは逃げきれないし、万一逃げきれてもアリスを助けることは出来ない。
なにしろ、もうセラサスも起動できないのだ。
なので、アリスだ。
アリスなら、この世界でも有数の実力を持つだろう彼女ならボクを助けられるかもしれない。
要は可能性の高い方に賭けたということだ。
とはいえ、何の考えもなしにボクも捕まってはいない。
セラサスは追跡モードで格納されているため、どこにあるかはボク自身よくわかっていない。
であれば目的がセラサスである以上、その呼び出し方法を知っているボクを殺すわけにはいかないはずだ。
その証拠に、ボクの首にはリリアナさんたちと同じように首輪をつけられていた。
だから、助けを待つ間に時間を稼ぐ。
とりあえず今は体力を温存しよう。
ボクはゆっくりと目を閉じると、睡魔に身を寄せる。
既にこの身体で起きていられる時間の限界を超えていたのだろう、何も考える間もなくボクの意識は閉じていった。
「オラ、起きろ!
騎士団長がお呼びだ! さっさと出ろ!」
次の日の目覚めはそのようなダミ声から始まった。
昨日ボクを牢に入れたうちの一人、嫌らしい感じの奴だ。
ノロノロと牢を出ると、案の定尻に手を伸ばしサワサワと撫でてくる。
ゾワッ! と悪寒が走るが、とりあえず我慢をする。
このロリコンめ!
やはり元男だけあって男に触られても気持ち悪いだけだな。
実際ボク個人の嗜好も完全に男目線……女にしか興味がない。
まぁ、幼い身体のお陰でほとんど性的欲求もないから助かっているけれど。
というわけなので、正直そっち路線で拷問されると耐えられる自信はない。
2階まで昇りしばらく歩くと、多少豪華な扉が目の前に現れる。
「隊長、連れてきました!」
「入れ」
男が扉を開くと、そこは小奇麗な執務室であり、一つだけ置かれている机には騎士団長ベルファウスが座っていた。
そして、その横にはリリアナさんとコルネリオさんが立っている。
顔色は青く、すまなさそうな表情を浮かべている。
「ふむ、ユーリと言ったか。 いやいや、大活躍だったようだな」
ベルファウスは手でもてあそんでいたボクのギルドカードを眺め、机の上に投げ出した。
「クク、ハイエルフか。 おっと、魔法は使えないぞ。
君の首を締め付けるその首輪は、魔封じの首輪だ。
なに、仮にもエルフの王族を隷属などしないとも。
……しかし今になってハイエルフが隠れ里より出てくるとはねぇ。 何か理由が?」
ボクは答えない。
というより、答えようがないのだけれど。
だが、ベルファウスはボクの無言を別の意味で捉えたようだ。
「……コルネリオ。 命令だ。 リリアナを殴れ」
二人の顔が歪む。
リリアナさんはコルネリオさんと視線を合わせると軽く頷く。
そして……
「……すまん」
コルネリオさんの握り締めた拳がリリアナさんのみぞおちに突き刺さる!
「なっ!? なんで!」
「見苦しいものを見せたな。 君が私の問いに答えてくれないものだから、つい命令してしまった。
君が素直なら、私も八つ当たりなどしなくてすむのだが。
さて、もう一度聞こう。 隠れ里から出てきた理由は?」
ボクは唇を噛み締めてから答える。
「……記憶喪失で判らない。 気が付いたらココルネ村近くの森の中にいた」
「そうかね。 では続けて聞こう。 森林竜を倒したのは君かね?」
「……そうだよ」
ベルファウスを睨み付けながら答える。
「よろしい。 では、本題に入るとしよう。
森林竜をも討伐する、君のドラグーンが欲しい。
君のドラグーンはどこかね?」
「わからない」
やはり、リリアナさんの言っていた通り奴の目的はセラサスだったようだ。
だが、ボク自身わからないものを聞かれても答えようがない。
だから正直に答える。
「……コルネリオ、再度命令だ。 リリアナを……」
「待てっ! 本当にボクにはわからないんだ!
あの時逃げた仲間にしかわからない!」
半分本当だ。
あの時、アリスにセラサスを呼び出す腕輪を預けた。
魔力弾倉さえ手に入れば、アリス一人でもセラサスを起動して動かす事は出来る。
その辺りを見越しての行動だ。
「そうか。 コルネリオ、リリアナを殴れ」
「ゲハッ!」
再びコルネリオさんの拳がリリアナさんの腹に突き刺さる。
「なんでっ! 本当の事を言っているのに!」
「言っただろう、これは八つ当たりだと。
本当のことだろうがなんだろうが、私の求める答えではなかったということだ」
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいないさ。 どうせ今はまだ真偽判定の魔法を使える審議官が到着していない。
君の言葉の真贋を判定できない今はまだ余興にすぎんよ」
ベルファウスは足を組み替えて続ける。
「私は面倒は嫌いだ。 本格的な尋問の際には、もう少し素直になってくれている事を期待しよう。
君は見た目よりも頭が回るようだ。
子供だからそれほど手荒にはされない、自分には商品価値があるから犯されない。
そのような事を考えているのだろう?
……だが、君も判った通り君に手を出さずとも君の心を折る事など、容易なのだよ」
リリアナさんたちの方を見ると、気にするなとばかりに微笑みを浮かべている。
だが、眉を寄せた今の表情は逆に痛々しい。
ベルファウスが指を鳴らすと、背後に待機していた男が再びボクの手錠に繋がれている紐を掴む。
「今日はここまでにして置こう。 続きは明日だ。
……あぁ、そうそう。 幼い君にはあの牢屋はつらいだろう。
私からのプレゼントを用意しておいた。 少しでも君の心の慰めになることを祈ろう」
ボクは唇を噛み締めながら退室する。
唇が切れ、一滴の血が執務室のじゅうたんを汚す。
高そうなじゅうたんだが、染みにでもなればいい。
悔し紛れにそんな事を考えながら、ボクは牢に戻ることとなった。
「お前さんも大変だな? 団長の尋問はきついからな……。
明日は素直になることをオススメするぜ。
しなくていたぶられるのを見るのも楽しいけどな!」
男はゲヘゲヘと下品な笑い声を上げながら牢を立ち去っていく。
ボクは、正直な所かなり心を折られていた。
所詮ただの学生だったボクに、尋問なんて耐えられなさそうだ。
まだ今日はお遊びみたいなものだっただろう、明日から始まる尋問が恐ろしい。
……アリス、早く来てくれ。 ボクは長くは持たない。
と、その時向かいの牢から微かな声が聞こえる。
「……貴方も捕まったの?」
鈴の鳴るような綺麗な声。
薄暗い地下牢でも目立つ、金の髪。
「私はサリーナ。 貴方は?」
そこには、この世界に来て初めて出会う種族。
そしてボクが会いに行こうとしていた。
ボクの同属……エルフがそこにいた。




