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異世界の空に桜舞う~幼女エルフのドラグーン無双伝~  作者: RULIA
第1章 穏やかな日々、そして・・・
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こんにちは、異世界

 目を覚ますと、ボクは暗闇の中にいた。


 頭がボーっとして、意識を失う前に何があったのかモヤがかかったようでハッキリと思い出せない。


 えっと、駅のホームで、乱華から電話があって……


 それで……


 と、唐突に思い出した。

 意識を失う前、線路に落ちて、衝撃で身動きが出来なくて……

 それで……多分、電車に、轢かれたんだ。


 それから、最後に見たあの姿。

 アイツは……この前の大会で決勝を争った、ロキさん……いや、ロキだ。

 アバターの姿は思い出せないけど、表彰式で見たあの姿は思い出せる。


 そうか、アイツがボクを線路に突き落としたのか……


 そう理解した瞬間、ボクの身体を沸騰したかのような殺意が駆け巡る。

 こんな憎しみはこれまでの人生で一度も感じたことがない。


 そりゃそうだ。 殺されたのは、これまでの人生で初めてなんだから。

 そんな事を考えると、膨らんだ殺意が急速にしぼみ、おかしくなって少し噴いてしまった。


 どうやら、笑う事で少し冷静になれたようだ。

 相変わらず回りは真っ暗で何も見えないが、少し身体を動かすと指先から何かに触れた感触が返ってきた。


「……死後の世界って割には、感覚はあまり変わらないな」


 手を動かせそうだったので、ゆっくりと顔に近づけてほっぺたに触れてみる。

 指先とほっぺたが触れ合う感触も生きていた頃と変わらない。

 そのまま、つねってみる。


「……痛い。 夢、じゃない」


 なるほど、死んだ後も痛いのか。

 これは、天国だったらいいものの、地獄だったら死にそうなくらい痛い目に会いそうだ。

 まぁ、死んでるんだけど。


 とりあえず、身体を起こそうとすると、ガツン!という音とともに額に強烈な痛みが走る。

 何かにぶつかったようだ。

 涙目になりながら(見えないけど)、手探りで周りを探ってみると、どうやら手を広げるには物足りない程度の広さの空間の中にいるようだ。


「そういや、昔読んだホラー漫画でこんなのあったっけ。 死んだと思ったら実は生きてて、でも棺桶の中でそのまま火葬されて……」


 嫌な想像が浮かんできたのを振り払って、今度は顔の前あたりの空間を探ってみる。


 ピッ……


 と、暗闇の中から電子音が鳴るとともに、急に目に緑色の光が飛び込んできた。


「っ!?」


 それほど強くない淡い光だけれど、それはずっと暗闇の中にいたボクには眩しすぎた。

 ギュッと目を瞑って、慣らすようにゆっくりと目をあけると……


「ふぁっ!?」


 目の前に広がるのは、見慣れた、モニター、レバー、キーボード……

 それは、昨日も目にしていた、風景。

 ドラグーンのコクピットの風景だった。





「なんだこれ…… ボク、電車に轢かれたんだよな? なんでエタドラをプレイしてるんだ?」


 周りを見渡して見ると、やはりいつものコクピットのようだ。

 違いは、いつもならもっと明るく、外の様子を映し出すモニターが真っ黒のまま沈黙を保っている事だろうか。

 今、コクピット内の様子は各所に配置された安全灯の僅かな緑色の光だけが照らし出している。


「どうやら、ドラグーンのコクピットってのは間違いないな。 これ、動くのか……?」


 ぼんやりとした光を頼りに、ゲームで起動スイッチがあった辺りを探してみると、やはり同じ場所に起動スイッチを見つける事が出来た。

 そっとスイッチを入れてみると……


「……何も、起きない」


 その他のボタンやレバー、キーボードを操作しても何も反応がなかった。


「もしかして、これコクピットに閉じ込められてる?」


 若干不安が湧き上がってきたボクは、最後に終了ボタンに手を伸ばした。

 通常であれば、ドラグーンのコクピットモードを終了しフィールドへ戻る機能となるボタン。

 これを押して何も反応がなければ……


「ハハッ、コクピットは好きだけど、さすがにずっと閉じ込められてるのはゴメンなんだが」


 震える指先がボタンに触れ、ゆっくりと押し込んでいく。

 だが、反応は……ない。


「……ダメ、か。 まぁ、コクピットで死ねるなら本望かな……もう死んでるけど」


 と、諦めかけた瞬間だった。


 空気の抜ける音がして、ゆっくり、ゆっくりと暗闇に光の線が走り始める。

 その線は次第に大きくなって、ボクの目に強い光が差し込んできた!


「っ!」


 真っ白な世界を写すその目が、次第に色を取り戻していく。

 そして、完全に色を取り戻した世界は、緑と青で埋め尽くされていた。

 森の木々と……雲ひとつない空。


「開い、た……?」


 ゆっくりとコクピットから外に出ると、森の香りのする空気を思いっきり吸い込む。

 そして、滑らないよう気をつけて地面へと向かい降りていく。


 トンッ!と最後の一歩を飛び降りて、周りを見渡すと先ほどコクピットから見たのと同じ森の中の風景が広がっていた。

 違いは、視点が低くなったことにより鬱蒼とした森の木々に阻まれ空が見え辛くなっているくらいだろうか。


 そして、今降りてきた後ろを振り返る。

 木々の隙間から差し込む光を反射して、白く輝くエーテライト装甲。

 その巨大な勇姿が、ボクにとって見慣れた、でもよりリアルな姿でそこに在った。


「セラサス……」


 セラサス・イェドエンシス。

 桜の名を持つ白く輝くその機体、ボクがエタドラで騎乗していたドラグーン。

 それはまるで王にかしずく騎士であるかのように、ただ静かにボクに向かって頭を垂れていた。






「……んで、どういう状況なんだ?」


 てっきり死後の世界にいたと思い込んでいたが、今では少し考えを改めている。

 というのも、あまりにも感覚がリアルすぎるのだ。

 物を触った感触はリアルだし、森の匂いまでハッキリと感じる。

 息を吸えば、澄んだ空気に甘みすら感じるかのようだ。


 セラサスがあるということはエタドラの中、つまりVRの世界のようにも思えるが、そうだとしたら腑に落ちない点がある。


「痛っ……! やっぱりおかしいな」


 ほっぺたをつねった痛みがダイレクトに伝わってくる。

 先ほどコクピット内でも試してみたが、確かに痛みを感じるのだ。

 当然、ゲームの中では多少のフィードバックは別としてこんなリアルな痛みを感じることはない。

 もし感じるとしたら、痛みでゲームどころじゃなくなってしまうに違いない。


「これはひょっとしたら……いわゆる転生ってやつなんじゃなかろーか」


 ボクもオタクの端くれとして、転生ものの小説などは嗜んだことがある。

 チートだとか、秘められた力だとか、そんなものを与えられて異世界に転生するという話だ。


 その場でジャンプしてみる。

 数十センチほど飛んで、普通に着地した。


 そこらに転がっていた赤ちゃんの頭ほどの石を持ち上げてみる……重い。


「チートなんてなかった。 いいね?」


 確認を終えると、タブレットをブレザーの内ポケットから出そうとしてみる。


 ふにょん。


 いつもと違う感覚が手から伝わってきた。

 柔らかい、スポンジに触れた時のような感触。


 おそるおそる首を下に向けてみると……


 あるかないか微妙なサイズの小さな丘が二つ、自分の胸に生えていた。





「あー、そうきたかー。 転生モノの定番デスヨネー」


 セラサスの白い装甲を鏡代わりにして確認してみたところ、やはり自分の姿はエタドラのアバター、エルフ幼女の姿になっていた。

 そして、今いるここはゲームの中ではないと確信をした。

 ……ゲームの中では、セクハラ的な行動、つまり胸を揉むといったことが出来ないからだ。

 つまり、その、なんだ。 揉めたのだ。

 ゲームの中だったら、膜のようなものでブロックされてしまうはずだ。


 服装も、ログアウトしたときの格好のままである。

 残念ながら宿でログアウトしたので、装備しているのは服だけでアバター用の武器防具は一切身につけていなかった。


 そして判った事がもう一つ。

 メニューを開くこともできないし、アイテムボックスも開けない。

 ショートカットキーも呼び出せないし、その他インフォメーションウィンドウも開かない。

 ゲームと違い、先ほど取り出そうとしたタブレットも存在していなかった。


「……これ、なにげにヤバい気がする」


 結論から言おう。

 今のボクは、ただの非力な、戦闘力のかけらもないエルフ幼女だ。


 元々ドラグーン関連に特化してアバターの性能を伸ばしていたボクは、アバター自体の戦闘能力はほとんど強化していなかった。

 かろうじて、ドラグーンでも必要となる魔法のみ鍛えていたのだけれど……


「ショートカットキー開けないんじゃ、魔法撃てないじゃん……」


 魔法だけでなく、生活スキルからクラフト技能まで、一切が使えなくなっていた。

 そして、唯一特化したドラグーン関連も、そのドラグーンが起動しない今何の役にも立たない状態である。




 途方に暮れたボクは、あれだけ出たがって苦労をしたコクピットに再度戻っていた。

 とりあえず、ゲームを模した世界であればフィールドにモンスターが存在していると思われるので、戦闘能力のない今外でウロウロしているのは非常にリスキーである。

 動かないにしろ、ゲームの性能どおりならセラサスの装甲はそうそう破られないだろうと考えたのだ。


 クキュルル……


 可愛らしい音が下から聞こえてくる。

 空腹のサインだ。


 とはいえ、当然セラサスの中に食べ物なんてない。

 外に出ればモンスターの脅威があり、中に居れば餓死の危険性が伴う。

 2度目の死にチェックメイトという状態だ。


「せっかく転生しても、これじゃなんの意味もないだろ!」


 愚痴っても食べ物が出てくるわけじゃないので、考えてみる。

 ここに居れば安全ではあるが、確実に餓死するのが目に見えている。

 ならば、危険でも天に運を任せ、外を探索するしかない。

 モンスターに見つかる前に食べ物を発見すれば、最悪その分だけは長生きができるはず。


「って、結局何の解決にもならないし」


 そう、食べ物が尽きたらそこで試合終了である。


「街か村…… とにかく、この世界の人を探すしかない」


 もちろん見つけたとしてこの世界の通貨もなく、言葉が通じるかも怪しい。

 だけど、このまま独りでいても何の解決にもならないというのは確かだった。

 ならば、少しの可能性でも賭けたほうがマシだろう。


「レーダーは稼動しない、となると肉眼で探すしかないな……」


 幸い、セラサスの全高20メートル前後、片膝をついてかがんだ状態のセラサスでも15メートルくらいの高さがある。

 肩の上にでも乗れば何か見えるだろう、とボクは落ちないよう気をつけてセラサスを上り始めた。


 下を見ると腰が砕けそうになるので、ゆっくりとでっぱりに手をかけて肩の上を目指す。

 ようやく辿り着いた肩の上から周りを見渡すと……


「……せんせー、あきらめていいでしょうか?」


 森の木々しか見えなかった。


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