草薙ぎ、採集
「おぅ、登録は終わったようだな。 よっしゃ、そんじゃ二人ともカード見せてみな?」
アリスとそれぞれ、先ほど登録したカードをドランさんに渡す。
「ほんじゃ説明すんぞ。 コイツはな、ここに名前や種族、出身地なんかが表示されて身分証みたいに扱えるんだ。
例えば、ほらそっちの小さい嬢ちゃんの場合、名前がユーリで種族がハイエルフ……ハッ、ハイエ……ンンッ、ゴホン」
ドランさんがボクのカードをみて面白い反応をしていた。
どうやら、やはりハイエルフって超レアなようだ……
ドランさんがボクを手招きして、他に声が漏れないように小さな声で問いかける。
「お、お前さんエルフの王族かよ! もしかして、隣の嬢ちゃんに奴隷にされてるとか……」
「いやいやいや、むしろボクのが主人というか、なんというか……」
「あー、まぁ護衛の一人くらいいるわな。 っていうか、ハイエルフって森から出てくるもんなんだな……」
「判らないです。 ボク、記憶喪失みたいで……」
久しぶりの万能な記憶喪失ネタで押し切る。
「……そうか。 あー、そっちの嬢ちゃんも聞け。 他の奴らにゃ絶対にエルフ、しかもハイエルフだってバレるなよ?
ってわかってるから、その頭巾か。 それ被ってりゃ耳見えないからな」
「これはお母さんが脱がないようにって……え、そういう意味だったの?」
「はぁ……お前さんがた、自分の置かれてる状況わかってねぇなぁ?
あのな、この国にいるエルフはほとんどが奴隷だ。 で、エルフってのは外見が美しいから貴族やら騎士の連中がこぞって奴隷にしたがるんだよ。
そんな国でお前さんがレアなハイエルフだってバレてみろ?
脱走奴隷だなんだとありもしない事で難癖つけられて、取調べだとかいって捕まったら終わりだ。
どんな手使ってでも奴隷にされちまうぞ?」
そこまでヤバい状況だとは……
カレンさんもある程度は危険だと思っていたみたいだが、どうも危険の桁が違っていたらしい。
「アリス知ってた?」
「否。 書籍等にはそこまでの情報はございませんでした」
「そりゃそうだ。 一応裏の話なんだからな。
そんな事書いた本、即効で発禁にされるに決まってるだろ?
しかしまぁ、よくそんな状況で冒険者登録しようと思ったもんだ。
……いや、大森林か。 なるほどな、目的はエルフの隠れ里か」
さすがにベテランの冒険者だけあって、ドランさんもボクたちの目的に気付いたようだ。
「はい。 ドランさん、場所とか知ってたりとか……?」
「まさか。 あの森にゃ魔法がかかっててな、認められたものしか里には辿り着けないらしい。
まぁ……お前さんなら大丈夫だろう。 なにせ王族だからな、迎えの一つくらいくるかもしれん。
……だが、大森林関連のクエストは、採集でもCランクだ。
まずは、ランク上げを地道にがんばるしかないな」
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というわけで、ボクたちはギルドを出てから早速町の外壁付近へ出てみた。
とりあえずFランクの採集クエストを受けている。
内容は「ヘルバ草を15束採集し納品すること」という、まさに初心者向けのクエストだ。
町でも子供がお小遣い稼ぎに受けるクエストであり、殆ど危険もない。
本格的なクエストは準備も必要だし日帰りができないとカレンさんに怒られそうなので、まずはドランさんいわくお散歩レベルのクエストを受けてみたのだ。
ドランさんに教えて貰った初心者用の採集ポイントは南の外壁と地面の隙間。
低レベルのポーションの素材となる、薬草が生えているそうだ。
少し壁に沿ってあるくと、5本くらいがまとまって生えているのが見えた。
なるほど、これが採集ポイントのようだ。
ドランさんに教えて貰った通り、5本のうち2本、つまり4割だけを残して3本を採集する。
他も同じくらいだとすると、あと5回採集すればクエストクリアになりそうだ。
「うーん、全く難しいことはないけど、これで地道にランクを上げるのは結構きつそうだねぇ……」
「是。 順調に行ったとして、Cランクの依頼を受けられるまでには数か月が必要になりそうです。
何か方法を考えるべきであると提案します」
まぁ、これはこれで本当なら中々楽しいんだけど。
守るべき物がある以上、あまり楽しんでばかりもいられない。
「とりあえず、このクエストはしっかりこなしてから考えよう。
場合によっては、セラサスでの強行突破案を復活させないとダメかも」
「是。 ところでマスター、近くに魔物を検知。 如何いたしますか?」
むぅ……ドランさん、安全って言ってたのに充分危険じゃないか。
後で嘘ついた罰でジュース奢らせてやる!
「アリス、悪いけど任せる。 でも、無茶はしないでね?」
「是。 マスターは引き続き採取を進めておいて下さい」
ザシュッ!
「あ、ここにもあった。 3本ゲットー♪」
グギャアァァァァッ!
「おお、こっちにも! 大漁ですなぁ、グフフフフ」
ドコンッ!
「よーしよし、これで12本! あと3本だぁ!」
ヒュンッ! トスッ!
「ヒャッハー! 最後の3本見つけたぜぇー!」
ドサッ……
「マスター」
「はい?」
「うるさいです。 怖いのはわかりましたから黙って採集して下さい」
「はい……」
そう、別にふざけていたわけじゃない。
怖かったので、無理やりテンションあげてました、すみません。
やってきたのは、ゴブリンとオーク。
それぞれそれほど強くはないが、今回はそれぞれ5匹づつの計10匹。
普通の初心者なら確実に全滅していただろう。
安全と言われていたここになぜこんな大量の魔物がいるのかは置いておく。
取りあえずカンストしているアリスだけあって、何も不安はなかった。
怖かったのはそのあとだ。
アリスが1匹目を切り倒した時に、血しぶきがドバーっと、ドバーっと……
エタドラでも斬った時にエフェクトは出るものの、こんなに生々しい絵面ではなかった。
それに、倒した後も死体が消えることもなく、ドクドクと血を流しながらその場に残り続ける。
アリスが2匹目を倒す頃には、周りに濃厚な血臭が漂い、気持ち悪くなってしまった。
そのうえ聞こえてくる断末魔の叫び声も恐ろしいものだったので、現実逃避していたというわけです。
現代日本で、こんな血生臭い光景見る機会なんてないからなぁ……
「マスター、片付きました。 如何致しましょうか?」
「い、一応討伐証明部位を持っていこう。 討伐クエストあるかもしれないし。
アリス、お願い……いや、ボクがやる」
元々、ボクの目的を手伝ってくれているのだ。
アリスにだけ汚れ仕事をさせるわけにはいかない。
「是。 それでは、私は汚れを落としております」
ゴブリンとオークの討伐証明はそれぞれ左耳である。
つまり、死体から切り取ることになるのだけれど……
「……そんな恨めしそうな顔でこっちみんなよ」
断末魔の表情で空を見るゴブリンと目が合ってしまった。
少し下を見ると、飛び出た内臓やら何やらが見えてしまうため極力耳だけを見るようにする。
「ウッ……きついな、これ……」
吐き気がこみ上げてくる。
けれど、なんとか飲み込んでナイフで左耳を切り取る。
その後、かなり時間はかかったがなんとか10匹分の証明部位を剥ぎ取り、ボクたちは町に帰ることにした。
まったく、帰ったら絶対ドランさんに文句言ってやる……!




