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ぎるどちゃれんじ

 翌日、ボクはアリスとあるものを探して歩いていた。

 それは……冒険者ギルドだ! 転生ものでは定番のアレだ。


 やはり異世界にきたからには、一度はここへ来て見たかったのだ。

 といって、興味本位だけというわけでもない。


 アリスの調査の結果、この国で魔法を学ぶのは非常にリスキーということが判った。

 戦争が近いこともあり、魔法の才があるものは全て騎士として国に所属することを強制する旨、お触れが出ているらしい。

 要は魔法使いに対する強制召集である。

 そして、同様に騎士となったものが個人所有するサーバントも全て国の所有とする旨、制定されたそうだ。

 もちろん代わりとして代金は払われるが、サーバントの市場相場を考えると捨て値同然であり、

 戦争のために騎士とサーバントを抱え込むつもりなのが明白である。


 同様に、他国で学ぶという方法もとりづらい。

 こちらも戦争の影響で、他国との行き来が制限されている。

 商業ギルド所属の証明が取れた者だけが許可されている状態なのだ。


 よって、魔法に関してはもう一つの選択肢であるエルフの隠れ里で学ぶという方法を取る事にした。


 しかし、こちらも一つ問題がある。

 エルフの里はどうやらゲームの時と同様ココルネ村の北に広がる大森林の中にあると言われている。

 しかし、帝国と戦争をしている間に大森林にいる魔獣などに横を突かれたら、たまった物ではない。

 そのため、大森林に繋がる街道には見張りが設置され、魔獣の監視を行うとともに余計な刺激を与えないようこちらも進入を制限されているのだ。

 そして、こちらも進入が出来るのはクエストを受けた冒険者のみということになる。


 もう1案としてセラサスで他国へ強硬突入という案も挙がったが、帝国機から回収した魔力弾倉(マガジン)がそれほど多くないことから今回は見送っている。




「えっと、たぶんここかな?」


「是。 看板がありました」


 広場で教えてもらった目印を元に辿り着いたのは、少し大きめの酒場のような建物だった。

 看板にギルドをあらわす盾と剣のマークが刻まれているので、恐らくここで間違いないだろう。


「さて、これが冒険者への第一歩」


 そう言いながら、ボクはギルドの扉を開けた。




 ギルドの中は、比較的綺麗な酒場のようにテーブルがいくつも並んでいた。

 奥のほうでは、ウエイトレスさんが退屈げにコップを拭いていたりする。

 大きな違いは、カウンターに窓口がいくつか設けられているのと、壁に数多くの依頼票が貼られていることだろうか。


 ゲームではウィンドウで依頼リストが表示されていたため、このように実際に壁に依頼が貼られているのを見ると、若干の感動を覚える。


 カウンターの方はそれなりに人が並んで忙しそうだ。 草みたいなものや牙などを並べている人が多く、時間帯的にクエストの報告をしている人が多いのだろう。

 店内のテーブルは殆どが空きテーブルとなっているが、かなりベテランっぽい男が一人酒を飲んでいるのが見えた。


 あまりキョロキョロするとおのぼりさんと思われるので、アリスとカウンターの方へ向かう。


 と、テーブルで酒を飲んでいた男が声をかけてきた。


「おう、嬢ちゃんたち! ここは子供の遊び場じゃないぞぉ? 邪魔しないように、帰った帰った!」


 ヘラヘラと笑いながらプハーッ! と酒臭い息を吹きかけてこちらに顔を寄せてくる。


「遊びに来たんじゃないです。 登録しようかと……」


「あぁん? 登録ぅ? んじゃぁ、なおさら邪魔しちゃいかんな。

 ほら、見たとおりこの時間帯は依頼報告で忙しそうだろう? 登録は、昼くらいの時間にやるもんだ」


 なるほど、ただ酒に酔って絡んできただけではなさそうだ。

 言い方はぶっきらぼうだが、他の冒険者にボクたちが絡まれないように忠告してくれているらしい。

 まぁ、このおっさんに絡まれている、とも言えなくはないが。


「そうでしたか、ありがとうございます。 あの……せっかくなので、ギルドについて教えて貰えますか?」


「んぁー? 構わんが……へへ、俺も忙しいんだけどなぁ……」


「否。 アルコールを摂取しているだけのように見えます。

 客観的に見て忙しいとは思えません」


 アリス……流石にそれははっきり言いすぎだよ……

 はっきりとした物言いに、さすがの男も鼻白んでいた。

 ボクも、額に手を当ててヤレヤレと首を振る。


 何か間違ったかでしょうか? と小首を傾げるアリスは放置したままボクは近くを通りかかったウェイトレスさんを呼びとめ、「このおじさんに同じものと、ボクたちに果実水を」と10テラを渡した。


 それを見た男が一瞬眼をしっかりと開いたのをボクは見逃していない。


「ほぉ、こいつぁ悪いな! よぉし、このドラン様がなんでも教えてやろう!」


 ……どうやら、ボクの方はこの男の合格点を貰えたようだ。



 ドランさんの話してくれた内容は、ほぼエタドラ時代のギルドのルールと変わりないものだった。


 大まかにまとめると、ランク制でSABCDEFのFランクスタート。

 所属することでギルドカードが発行され、依頼をこなすことでランクアップ。

 依頼が受けられるのは自分と同じランク~一つ上のランクまで。

 義務は町を移った際のギルド報告といざという時の強制依頼参加、ただし強制依頼参加はBランク以上。

 依頼の報告は完了のサインを貰うか、討伐・納品依頼の場合は証明部位または納品物の提示。


 そして、ドランさんはAランクのベテラン冒険者である、というところだろうか。


 ただし……


「サーバント所有が条件の依頼っていうのはやはりないんですね?」


 エタドラでは、ネームドやレイドボスを対象としたサーバント所有者のみ受注できる討伐系依頼が存在していた。

 しかし、張り紙にはそのような依頼はなさそうである。


「あぁん? サーバント所有って……お触れの事しってんだろ?

 以前はそれでも傭兵みたいなのも居て、騎士団がやらねぇような討伐依頼もあったんだけどよぉ。

 今はそういう奴らはぜーんぶ王都に連れてかれてちまったんでな。

 そういう依頼は、全部騎士団に回してんだ」


「やっぱりそうですよね。 でも、元々騎士団がやらないような依頼なのに、騎士団が受けてくれるんですか?」


 大型の魔獣退治とかは騎士団の仕事だろうから、騎士団でも手が出ないとかそもそも被害がなく退治する意味がないとかそういった騎士団の手におえない、やる意味がない依頼がギルドに回ってくるはずだ。

 そんな訳ありの依頼でも、命知らずの冒険者やハンター、傭兵ならば命をかけて挑戦をする。

 なぜなら、上位魔獣を倒せばその依頼料や素材の売却で一攫千金を狙えるからだ。

 これまでは、そんな役割分担がおのずと出来ていたからこそ、なんとか回ってたんじゃないだろうか。


 ところが、騎士になって騎士団として依頼を受けると、当然報酬の受け取り先は騎士団となる。

 もちろんそれなりの特別報酬は出るのだろうが、その額は決して命に見合ったものではないだろう。

 騎士になって無理しても貰えるのは名誉だけ、となったら誰も命を賭けてそういった依頼に挑戦しないように思う。

 まして、愛国心もなく強制的に騎士にされたものなら、なおさらだ。


「そりゃ、受けざるを得んよ。 国の都合で囲いこんじまったんだからな。

 これまでは冒険者風情はこの程度のものもこなせないのか、とか偉そうに言ってやがったのに、

 今度は自分達でやるハメになって、頭抱えてるだろうよ! ハッ、いい気味だってんだ!」


「……騎士団、お嫌いなんですね」


「あぁ、大ッ嫌いだね! 奴ら、名誉だなんだとか言って、結局自分らの出世と金の事しか考えてねぇ!

 この間の辺境の村が帝国に襲われたって話知ってっか?

 あん時もよ、隊長の野郎の命令で救援が遅れたっつー話だ! 優雅にダンスパーティーとやらが終わるまで待てってよ!」


 その言葉を聞いて、一瞬でボクの目の前が真っ赤に染まった。

 身体が怒りで震える。

 今にも叫びそうになる。


 ギュッ……


 そんなボクを、アリスが抱きしめた。

 アリスの鼓動が伝わり、急速にボクの心は落ち着いていく。


「ど、どうかしたのかい、そっちの小さい嬢ちゃん……」


 ドランさんが怯えたように問いかける。

 ……そんなにボクは怖い顔をしていたのだろうか。 

 ふと周りを見ると、カウンターで並んでいた人たちまでこちらをみて戸惑いの表情を浮かべている。


「是。 この方は、あの村の生き残りです」


「っ……! そいつは……すまねぇ。 余計な事を言っちまったようだな、小さい嬢ちゃんよ。

 まぁ、あくまで噂だ。 だがまぁ、騎士団っつーのはそんな連中ってこった!

 っと、ほらカウンターが丁度開いたようだぜ。 これなら邪魔にならんし、登録してこいや」


 ドランさんは残った酒をグッと飲み干すと、「トイレトイレ……」といいながら席を立っていった。


「マスター、差し出口失礼致しました」


「……いや。 ありがとう、アリス」


 スーハーと深呼吸をして落ち着いてから、カウンターに向かう。

 と、ウェイトレスさんがそっと近寄ってきて耳元に囁く。


「ごめんねぇ、ドランさんの事。 あの人、付き合いの長い傭兵さんが騎士団のせいで亡くなってね。

 それで騎士団のこと毛嫌いしてるの。 悪気はなかったはずだから……」


「はい、大丈夫です。 気にしてませんので……」


「そ、良かった。 さ、登録しておいでよ!」




「いらっしゃいませ。 初めてでいらっしゃいますね? ご登録でしょうか?」


 アリスに負けず劣らず感情を含まない事務的な声でそう尋ねられた。

 この町の規模ならそれなりに人が来ると思うんだけど、全員の顔を覚えているのだろうか?

 声をかけたのは、眼鏡をかけたいかにも事務員です、といった風貌ながら鋭い目つきの男だった。


「はい、ボクとこちらのアリス、2名で登録したいと思います」


「承知しました。 それでは、こちらにご記入を。 ギルドカードを発行しますので」


 手渡された用紙は、少しゴワゴワした粗い繊維で出来た紙で色々と入力欄や注意事項が設けられているようだ。

 あ、多分これが名前欄かな? こちらは……性別?

 ……そうだよ。 どうせボクは字が読めませんよ。



 この世界では、全種族とも言葉は通じるのだ。

 そうでなかったら、ボクはかなり辛かっただろう。

 ただ、文字だけは現実世界(リアルワールド)と異なっており、またそれも種族ごとに別の文字を使っているという。

 しかしまぁ、基本的にはここで用いられているような共通文字を覚えれば大丈夫らしい。

 ……ボクは、エステルと一緒に勉強中である。



 本を数冊読み込むことで文字を覚えてしまっているアリスに記入は任せる。

 あー、そうそう。 ユーリってこんな文字だったな。


 アリスがスラスラと記入を進める。

 と、一瞬カウンターの人の視線が鋭くなり、ボクの顔を見て閉じられた。

 ……何か、問題でもあっただろうか。


 申請用紙を提出すると、四角いプレートが1枚づつ手渡される。

 薄く緋色に色づいたそのカードは、恐らくはヒヒイロカネを含む合金だろう。

 セラサスの装甲にも用いられているそれは非常に高い退魔性能を持つが、かなりの上位資源であり非常に高価な鉱石なのである。

 恐らくは魔法による改ざん等を防止するためなんだろうが、かなりお金がかかっている。

 ……全装甲にヒヒイロカネを使っているセラサスはもう笑うしかない状態だが。


「こちらに1滴血を垂らして頂ければ手続きは完了です。

 ですが、その前に伺います。 ユーリさま、魔力テストは必要ですか?」


 カウンターの人が鋭い視線でボクに問いかける。

 定期巡回の魔法使いが来る前に村を出ることになったので、ボクはテストは実施したことがない。

 とはいえ、村の一件で魔力がとんでもなくあるという事はわかっている。

 まぁ、元々カンストしていたので当たり前ではあるが。


 しかし、どのようにテストを行うか、という点については興味がある。

 結果はわかってはいるが、せっかくなのでやって貰っても良いかもしれない。

 あれだ! 転生物の定番、魔力テストで全属性才能ヒャッハーとか、強すぎて水晶割れちゃったぜイェーイのパターンっぽいし!


 ……と、カウンターの男の人の視線が外れていない。

 何かある、と思った瞬間、ボクの口からは


「いいえ、必要ありません。 ボクは魔力を持っていませんので」


 という言葉が漏れていた。



 ふ、とカウンターの男の口からため息のようなものが漏れた。


「承知しました。 それでは、こちらに血を」


 用意された剃刀の刃のような小さな鉄片で、指の腹を傷つける。

 プッと浮かび上がった血の珠をカードに押し付けると、一瞬虹色に輝いて元の色に戻った。


「結構です。 こちらは無くさないように。

 ギルドの詳細については既にドランさんより聞かれたようですね。

 新人(ルーキー)のフォローもドランさんにお願いしておりますので、この後の活動の仕方等については彼に」


 トントン、と手元の書類等をもってカウンターの人が立ち上がる。


「お伝えしておりませんでした。 私、カイルと申します。 以後よろしくお願い致します」


 カイルさんは一礼をして、資料を持ち奥へときびすを返した。


 ボクたちもドランさんの所へ向かおうとすると、聞こえるか聞こえないかという音量でカイルさんが一言呟いて去っていく。


「魔力をお持ちでなくて良かった。 エルフの王族を王国騎士になど、させられませんから」


 ……試された? いや、あれはボクがハイエルフと知った上での質問だった、本来は聞くまでもない話だ。

 恐らく、ボクが魔力を持っているのを承知で、持って居ないことを敢えて明言させたのだろう。

 それによって、本来冒険者登録の際に実施すべきチェックをスルーさせたのだ。

 回答を間違えるようならそこまでの人物と切り捨てるつもりで。


 カイルさん……なかなかに怖くてキレる人のようだ。 


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