表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の空に桜舞う~幼女エルフのドラグーン無双伝~  作者: RULIA
第1章 穏やかな日々、そして・・・
16/74

桜舞う

「な、なんだよ、あのサーバントは! あんな機体、情報がないぞ! 王国の新型か!?」


「おかしいだろ! こっちのカタフラクトだって、ようやく実戦配備された最新機だぞ! なんでこんな性能差がある!」


 僚機と繋がる通話回線は、それぞれの騎士たちの動揺を伝える場へと変わった。


 生物的なフォルムを有する王国のドラグーンとは似ても似つかない桜色の機体。

 そのどこなく有機的でありながらも明らかに鉱物由来であるその装甲は、どちらかといえば帝国の機械兵マシンナーズのそれに近い。

 ただし、そのシルエットは大きく異なる。 

 機械兵マシンナーズは外装として金属板を貼り付けるがゆえに直線の組み合わせで形作られるのに対し、あの機体は曲線と鋭角を組み合わせた儀礼用に近い外装をしているのだ。

 帝国には、そして恐らくは王国にもあのような機体は存在しない。


 なにより、性能が違う。

 なぜか魔導兵装ソーサリーウェポンによる攻撃を仕掛けてはこないが、ありえないほどの機動力をもって接近、回避、攻撃を繰り返す。

 反撃しようにも攻撃されたかと思えば次の瞬間には既に距離が離れており、狙いをつければ避けられ気が付くと懐に飛び込まれている。

 そして無慈悲に振るわれるその無骨な剣は、装甲すら無視して一度の斬撃で一つの部位を切り飛ばしていく。


 最初の目標となった3号機は、すでに四肢と兵装を切り飛ばされ、すでにただ浮いているのみ、という状態になってしまっていた。

 それも、他の僚機が助けに入るまでのわずかな間にだ!


「た、助け……来るな! 来るなあぁぁぁぁ!」


 ブツン!という音を最後に、3号機からの通信が途切れる。

 しかし、僚機は3号機がコクピットごと横に切断される姿から目を離す事が出来なかった。




 ------



 胴を薙ぐ一撃で、あっさりと上下に分断された青いサーバントの1機は、

 そのまますり抜けつつ退避し振り返ったところで爆散し、堕ちていった。


『敵機、1機撃墜』


「今ので慣らしは終わりだ! 次は青いのを一太刀でいく!」


 いたぶるつもりで四肢を落としていたのではない。

 50%の稼働率でどれだけ動けるかを確認していたのだ。

 今撃墜した1機目は採点のためのサンドバックにすぎない。


『是。 識別のため、敵機に識別名(コードネーム)を振ります。

 赤い隊長機をレッドハース、青い僚機をブルーウィドー1、2と定義』


「ハッ! 赤い霊柩車に青い未亡人ね……! 洒落が効いてるじゃないか!」


『洒落ではありません』


「照れんな」


『照れてません』


 じゃれつくうちに、敵機のうち1機が暴走したのか、やたらに魔導兵装ソーサリーウェポンを乱射し始めた。

 当然、ろくに狙いもつけずに撃った弾など当たるものではないし、乱射を続ければそのまま魔力枯渇を引きおこすだろう。

 仮にセラサスに当たったとして、生身のボクにすらダメージを負わせられない程度の火力では傷一つつけることはできない。


『マスター、流れ弾が非戦闘員に当たる可能性を提起。

 リニアガンを選択、電力稼動へシフト、ブルーウィドー2を無力化します』


「任せた」


『アイ・ハブ』


 次の目標である|もう一体の|青い機体(ブルーウィドー1)に向かいながら、アリスにコントロールへコントロールを渡す。

 セラサスの左手だけがアリスのコントロールで|暴走中の機体(ブルーウィドー2)に向くと同時に、肘から先の外装が展開すると、内部からアームが稼動し棒のようなものが姿を現した。

 そしてガシャッ! というロックの外れる音とともに、その棒のようなものは先端を二股に分割し、縦方向に空間を開く。

 この砲身で弾頭を電磁加速する事で、凶悪無比な破壊力を持つ一撃を放つのだ。


 機体の向く方向とは異なる方向を向きながら、まるで別の生き物であるかのように砲身は正確にもう1機を捉え微調整を行う。

 そして、砲身に紫電が走るとチュイン! という甲高い音と共に、赤熱化した弾頭が魔導兵装ソーサリーウェポンを貫く。


『ユー・ハブ』


 コントロールの戻った左手を添え、すれ違いざまに両手で一刀を振り下ろす!

 肩口から食い込んだその刃は、その鋭さゆえにまるで装甲があることを感じさせないかのように切り裂いていく。


 日本刀を模したそれは、本来であればセラサスと同等の装甲を切り裂き、貫くための武装である。

 魔導兵装ソーサリーウェポンとしては魔力による共鳴・振動を生む事で高振動ブレードとして敵機を切り裂くが、その鋭利な刃は魔力を通さない物理兵器としても充分な切れ味を持ち合わせていたのだ。


 斜め袈裟にコクピットごと両断された機体は、こちらも爆発を起こして林の中へ墜落していく。


 姿勢制御装置(スラスター)を吹かしそこで一旦停止すると、無力化した残りの1機を無視して赤い機体、レッドハースに正対する。


 短距離の公用回線に、通信が入る。

 シュタイクバウアーだ。


「なんなのだ、それは……! 我ら近衛、帝国でも最精鋭を、数が少ないとはいえ、こうも……」


「無抵抗な人を相手にしか出来ないくせに良く言うね。

 こんな素人集団じゃ、数があってもボクたちの相手じゃない」


『数の暴力は充分に脅威です』


「アリス、黙ってて」


『是』


 このやりとりが余裕から生まれる見下しにでも見えただろうか。

 音声しかつながっていないのに、シュタイクバウアーが真っ赤に青筋を立てて震えている様子が容易に思い浮かべられる。


「ふざけるな! 貴様のような子供が、なぜこんなものを!

 貴様を召喚したのは我が帝国であり、その力は帝国に帰属するべきだろう!

 なぜその力を帝国に振るうのだ!」


「……おっさん、それ本気で言ってる?」


 どこの誰がここまでされて帝国に協力しようなどと思うものやら。


「く……クハ、クハハ! 出来れば自我を残して利用したかったのだけどねぇ。

 エルフの少女よ。 契約に従い、抵抗を辞め帝国に降るがいい!」


 シュタイクバウアーが何かをしたようだ。

 レッドハースから怪しい黒い靄が発生し、セラサスを包み込む。

 通信から発せられた、シュタイクバウアーの勝ち誇った笑い声だけがコクピットに響く。





「……ん?」


 ……何も起きていないんだけど……


『マスター』


「なに、アリス?」


『発言の許可を願います』


「……いいけど」


『ありがとうございます。

 先ほどの件、彼の言動から察するに恐らく召喚と同時に契約を結び、いざというときに自我を奪うというものと推測します』


「そのとおりだ! クハハ、最悪、貴方が使い物にならなくともそのサーバントだけで釣りが来るからねぇ!」


『ですが、無駄と回答致します。 その程度の呪詛ではセラサスの複合装甲に用いられているヒヒイロカネの対魔性能を抜けません』


「な……ヒヒ、イロカネ?」


『そして、マスターは召喚などされておりません。 故に、その呪詛は効果がありません』


「「は?」」


 つい、奴とハモッてしまった。

 ボクが召喚されたのではない? どういうこと?


『召喚による世界間の揺らぎは利用させて頂きましたが、恐らく召喚魔法は失敗したものと推測します。

 マスターは私がその際の揺らぎを利用して世界間の移動を行いましたので、悪影響のある制約などはございません』


「お前が原因か! 悪影響のある制約って、ボク魔法使えないし!」


 どうりで定番の神様との語らいとか、ステータスの選択とか、転生先世界の選択とかのワクワクイベントが存在しなかったわけか!


『否。 魔法が使えないのはマスターに原因があります。

 私は悪くありません』


「コクピットに閉じ込めて餓死させようとしたのもお前か!」


『否。 私は悪くありません』


「でも……」


『否。 私は悪くありません』


 AIのくせに開き直った!?


「……ふざけるな。 召喚が失敗した、などと。

 神の奇跡に失敗などありえん!」


『では、その神とやらに問題があるものと考えます』


「……な!?」


「アリス。 詳細は後で聞くけど、とりあえず黙れ」


『……是』


「……シュタイクバウアー。 村の人たちを殺した以上、アンタはボクの敵だ。

 ボクは帝国を許さない」


「……ク。 許さない、許さないねぇ……?

 むしろ、これだけ馬鹿にされた私の方が許さないのだがねぇ?」


「木こりさんの分、狩人さんの分、そしてミランダさんの分まで、苦しんで死ね」


 レッドハースをロック。

 狙いは背面の魔力放出型飛翔翼マナウィング

 奴だけは、一撃では終わらせない。


 ブレードを構え、フットペダルに足をかける。


 加速。

 これまで以上の速さでレッドハースの懐に飛び込み、一閃。


 レッドハースは左手のクローでその軌跡を遮る。

 シュタイクバウアーの専用機としてカスタムされたこの機体の持つ赤いクローは、王国のドラグーンが構えた盾ですら切り裂いた事もある、凶悪な近接兵装だ。


 キンッ!


 鋭い音とともに、ブレードが受け止められる。

 これまでブルーウィドーの装甲を難なく切り裂いてきた刃を止める、それがこのクローの頑強さを表している。


 しかし。


 4本あったクローのうち、2本が消失していた。

 残る2本は断ち切られ、大地の重力に引き寄せられていく。


「クハ、これは……とんでもないねぇ!」


「そっちこそ、左手を無くしたのになんでそんな動かせる!」


「左手はレバー操作だからねぇ。 縛りつければなんとでもなるのだよ。

 動かすたびに痛みが走り、貴様たちへの怒りが湧いてくるのだがねぇ!

 (たぎ)るねぇ、絶頂すら覚えそうだよぉ!」


「……狂人め」


 鍔迫り合いの状態からセラサスはフッと推力を落とし、そのまま自由落下に任せる。

 突如コクピットを無重力に近い浮遊感が襲う。

 急に力を抜かれたレッドハースは咄嗟の対応が取れず、体勢を崩す。


 セラサスは全身を捻りながら、再度魔力放出型飛翔翼マナウィングをブーストし股下を越えながら急上昇。

 一般的なサーバントであればそのトルクで上半身と下半身が千切れ飛びそうな挙動も難なくこなし、レッドハースの背後を取る。


「まずは……落とす!」


 機体を捻った勢いでブレードをレッドハースの背中に振り下ろす!

 しかし、レッドハースは体勢を崩したままブーストし、迫る刃を避ける。


 背中の魔力放出型飛翔翼マナウィングへの直撃は避けたものの、その一撃は進路上にあるレッドハースの左足をすり抜け……切り落とした。


 そして。


 命のやり取りをする2機は、再び正対する。


「……ふむ。 足をやられたからといってどうという事はないが……。

 残念ながら、このカタフラクトでは貴様に勝てなさそうだ。

 今回は引かせて貰うとするかねぇ」


「逃がすと、思うか?」


「まさか、このままではねぇ。 私も流石に今の状態では上手く操縦ができないしねぇ。

 ……なので、こうしようじゃないか!」


 突如、レッドハースが姿を消した!


「な!?」


 これは……短距離転移(ショートテレポート)

 魔力消費が高すぎて実用に不向きな魔法だが、緊急時用に魔導兵装ソーサリーウェポンを仕込んでいたか!


 とっさに後ろを振り返ろうとしたボクにアリスの声がかかる。


『2時方向に出現。 ……ブルーウィドー2の背後です』


「さぁて、これならどうするのかねぇ!?」


 レッドハースはブルーウィドー2を掴み……カレンさんのいる方向へ投げ飛ばした!


「しまった!」


『マスター! 所有遠距離兵器では貫通力が高く進路変更できません!』


 とっさにセラサスの向きを変え、全推進力でブルーウィドー2の進路に向かう。

 そして……蹴り飛ばす!


『被害軽微! しかし……』


 その隙に、レッドハースはリニアガンの射程外まで退避をしてしまっていた。

 部下を捨石にするのか。 甘く見ていたのは、こちらだった……


「今回は引いてあげようじゃないか。 だが、貴様は私を、帝国を敵に回したぞ!

 そのことを後悔するならば、大人しく投降した方が良さそうだがねぇ!」


 そう吐き捨てると、レッドハースは急速に戦闘域を離脱し始めた。


「アリス! 長距離狙撃準備!」


『不可。 魔法的接続(コネクト)がないため換装(コンバージョン)できません』


「く、そぉ……なら、このまま!」


『無理です。 追いつくためには魔力放出型飛翔翼マナウィングへのマナ供給が必要です。

 魔力弾倉(マガジン)が不足しています。

 今は、非戦闘員の保護を最優先にすべきと提案します。』


「……わかった」


 この場は見逃す。

 だけど、絶対に奴だけは許さない。

 シュタイクバウアー、それに帝国。

 ボクの家族に手を出したことを、後悔させてやる。


 ブレードを鞘に納め、魔力放出型飛翔翼マナウィングの出力を緩め、地上へと向かう。

 ふと、モニターに映った逆光を追うと、いつの間にか夕暮れとなった空に、血のように赤い太陽が浮かんでいた。




 ------




 後の歴史書において、このココルネ村における戦闘が伝説級(レジェンド)ドラグーン、セラサス・イェドエンシスの初戦闘であると記されている。

 ただし、その戦闘の詳細は残されていない。

 発生契機が当時のディオーレ帝国の宣戦布告のない非合法な殺戮であり、公的な資料としてこの戦闘は存在しなかった事とされているためだ。


 ココルネ村の生き残りであり、戦闘を間近で見る事の出来た数少ない生存者である筆者は、セラサス・イェドエンシスと帝国機が対空戦闘を行うその様子を、ただ一言次の言葉で表していた。


「空に桜の花びらが舞うがごとく敵機を蹂躙せしめた」


 現存するのがこの詩的な表現を好む筆者の一文のみであるゆえ、どのような戦闘が行われたのか詳細は不明である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ