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異世界の空に桜舞う~幼女エルフのドラグーン無双伝~  作者: RULIA
第1章 穏やかな日々、そして・・・
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コンディション・グリーン


「……アリ、ス?」


「是。 遅延理由の詳細は後程。 敵性存在以外の保護を優先致します」


 聞きなれた、感情を含まない声で回答する少女。

 アリス。 エタドラでのボクのオペレータ。

 セラサスのオペレータとして、一緒に異世界へ来たという事だろうか?

 だけど、今はそれよりも!


「クハ、クハハハ! 腕が、私の腕が! 何なんだ! 貴様も愚民の仲間か!」


「否。 愚かな民というのは貴方のような者を指します。 私は貴方の仲間ではありません」


 シュタイクバウアーは怒りで顔を真っ赤に染めつつも、回復魔法(ヒール)で止血をしたようだ。

 血の止まった左腕を押さえつつ、搾り出すように口を開く。


「……名は?」


「アリスと申します。 以後お見知り置き頂く必要はございません」


「クハハ! 覚えたぞ! 貴様はただでは殺さん!

 犯して殺して、剥製にして奴隷どもの慰み者にしてやろうじゃないかねぇ!」


 吐き捨てると、シュタイクバウアーは赤いサーバントに引き上げ始めた。


「ユー、リ……」


「お母さん! 無理しないで!」


「大丈、夫……。 それより、アイツを、逃がしては……サーバントで、殺されるわ……」


「否、そして不可。 逃がしませんし、我々を殺す事はできません。

 マスター、重ねて遅くなりました事お詫び申し上げます。

 セラサスの出撃準備、完了しております」


 その言葉に、胸の奥がドクンと強く鼓動した。

 脇腹の痛みが遠くなり、もやのかかっていたような意識が急速に覚醒する。

 足りなかった何かが、今埋まったような気がした。


「セラサスが……動くの?」


「是。 万全の状態ではありませんが、通常戦闘に問題はございません」


 セラサスが、ボクのドラグーンが動くのなら……

 ボクだって動ける!

 アイツに好き勝手させはしない!


「……お母さん、ボクはアイツを倒してくる。 エステルを、お願い……」


「……えぇ。 死んじゃ、ダメよ……?」


 本当はカレンさんを介抱したい。

 エステルを優しく抱きしめて上げたい。


 でも、今皆を救えるのはボクだけだ!

 ならば……往く。

 セラサスに命を吹き込んで、奴らを殲滅するのだ。


「いくよ、アリス!」





 暗闇の中に安全灯の緑色の光が灯る。

 あの日、ボクがこの世界で初めて目覚めた場所。

 違うのは、このドラグーンが目覚めようとしているという一点。


「アリス、起動(ブート)シーケンス開始。 状態確認(コンディションチェック)も合わせてお願い」


『是。 これよりドラグーン:セラサスの起動に入ります』


 今、コクピットの中にアリスの姿はない。

 アリスは本来のオペレータとして、セラサスの中枢、魔導核(ブレイン・コア)と一体となっている。

 いわば、セラサスそのものがアリスの身体と言っても過言ではない。


 サブモニターに映し出されるブートログを見つめながら、各装置のロックを外していく。

 と、ブートログが赤文字となり、一時処理がストップする。


『警告。 マスターとセラサスの間で魔法的接続(コネクト)が正常に実施されません』


「今ボクは魔法が使えない。 問題は?」


『否。 問題ありません。 補助魔力炉(サブチャンバー)からのマナ供給シーケンスに移行します』


 一時ログが止まるとともに、ブゥン……と低い音とともに前方のメインモニターが点灯、周囲の風景を映し出す。


 ブートログの流れが止まる。 サブモニターの画面に「WAKE UP」と表示され、セラサス全体をブロックに分けた状態確認図(コンディションマップ)が表示される。


起動(ブート)シーケンス終了。 騎乗者(キャバリエ)のコンディションチェックに移ります……コンディションレッド』


 セラサスの状態確認図の横に人型のシルエットが表示され、全身が黄色に染まり、特に脇腹辺りが赤く点滅する。


「問題ない。 チェックはスキップで」


『是。 ドラグーン:セラサスのコンディションチェックに移ります』


 セラサスの状態確認図(コンディションマップ)に緑色が灯っていく。


 そして……


『……コンディショングリーン。 いけます』


「いくよ、セラサス!」


 ボクは左手のレバーを思いっきり押し込んだ!




 ------




 私は、腕の中のエステルを抱きしめながら、ユーリの向かった先を見つめる。


 そこにあったのは、全身が白一色に輝くサーバント。

 雲の隙間から指した光を反射しまばゆく輝くその様は、まるで御伽噺に出てくる騎士のよう。

 仕えるべき主君に礼を尽くすかのように、片膝で頭を垂れるその姿は、主君を迎える喜びを感じているのだろうか。


 先ほど助けてくれた少女が何者なのか。

 なぜ魔法の使えない、魔法が効かないユーリがあのサーバントを使えるのか。

 帝国でも王国でも見た事がない、あの異質なサーバントが一体何なのか。

 判らないことばかりだ。


 でも、あのサーバントのコクピットに納まったユーリを見て、欠けていたものが埋まったかのように見えた。

 あの子にそれが必要なもので、あの子の幸せに繋がるものであれば……それが何だって構わないのだ。


 ハッチが閉じて数十秒、白いサーバントの両眼が赤く光る。

 そしてゆっくりと立ち上がると、腰に()いた剣を抜く。 

 片刃の反りの入った異様な、そして巨大な剣だ。


 動力機関(マナドライブ)の唸るような低い音が響き始める。

 そして……


「ん……綺麗」


 いつの間にか目覚めていたエステルが口にしたとおり。


 純白の騎士は、まるで鼓動を刻むかのように、中心から淡い桃色へと全身を染めていく。

 白色の装甲が透明度を増した乳白色に変化したことで、内部の赤い装甲が透けて見え始めたのだ。


 背中に装備された兵装が展開し、1対の翼のように広がる。

 一度だけ見た事がある。 特級(ユニーク)のドラグーンが、あのように翼を広げて空を飛ぶのを。

 ならば、目の前の騎士も飛ぶのだ。


 まるで、雛が翼を広げて巣から飛び立つかのように。

 騎士、いやユーリは空へと舞い上がる。

 巣立つのだ。 この村から、世界へ。




 ------




走査開始(サーチスタート)……周囲に4機の敵性存在を確認。 エリアマップに反映(プロット)します』


 メインモニター右上の周辺マップに、赤い点が4つ表示される。

 特に、目の前の点は強く、大きく点滅をしている。

 あの男の、赤い機体だ。


魔力放出型飛翔翼マナウィング、正常稼動中。

 エーテライト装甲の魔力物質化、通常戦闘基準に到達』


「特に問題はなさそうだね」


『否。 魔法的接続(コネクト)が出来ないのは想定外です。

 補助魔力炉(サブチャンバー)からの供給で起動したため、50%の稼働率となります。

 また、保有の魔力弾倉(マガジン)を全て消費しました』


「マガジン? 初めて聞いたんだけど、その影響は?」


騎乗者(キャバリエ)の魔力枯渇時に、一時的に代替として利用する無属性魔石の加工物質です。

 これまではマスターの魔力が枯渇した事がないため、使用の必要がありませんでした。

 セラサス起動時の励起マナとして使用。 そのため、補充なしでは次回起動が困難になります。

 また、魔導兵装ソーサリーウェポンのうちマスターに回路(パス)を繋いだ9割が使用不可』


 なるほど、確かに魔力枯渇した記憶がない。

 しかし、この1回でセラサスが起動できなくなるのはマズい。 

 敵のサーバントが持っていないだろうか? 後で回収してみよう。

 それより、兵装が使えないのが痛すぎる……


「……通常兵装での戦闘に移行」


『是。 ただし、前回の戦闘より弾薬等の補充が行われておりません。

 残存弾薬数を表示します』


 そうだ。 あの日、整備をする前にこちらの世界へ来てしまったのだ。

 色々と悪いことが重なりすぎだろ!


「……通常戦闘に問題ないって言ってたのに」


『否。 マスターが魔法を使えないという状況は想定不可です。

 人のせいにするのはやめてください』


 この反応である。

 エタドラの時からこうだったけれど、本当にアリスはAIなんだろうか?


「……残弾管理と武器選択は任せる。 ブレードを主軸に戦闘。

 ただし、最優先事項として非戦闘員の保護を登録」


『是。 最優先事項順守のため、自動(オート)による武器使用を提案します』


「承認。 さて、そろそろ敵も準備が整ったようだし、いこうか。

 ……ちなみに、勝算は?」


『勝ちます』


「確率を聞いたんだけれど……」


『勝つ以外の道がありません。 さっさと片付けましょう』


「……了解っ!」


 フットペダルを踏み込み、魔力放出型飛翔翼マナウィングを活性化させる。

 展開した翼は推力を発生させ、キラキラと薄緑の光を放出しながらセラサスを加速する。


「ここからは、ボクの手番(ターン)だ!」


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