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異世界の空に桜舞う~幼女エルフのドラグーン無双伝~  作者: RULIA
第1章 穏やかな日々、そして・・・
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探し物はなんですか? 幼女です

 エステルをミランダさんに任せ外に出ると、辺りがまるで夜のように真っ暗になっていた。

 ……いや、違う。

 サーバント、確か帝国では機械兵(マシンナーズ)と言うのだっただろうか。

 それら6機が空に浮かび、その影が雲間から漏れた日の光を遮断しているのだ。


 先頭の赤い1機とそれに従う青の5機。

 その姿はまさに巨大な全身鎧といった様相だが、特に目立つのは先頭の赤い機体だ。

 個々の要素は従う5機と同系に見えるが、左右非対称で所々に捻じれた腕のような意匠が施されている。

 機械なのにどこか生物的で禍々しさすら伴うその姿に、ボクは不快感を感じずにはいられなかった。


 赤い1機は村の中心にある広場に向かい、それ以外の5機は散開してそれぞれが村の周囲に待機するようだ。

 さっきの叫び声は攻めてきたと言っていたが、まだ村に対しての攻撃は行っていないように見える。

 しかし、今の布陣を見る限り村から出るのを許してはくれないだろう。


 もう少し観察をしようと足を踏み出した所で、後ろからミランダさんの太い手が伸びる。


「チッ、帝国の奴らめ。 一体何のつもりだ……? 戦争おっぱじめるつもりかよ……」


 漢らしい声。

 普段のミランダさんと同一人物とは思えないその声に、決して事態は良い方向に向かっていないことに気付く。

 と、見上げるボクに気付いたミランダさんは、ニッコリと(怖い)笑顔を浮かべいつもの調子で口を開く。


「だぁいじょうぶよ、ユーリちゃん! ほらほら、エステルちゃんも怖がらないの、笑顔笑顔♪」


 きっと、ボクたちを励ますためだろう。

 普段以上に明るい声をかけたミランダさんは、ボクたちを抱きしめてこう言った。


「とりあえず、カレンちゃんの所へいきましょうねぇん。 ここは……ちょっとアブないかもしれないからぁん」


 ミランダさんが後ろ手をドアの隙間から店の中にいれたと思った瞬間。

 その右手には、ボクの身長以上の刃先を持つ、巨大な斧が現れていた。




「エステル、大丈夫?」


 握った手を離さないようにしながら、エステルに問いかける。

 まだ8歳のエステルに合わせて、無理をさせない速度で家に向かって走っている所だ。


「……ん。 お母さん、大丈夫だよね……?」


 エステルが心配そうな声を上げる。

 ボクは、ニッコリ微笑むと繋いだ手を少し強く握ってやる。


「……きっと、大丈夫」


 その後、無言のまま走り続ける。

 ようやく家が見えてくると、その玄関に二人の人影が見えた。

 カレンさんと、カテドラル卿だ。


「ユーリ! エステル!」


「お母さん! お母さん!」


 カレンさんはボクたちに駆け寄ると、ギュッと抱きしめた。

 ポツリ、と雨が頬に落ちた。

 ……いや、雨じゃない。

 カレンさんが、泣いていた。

 零れ落ちた雫が、ボクとエステルの頬を濡らしていく。


 と、ズシャッ!と地面を抉る音がした。

 慌てて振り向くと、憤怒の表情をしたミランダさんが、斧を地面に叩きつけカテドラル卿を睨んでいた。


「どういう事か、説明してもらおうじゃねぇか。 えぇ、おい?」


「……む。 貴様、珍妙な格好をしておるがもしや……」


「黙れ。 こっちが聞いてるんだ、さっさと答えろや」


 今にも殴りかかりそうな雰囲気で、青筋を立てたミランダさんが吐き捨てる。

 再び斧を持ち上げ肩に担ぐと、ブンッ! とカテドラル卿につきつけながらミランダさんは言った。


「知らねぇとは言わせねぇぞ? なぁ、帝国の貴族で騎士でもある、カテドラルさんよぉ!」




 どうやら、カテドラル卿が身分の高い人物であるという想像は当たっていたようだ。

 ただ、それは隣国である帝国側の、という前置きがついていたようだけど。

 しばらくの無言の後、苦虫を噛み潰したような表情で、搾り出すようにカテドラル卿は口を開いた。


「私は、伝えに来たのだ。 カレン様とそのお子に、より安全な所へご避難頂きたいと。

 帝国は……いや、皇帝はこの王国と戦争を始めるつもりだ。

 だがまさか……こんなに早く騎士が現れるとは」


「やはり、目当てはカレンか? でなきゃ、こんな小さな村に何の戦略価値もねぇはずだ」


「いや、そうではない。 奴らは皇帝の近衛、勅命で動いておる。

 ……皇帝はお変わりになられたのだ。 あのような愚かな……」


「さっさと答えろ。 カレンじゃないとしたら、奴らの目的はなんだ!」


「皇帝は……禁術指定を受けた召喚の儀式魔法を行った。 戦争の手駒とするためにな。 

 そして、どうやらその召喚は完全ではなく、出現座標が大きくずれたそうだ。

 その座標は調査中との噂だったが、この様子では……」


 召喚という言葉を聞いて、ボクは胸の鼓動が早くなるのを感じた。


「な……! それじゃぁ、奴らは……」


 あの赤い騎士は……





「召喚した、異世界の者を捕らえにきたのだ」


 ボクを、捕まえに来たのだ。





『親愛なる王国の愚民諸君。 この声が聞こえているかねぇ?』


 まるでスピーカーを通したような、馬鹿でかい音声が村中に響き渡る。


「む、これは……拡声(ラウド)の魔法か。 奴らが動き始めたようだ」


『さて、諸君にお願いしたいことがある。 ここ半年以内で、素性の判らない者がこの村に来たのではないかな? その者と、ちょっと話をさせてもらいたいのだよ。

 なぁに、心配はいらん。 その者には悪いようにはせんし、きちんと我々のお願いを聞いてもらえるならば、我々も早々に立ち去るとも』


『ただし……』


 ゾクリ、と背筋を冷たいものが駆け上る。


『お願いを聞いてもらえないと、この村に八つ当たりをしかねんがねぇ! クハハハハ!』


 楽しくて仕方がないとでもいうようなその甲高い声は、笑い声を残して次第に小さくなっていった。

 口を開くだけで恐怖と不快感を与える男。

 そんな男が悪いようにはしないだって? そんなはずはない。

 でも……


「お姉ちゃん……あの人、お姉ちゃんを探しているの?」


 エステルがギュッとボクのワンピースの裾を握り締める。

 ボクはうつむいて、唇をかみしめる。


 奴らがまともに約束を守るとは思えないけれど、少なくとも奴らの目的はボクだ。

 わざわざ探しにくるくらいだから、殺されるということもないだろう。

 でも、村の皆は違う。

 ボクが姿を現さなければ、現す気になるまで皆に危害を加えるに違いない。


 どうせ、一度死んだのだ。

 この優しい人たちを守るためだったら、ボクは……


「ボクがいく。 だから皆は 「ユーリッ!」


 パァンッ!


 甲高い音とともに、左ほほに鋭い痛みが走る。

 ぶたれたのだ。


 ハッとして目の前を見ると、泣きそうに顔をゆがめたカレンさんがいた。


「バカなこと言わないで。 行かせるはずがないでしょう!」


「でも……ボクが行けば、きっと皆は助かるんだよ?」


 1の犠牲で100が助かるのなら、当然その方がいいに決まっている。

 その1が厄介事の原因なら、なおさらじゃないか。


「わたしもカレンちゃんに一票入れるわぁん。 帝国の奴らがまともに約束なんて守るわけないじゃないのぉん♪

 っと、これは帝国の騎士様の前で、失言だったかしらねぇん?」


「……いや。 貴様の言う通りだ。 今の帝国は根から腐っておる。

 特に腐臭がひどいのが、あ奴ら近衛よ。 その子が名乗り出たとして、証拠隠滅としてこの村ごと焼き払われるだけのことだ」


 ミランダさんとカテドラル卿が続く。

 確かにあの男だったらやりかねない。 でも、だからといってこのままじゃ!


 と、口を開こうとしたボクの頭をクシャ、と撫でて、ミランダさんがほほ笑んだ。


「この村はねぇ、元々帝国から逃げ出した人間たちが集まってできた村なの。

 こぉんな可愛いわたしたちの家族を犠牲にして今更帝国にしっぽを振るくらいなら、潔くここで死んだ方がマシってもんなのよ。

 そうよねぇ、バカども!」


「「「おぉーーーー!」」」


 いつの間にか木こりさんが、狩人さんが、村の皆が集まっていた。

 皆が手に武器を持っている。

 最初から、戦うつもりで集まっていたのだ。


 カレンさんが、ボクとエステルを抱きしめる。

 そして、キッと広場の方を睨みつけて叫ぶ!


「わたしたちの家族は、絶対に奪わせない!」


 あぁ……いつの間にか、ボクにはこんなにたくさんの家族が出来ていた。

 この世界にきて、良かった。


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