純白の想1
その夜、琥珀は馬湧村の夢を見た。
琥珀にはその場所、を見た記憶はない。
少なくともこんな美しい風景は、今まで石祠が持っていた記憶の中にはなかった。
白い小さな花が一面に咲いていた。
微風ともいえる柔らかな風がその花や葉を揺らす。
何か不思議な香りがする風が、琥珀の意識の中に優しく吹き込んで来た。
その花畑に、白無垢の花嫁が立っている。頭は綿帽子で覆われて顔は見えない。
連峰から吹き下ろした風が、辺りの木々をざわめかし、花畑の小さな花々をも揺らめかした。
白無垢の花嫁は、その花畑の白い花々と共に、消えるように白い霧になった。
その一瞬だけ、琥珀には見えた。
白無垢の生地に織り込まれた模様。
白い椿の花の模様だった。
これは石祠の記憶ではなく、夢であると、琥珀には確信があった。
祠の記憶には、お咲という少女が婚礼衣装を着たという事実は見えなかったのだ。
父親が用意したのは朱色の打掛だったと少女は言っていた気がする。
何故、こんな夢を見たのか。
じんわりと掌が熱くなった。莉子のストラップに触れた掌だ。
(馬湧のお咲さんはじめ、世の女子は花嫁衣装を着るのがそんなに憧れなのか)
琥珀に入り込んだ少女の記憶の欠片が、莉子から入って来た乙女エネルギーに触れて、琥珀にこんな夢を見させたのかもしれない。
確信にはほど遠い曖昧な思考を巡らせながら、琥珀は二度目の眠りについた。
路旗の言う通り、事件が解決すれば夢にも見なくなるだろう。
そう願って。




