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アフターヒーロー  作者: 望月
第六章 帰還した勇者と一人ぼっちだった妖怪
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第五話 諦めた幽霊と諦めない死者⑤

 鉛色に鈍く光る空の下を、食材の入ったビニール袋を片手に歩いていた。

 空気が冷たく、体に沁みるような寒さだったが、談笑していれば気にならなくなっていた。

 早速クラスメイトに呼びかけてみると、全員が了承してくれた。

 クルミは楓が先に解決手段を発見したことに対し、ぷんすか怒っていたが、どうにか参加してくれる方向になった。

 和也や武蔵にも事情は伝え、手筈は整った。


「着いたよ。ここが桐生君の家」


 階段を登って、扉の前に立つ。

 深呼吸をしてから、満を持して、呼び鈴を鳴らした。


「いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは和也で、楓、雪乃の顔を見てから、やや右上に視線を動かした。

 どうやら彼も視えている側の人間のようだ。

 性格的に、波長が合うというより、クルミと同じ第六感で感じ取っているのだろう。

 しかし幽霊の存在にも表情を崩さず、笑顔のまま一行を中に入れてくれた。

 部屋は冬仕様になっていて、カーペットが敷かれ、こたつも出されていた。

 こたつの上には鍋が据えられ、食材を今か今かと待ち構えている。


「狭いところだけど、自由にしてくれていいからね」


 和也は背中越しに、鈴木を視た。

 本人は男性に微笑みかけられて恥ずかしかったのか、心なしか顔を赤くして、楓の背に隠れた。


「お、楓ちゃん一番乗り! 隣の人が雪乃ちゃんだっけ?」


 舞は食器を並べる手を止めた。

 鈴木は視えていないようで、雪乃につかつかと歩み寄る。


「はい。よろしくお願いします」

「よろしくね。私は桐生舞。呼び方は何でもいいよ。こっちのは兄ね」

「おいおい、こっちのとは何だ。兄の桐生和也です。よろしく」


 自己紹介も手早く済ませ、準備を手伝う。

 一方、鈴木とはいうと、部屋の隅で周囲を窺いながら縮こまっていた。


「あの、私、本当にここに居ていいんでしょうか」

「大丈夫だよ。ちゃんと話は通しているし、桐生君も自由にしてくれって言っていたじゃない」

「それは、そうですが……」


 招待された手前、嘆息こそしなかったが、やはり緊張はしているようだった。

 だから楓は舞が見ていないか確認してから、耳元でこっそりと、


「楽しもうよ、ね?」


 そう言ってから、生涯初のウインクをきめる。

 ぷるぷると震えたぎこちないウインクのせいか、鈴木は吹き出して咳き込んだ。

 楓はそれなりの出来なつもりだったので、内心動揺していたが、笑ってくれたようなので、羞恥より嬉しさが勝った。

 数分後、明るい声が外から響いてくる。

 フリーネとクルミもやってきたらしい。


「フリーネ=ドラゴニック、只今参上いたしました!」

「邪魔するぞ」


 大量の食材が入ったビニール袋を両腕で抱きかかえ、中身が傷まないようにして、ゆっくりと床に置く。

 食材は命である。

 適当なフリーネでも、扱いは慎重だ。


「ルーキフェルさんにフリーネちゃん! いらっしゃい!」


 舞が笑顔で二人に近づいた。

 フリーネもそれに応えて、元気よく抱き合うが、クルミはひょいっと躱した。

 楓を通じて知り合っていて、フリーネとは時々遊ぶ仲だ。


「舞よ。前に貸してやったゲームはクリアできたか?」

「うん! 二周目入ったとこだよ」

「そうかそうか。アレは周回前提のゲームだからな。一週目より楽しめるだろう」


 クルミは腕を組み、うんうんと頷いた。

 彼女らは楓も知らない内に、ゲームの貸し借りをする仲を築いている。

 同好の者ということもあり、クルミがいつになく甘いのが印象的だ。


「お邪魔します!」


 続いて、武蔵のガチガチに震えた声が玄関から聞こえてきた。

 和也が苦笑いしつつも出迎え、居間に上がってくる。

 妙に気合いの入った服装をしていて、まるで雑誌のモデルをそのまま抜き出したかのようだ。

 そわそわとする武蔵に、ピンとくる。

 武蔵が舞の横になるように座る位置を調整し、いい仕事をした、と心の内で、自分を褒めた。

 これで全員が集まった。

 八人による鍋パーティの始まりである。


「かんぱーい!」


 フリーネが音頭をとって、コップを軽くぶつけ合う。

 酒はなく、高校生らしい健全な飲料水で喉を潤す。

 鍋の具材も煮え、食べごろになっている。

 皆が箸を伸ばそうとするが、フリーネが「待って」と両手を突き出した。


「えっとー、あのね……」


 フリーネが言いかけたので、全員の視線が集中する。

 だが――


「お肉は私がいただくよ!」

「いいや待つんだ。そうそう君の好きにはさせないぞ」


 フリーネの箸が走るが、和也が手首を掴んで止めさせた。

 和也の超人的動体視力と反応速度から簡単に逃れられない。

 ずっと我慢していた反動で、フリーネの瞳がぎらついていて怖い。

 鍋は二つ用意してあり、キムチ鍋とすき焼きにしてみたが、早く食べないと全て持っていかれそうな勢いだ。

 そうならないように和也が抑えつけつつ、楓と協力して全員分の皿に盛り付けた。

 フリーネも次第に冷静になっていき、各々、自分のペースで食すことができた。


「つーか雪乃ちゃんいんのか。文化祭の時に会ったけど、覚えてる?」


 武蔵が雪乃に問いかけた。


「覚えてる。名前は知らないけど」

「そういや名乗ってなかったか。俺武蔵な」


 武蔵は緊張がほぐれ、へらへらを笑い始めた。

 よく考えてみると、男女比率が2:6だ。

 女好きの武蔵にはたまらない空間だろう。


「そーそー、本日のVIPの雪乃ちゃんです! みんな、雪乃ちゃんの言うことは何でも聞くように!」

「真っ先に肉を奪い去ろうとした貴様がそれを言うか」


 フリーネが立ち上がって宣言するが、クルミの鋭いツッコミに、場が笑いに包まれる。

 雪乃も僅かに頬を緩ませていた。


「……楽しい人達ですね」


 鈴木がこっそりと呟いた。

 彼女は雪乃に憑依し、感情や触感を共有することにしていた。

 憑依と言うと恐ろしいものに感じるが、鈴木に人格を乗っ取るような力は初めからなく、頑張ってもこの程度しかできない。

 しかし雪乃の感情を受けているからか、鈴木の顔もどことなく嬉しそうに見えた。


「クルミちゃんの持ってきた肉うめえな。口の中ですぐに溶ける」

「当然だ。私が厳選した世界最高級の牛肉だからな。貴様には勿体ないが、今夜は許してやろう」


 ふんぞり返るクルミを尻目に、武蔵は「まあクルミちゃんだもんなー」と驚くこともなく、味わって食べた。

 もはやどんな高級品を出されようとも、クルミだから、で納得して終わりなのだ。


「立花さんに借りてた本、読み終わったから後で返すね。話が綺麗にまとまってて面白かったよ。まさか冒頭で出てきたあの人が……」

「桐生君、駄目だよ。読んでない人がいるところで内容を話しちゃ」

「それもそうだ。また今度話すよ」


 和也が屈託のない笑顔で言った。

 本の貸し借り、楓が和也に貸しているだけの関係だが、思いのほか長く続いていた。

 時々感想を言い合ったりして、入学当初と比べものにならないほど、仲が進展できた。

 そう思っているのは楓だけなら悲しいが、頑張れば何とかなるんじゃないかと希望を持てるくらいには前向きになれる。


「最近のお兄ちゃんって、楓ちゃんの話が多いよね。おやおやこれはひょっとして……?ひゅーひゅー」

「……妙な邪推をするんじゃない」


 舞がニヤニヤとしながら、吹けない口笛を吹いて冷やかす。

 楓は気恥ずかしくなって、俯いた。

 大っぴらにそういう話をされると、喋れなくなってしまうし、和也の顔が直視できない。

 小声で「桐生君に悪いから……」と情けなく呟くのが限界だった。

 気分を変えたくなって、雪乃と鈴木の様子を窺う。


「ユッキーは中学生なんだよねー。ふふ、困ったことがあったら高校生のあたしに頼っちゃっていいからね!」

「貴様に頼ったところで、解決するとは思えんがな。頼るなら私にしておけ。此奴は無責任で阿呆すぎる」

「なんだとう! あたしだってやる時はやるんだからねー!」


 雪乃はフリーネとクルミに挟まれて、話の中心にいるはずなのに、言い合いの被害を受けていた。

 こんな状況でも幸せを見出そうとしているのか、両人の言葉に耳を傾けている。

 おまけにキムチ鍋から具をかっさらって、顔を真っ赤にしながら、ぱくぱくと口に放り込む。


「雪乃ちゃん、けっこう食べんのな」


 武蔵が驚いて目を見開く。

 楓も知らない、尤も知り合って数時間だが、まさかこれほど大食いとは夢にも思わなかった。


「辛いのは好き。……オレムサシさん?」

「はーん、大食いで天然キャラときましたか。こりゃポイント高いぜ」


 武蔵は指を差し、アメリカ人のような大げさな笑い方をした。

 意味がいまいち理解できていない雪乃は、首を傾ける。

 その両隣では言い合いがヒートアップし、静まる気配すらなかった。


「これはどっちが頼りがいのある人か、はっきりさせるべきだね! 勝負だ!」

「いいだろう。題目は貴様が好きに選べ。どうせ私が勝つ」

「言ったなぁ! そうだなぁ、あたしがクルミちゃんに勝てるのは……あるのかな……? いやあるよね……たぶん……」


 どんどん声が細くなっていったが、突然指を鳴らした。


「そうだ! ダンスとかどう! これなら勝てそう! なんてったって、子ども達とよくやってるからね! これなら負けない!」


 フリーネが胸を張って宣言する。


「ダンスか。ではジャンルはどうする? フラメンコか? ワルツか? なんならブレイクダンスもいい。 おいキリュー、ゴミ。ジャンルによっては付き合え」

「下に響くから勘弁してくれ」

「俺まだゴミなのね」


 武蔵は悟りをひらいたような目になる。

 入学から一貫してゴミ呼ばわりというのは、さすがに同情をせざるをえない。


「ふ、フラミンゴ? わじゅつ?」


 フリーネに至っては、ジャンルの意味が分からず、目を点にしていた。

 まるまる一分間固まったままだったが、再起動して、片足で体を支え、つま先を震わせながら立った。


「ど、どう? あたしのフラミンゴ!」

「確かにフラミンゴではあるが……まあ、貴様はそれで構わんか」


 まるで鈴木の嘆息みたく、大きく息を吐く。

 まごうとなきフラミンゴに、特にコメントも出てこない。

 生暖かい空気が溢れてくるが、雪乃だけは厳しい目付きだ。


「それじゃ駄目。体の使い方がなってない」


 雪乃がフリーネに並んで立ち、バレエのダンサーのように、左足の爪先を立たせ、右足を九○度近くまで上げて、ピンと伸ばす。

 いっさいのブレがなく、線が滑らかで、見事な片足立ちだ。

 ミニスカートなので色々と大変な光景になりかけているが、当然のように視線を下にずらそうとする武蔵を和也が引き戻し、舞がとどめにおでこを指で弾き、ことなきをえた。


「ユッキーすっごいね! あたしにも教えて! クルミちゃんに勝つために!」


 フリーネが感嘆の目を向ける。

 雪乃は「うん」と素っ気なく答えるが、満更でもないようだ。

 この無表情気味のところや、淡白な対応は昔の楓に似ている。

 似ているのなら、楽しいと感じる時も一緒かもしれない。

 そうだったら、もっと仲良くなれそうだ、と楓は思った。


「悪くないな。だが最高のバランス感覚を持っているのは私だ」

「俺もやってみるかな」

「んじゃ俺も。一番立っていられた奴が優勝な」

「優勝したら何があるの?」

「俺からの熱いキス」

「くたばれ」


 雪乃を中心として、話は熱を帯びていく。

 雪乃の気持ちが熱くなれば、憑依している鈴木の感情も盛り上がる。


「ああ、私って、こういうことが……」


 鈴木は呟くが、騒ぎにかき消されて、誰の耳にも届かなかった。











「熱くなってきたし、ちょっと外に出ね?」


 武蔵の提案に、全員が賛成だった。

 あれから雪乃のバランス感覚授業で謎の盛り上がりをみせ、誰が一番つま先立ちを維持できるかで競った。

 勝者は和也で、クルミも粘っていたが、最後の最後に体勢を崩し、心の底から悔しそうな顔で、敗北の分析を開始していた。

 冷えたら戻れるように、アパートの出口付近で涼む。

 陽は落ちて、黒一面の世界が展開され、街灯の光が星のように夜空に映し出されていた。

 風が吹けば体が痛くなるような寒さだが、それも心地よく感じるほどに、体が暖まっていた。

 空を見上げていた武蔵が、呟く。


「雪じゃん。もう降らねえと思ってたわ」

「ほんとだー。雪が降ってきてるねー」


 雪がひらひらと舞い落ちる。

 空には見計らったかのようなタイミング、まさかと思い、雪乃の耳元で囁く。


「雪乃ちゃん……」

「うん。私が降らした」


 雪乃が口角を震わせながら、不自然な笑みを作る。

 やはり突然の降雪は彼女が原因だ。

 雪女の力なら、雪を降らせることができる。

 広範囲にばら撒くのは無理だが、演出レベルでなら、形になるのだ。


「子ども達が降るわけがないって言ってたから。絶対に降らしてやりたかった」


 口を広げて雪を食べようとするフリーネを、周りが笑いながら宥めている。

 雪乃は空を見て、楓は雪乃を見ていた。


「ありえない、も、諦める、も、どっちも嫌い。幸せにそんな物はない」


 白く穢れのない言葉が、空に消える。

 楓も同じように空を見上げる。


「もしも一人でどうしようもなくなったら、私に言ってね。何とかするから」

「何でそう思うの?」

「さぁ?」


 楓が渾身のウインクを繰り出す。

 偽物でも万物を創り出せる能力があれば、きっと手助けできるだろう。

 例によって小刻みに震えているが、本人的には上出来なつもりだ。

 雪乃は僅かに頬を膨らませて、そっぽを向いた。

 拗ねてるな、と思った楓は、頬をつついて指で弄ぶ。

 餅みたいに柔らかく、触っていて気持ちが良い。

 嫌がっているような素振りは見せるが、抵抗もしてこないので、じっくりと遊ばせてもらった。

 新たな友人との距離が、少しだけ縮まった気がした。












 ――私もこんな風に友達といたかったな。


 鈴木は胸元でぎゅっと拳を握った。

 パーティの途中から雪乃への憑依を止め、一歩離れた場所から眺めていた。

 実のところ、鈴木はほとんどの記憶を保持していた。

 ありふれた名前も、娘に興味がない親も、住んでいた土地も家も、好物の納豆も、小学三年生の頃に絵の賞を貰ったことも、何もかも鮮明に記憶していた。

 死んだ瞬間は覚えていると話したが、むしろ最も穴だらけで、思い出そうとすると、真っ暗闇に落ちていく。


『鈴木さんってホント真面目だよね』


 クラスメイトの誰かが、そんな言葉を口にしていた気がする。

 鈴木には話す相手はいたが、遊んだことはほとんどない。

 ずっと勉強をしていた。

 両親は娘に愛情を注ぐどころか、邪見に扱っていた。

 詳しくは知らないが、望まれて生まれたわけではないらしい。

 暴力こそ振るわれなかったが、特別何かを与えられもしなかった。

 同年代の子が玩具を買ってもらっているのが羨ましくて、親に懇願したことがあったが、


『また今度ね』


 母の口癖だった。


『黙ってろ』


 父の口癖だった。

 今度、また今度、さらに今度、いつまで経っても、買い与えてもらう時は来ない。

 言う度に、黙ってろ、静かにしろ、口を閉じろ、そう説教された。


 授業参観に来てくれたのは二回、どちらもすぐに帰っていった。

 どこかに遊びに連れて行ってもらった覚えはない。

 必要最低限の食事や寝床はあったが、それだけだった。

 それさえも、近所の人や世間体を気にしての配慮であることを、小学校四年生ぐらいのときに気付いた。

 早く家を出たかったが、どうすれば良いのか分からなかった。

 人との接し方が分からなかったのだ。

 親はあくまでも、最低限しか許してくれず、友達を家に呼んだことはないし、遊びに行ったこともない。

 時間だけが余った。

 だから、勉強をした。

 他にすることが思いつかなかったからだ。



 次第にクラスメイトから誘われもしなくなった。

 好きでもない勉強を一心不乱にし、毎日を過ごした。

 おかげで学年トップの成績を維持できていた。先生からの評判もよかった。

 高校を卒業したら、遠くに行きたいと考えていた。

 誰も鈴木を知らない、遠く、ずっと遠くに。

 しかし死んだ今となっては、一番の成績も、家を出る夢も、意味をなくしている。

 幽霊になって、遠くに行けるようにはなったが、死んでいるのと生きているのでは天と地の差がある。

 人生に意味はあっただろうか。

 特にやりたいこともなく、勉強しただけの人生に。

 大人になれなかった子どもは、勉強した意味があったのだろうか。

 高校生にして、階段から落ちて死ぬ。

 なんと馬鹿らしいのだろう。

 幽霊に心があるかは知らないが、心の中で自嘲する。

 もっと友達を作って、喋って、遊んで、両親なんて笑い飛ばしていれば、こんな幽霊にならずに天国に逝けただろうに。


 彼女らのように、こうやって友人と語らい、食べ、ふざけあって、空を眺めたりしたかった。

 もしも自分が生きて、出会えていたとしたら、友達になれただろうか。

 宙に浮かんで、全員を見渡す。


 フリーネは天真爛漫で、人懐っこく、押しに弱い鈴木とは対照的で苦手だ。

 クルミは面倒見がよく、頼もしいが、高圧的な部分が苦手だ。

 武蔵はスケベで苦手だ。

 和也は爽やかオーラ全開で、苦手だ。

 雪乃は無表情で本音を吐くけれど、人付き合いが苦手そうなところに親近感が湧く。

 楓は表と裏で違いが激しそうだけれど、物静かなところが好きだ。


 全体的に苦手な人が多く、やっぱり友達になるのは難しいかもしれない。

 地味な級友の言葉を借りれば、彼女らはリア充で、鈴木とは別次元の存在だ。

 なれるかも、と考えるのもおこがましい。


 そうやって思い込んでしまうのが、自分らしい。

 鈴木は小さく笑う。


 満足だ。

 両親から逃げられた。

 楓達が嫉妬を覚えないわけではないが、諦めはいい方だ。

 こうして雪乃を通して、欲しかったモノを感じ取ることができた。

 愛情や友情、喜びや笑い、たくさん伝わってきた。

 鈴木の中に、温かい気持ちが染み込む。

 生きている頃に感じられなかったものだ。

 来世があれば、彼女達のような人に会って、友達になりたい。

 きっと楽しい日々の連続だろう。


 両親との仲を改善することを諦め、友人を作ること諦め、勉強に生きてきた。

 楽しい人達は、楽しくあればいい。幸せであればいい。

 不幸なんかならならなくていい。

 自分は勝手に諦めて不幸になってしまったが、この人達にはそうなってほしくはない。


 体から急に力が抜ける。

 鈴木は悟った。

 もう留まることもできずに、消えていくしかないのだろう。

 それでいい。

 鈴木の為に色々としてくれた人は、彼女達だけだ。

 最後に良い夢を見させてもらった。

 だから最期に一言、お礼を言おう。


 ――ありがとう。


 鈴木の存在が薄くなりすぎて、もはや言葉は届いていない。

 聞かれるのも、それはそれで恥ずかしいから、ちょうどいい。

 こんな時にさえ、まともに話せない。

 これもまた自分らしく、悲しいような、誇らしいような。

 気恥ずかしげに頬を掻き、静かに目を瞑る。


 そして鈴木は、ひっそりとこの世から旅立った。







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