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アフターヒーロー  作者: 望月
第一章 帰還した勇者と清条ヶ峰学園
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第十六話 忍者&ドラゴンVS経立&その他



 服部武蔵とフリーネ=ドラゴニックは和也が廃工場に突入したのを視認し、敷地内を堂々と正面から進む。

 侵入者に一定の距離を取りつつ、凝視する十数の妖怪。

 人の姿から人型ですらない異形が陣を組んで二人を包囲しようと動く。

 狙い通りだ。


 和也が本命を攻撃し、雑魚を武蔵とフリーネが引きつけ、相手取る作戦。

 どうやって牛鬼の正確な位置を知ったか聞けば、直感とかふざけた返答だった。

 廃工場に忍び込む技術は達人級で、五分後には携帯に準備完了と連絡がきた。

 忍者より忍者やってる。武蔵は悔しげもなくそう思う。

 清条ヶ峰に入学する生徒はいずれも普通とは遠くかけ離れている者が多い。

 疑いはしたが、深くは追求せず、見送った。

 生死が関わる状況で、出来ないことを出来ると言い張る人間でないのはわかっていた。

 

「んじゃ、俺が掃討しとくからフリーネちゃんは下がってな」

「でもハットリ君強くなさそうだし、隠れてていいよ?」

「戦闘間際だというのに、この頼られ感のなさ!」


 まるで危機感のない会話だ。

 囲んでいる妖怪はどれも人間を片手で捻るなんて造作もない人外。

 ドラゴンのフリーネはともかく、忍者であっても筋力も視力も聴力も人間の範疇の武蔵はいつ首が胴とおさらばしても、何ら不思議ではない。

 金髪を掻き上げると、懐からスマートで金属製の長方形の物体を取り出す。特撮にでも登場しそうな赤と白の塗装に、金色の突起の装飾が施されており、場の雰囲気にそぐわない。

 これでも武蔵のとっておきだ。使用するのは心から遠慮したいが、いざとなったらためらっていられない。

 そしてそれを見て、テンションが上がるフリーネ。

 満天の笑顔で武蔵に体を寄せる。


「おお! なんかカックいいねそれ!」


 食いつくポイントが子どもなフリーネちゃんマジ可愛い。

 そんなことが頭を一杯にする。

 普段なら仲良くなろうと、長方形の物体を餌にするのだろうが、今の武蔵は気持ちが盛り上がる前に、上から下に流れる滝のように盛り下がる。


「……すげえ恥ずかしいから、ジロジロ見るのは止してくれ。マジで」

「えー! すっごいカッコいいのに? あたしも欲しいなそれー。超欲しいなー」


 おおっぴらげに感情を押し出すフリーネに、対応をあぐねる。

 胸が腕に当たって感触を心臓がバックバク。呼吸が荒くなってしまう。

 まさしく見掛け倒しの純情な少年なのだ。

 不良ぶっているのも女の子にモテるためという不純な動機。外見以外は優等生を張れるスペックを有している。どちらか片方にしていれば、もっとモテただろうに。本当に残念な少年である。


「おいふざけてんのかテメエら」

「ぶっ殺すぞ」

「おい囲んで潰すぞ」

 痺れを切らした妖怪が口々にけなしてくる。

 今の今まで二人の謎空間に付き合っていたのだから、声にも苛立ちが混じっていた。

 赤髪の少女は緊張感皆無で、金髪の不良は玩具を手にしている。

 戦闘狂の彼らにはふざけているようにしか見えなかった。

 各々の武器を構え、殺気をこれでもかと噴出させる。

 フリーネは異形からの殺気を全身に感じながらも、にこにこしたままだが、武蔵は表情を引き締め、フリーネをかばうように立つ。

 

「女の子の前で物騒な事言ってんじゃねえぞクソども。俺が相手してやるから、とっとどきな。地面にキスさせてやる」


 フッ、とカッコつける純情忍者武蔵。

 女性の手前、自分を良く魅せたいのが男の性。

 しかも可愛い女の子。自然と意識したものとなる。モテたい武蔵はとにかくカッコつけたがりだ。

 出だしを失敗して、ゴミ扱いの今日この頃。ついに挽回する機会がきた。

 ここで男を上げて、「きゃー、武蔵君カッコいいぃい!」とか「抱いて!」とか言われたい。とても言われたい。

 よからぬ妄想を繰り広げ、クルミがいたらゴミと呼ぶであろう下衆な笑みの武蔵をよそに、フリーネはきょとんとしていた。


「もうハットリ君てば強がっちゃって。あたしに任せてくれればいいのにー」

「え?」


 武蔵の思いをことごとく無視し、逆に前に動くフリーネ。

 完全に頼りにしていない。戦力として期待されていない。

 戦場だというのに、視界が歪んでくる。

 自分の男としての魅力はそこまでないのか。下心全開の男はそんなにダメなのか。

 ダメだからこんな扱いなのだろうが。

 

「ほらやっぱり強がってる。ほら涙拭いて。ここはあたしがビシッと決めるよー!」

 

 フリーネは人外の怪物達を純真な笑顔で捉え、左腕を天に突き出す。

 人間サイズだった細腕は、徐々に形を変化させていく。

 その様は、生々しくなく、あたかも最初からそうであったように変貌する。

 ゴツゴツした赤い鱗。鉄をも簡単に切り裂きそうな鋭利な爪。風貌を人のそれとは別の形状に。腕の大きさも三倍はある。腕だけではなく、左の肩甲骨までも鱗に移り変わっており、楓を貫通させた、フリーネの身長を余裕で超える猛々しい赤い翼も生えていた。


「うーんこのくらい戻しておけば大丈夫かなー。なるべく殺したくないから加減しないと。昔と違って学生だもんね!」


 龍の腕に変質した自身の腕を眺めて、五本の指で拳を作る。

 ドラゴンその物より、ドラゴンっぽくなった人の腕に近い。

 翼をはためかせると、砂を巻き上げ、一帯を蹂躙する風圧を生む。

 武蔵は踏ん張ろうとするが、数秒もしない間に地面を転がっていく。

 そして虚しい絶叫だけが残った。

 

 基礎が人外スペックの妖怪は体を仰け反るも、吹き飛ばされはしない。

 人間と妖怪の間にはそれだけの差がある。対象が一人になった事で妖怪側が有利に思えるかもしれない。


 だが。その顔は驚愕に包まれていた。


「ど、どうしてドラゴンがこんな所にいる! 情報ではお前は山蜥蜴のはず……!」


 山蜥蜴とは炎のように赤く、風を起こす特性を持つ西国の妖怪だ。

 中位妖怪でも強い部類だ。しかしドラゴンは次元が違う。

 外見上の特徴はあながち間違っていないが、サイズも強靭さも全てにおいて上回っている。

 どれほどの差があるかというと、蟻と象を比べるとわかりやすい。

 象は足元の蟻なんて目にも留めないし、踏み潰したって気づきはしないだろう。

 ドラゴンと山蜥蜴が対峙した場合、一瞬の間すらなく、天に新たな星を飾られる。

 両者には覆しようのない壁が存在しているのだ。


「一部の人しか知らないようにしたのに、なぜそれを!?」


 フリーネも驚愕する。

 実は学園内のE組と教師陣と学園長しかフリーネがドラゴンだと知らない。

 上級生や保護者は彼女を中位妖怪、山蜥蜴だと認知している。

 頭の螺子が一本抜けてる学園長が隠すぐらい、ドラゴンはこの世界で異端なのだ。ある意味楓よりも。

 

 妖怪が見れば一目瞭然なのに、姿を現してしまう彼女の貧相な頭脳は妖怪の反応をまるで理解していない。

 楓もクルミもフリーネも武蔵も。全員どことなくずれている。

 上の学年もそうだが、まともな感性の持ち主はE組に存在しないのだ。

 フリーネは変化させた左腕をぶんぶん振り回す。


「知ったからには無事には済まさないよー! あたし怒っちゃったからね!」

「は? いや怒らせるような事は……」

「じゃあ何であたしがドラゴンって知ってるの! それにカエデちゃん襲ったりしたでしょ! 怒り倍増だよ!」


 まさしく理不尽。

 楓については納得できる。

 それは納得できても、自分から晒した姿にどうこう言われる謂れはない。

 戦闘狂の妖怪達も呆れて開いた口が塞がらない。


「みんな吹っ飛んじゃえぇぇぇぇぇぇぇえええええ!」


 腕に自慢がある妖怪が。異形が。いとも簡単に、宙に舞っていく。

 人間が雑草を引き抜くように。風が綿毛を攫うように。


 十秒の短い時間で、敷地内にいた妖怪は一匹残さず、赤き暴風に飲み込まれていった。



「いてて……ひどい目に遭ったぜ」


 一方武蔵は、工場側の壁に頭を打ちつけていた。

 後転を繰り返して、勢いを殺さないまま後頭部から激突したせいで、焦点が合わない。耳鳴りがする。頭が痛い。口の中は血の味がする。

 フリーネに文句を言おうにも、現在進行形で暴れまわっている。

 異形共がなすすべもなく地面を這っていた。屈強な妖怪がゴミのようだ。

 人間の武蔵が下手に介入したら死ぬ。断言できる。それでも何とか、とっておきの武器を手離さなかっただけマシだ。


(あーあ、せっかくカッコいいとこ魅せてやろうと思ったのによぉ……)


 冷たい鉄の壁に背中を預け、落胆する。

 株が大暴落中の今。景気を上昇させるにはここしかないと意気込んでいた。

 それがどうだ。

 頼りにはされない。巻き添えで吹き飛ばされる。あげくに何もしていないのに傷だらけ。

 散々だ。ぶっちぎりでカッコ悪い。

 思えば入学当時からそうだ。

 高校デビューのために髪型を変え、口調も変えた。ルックスはそこまで悪くない。

 勉強だってできる。運動もクラス内じゃ目立たないが、人間レベルではトップクラス。

 彼女とのイチャらぶ学園生活なんて余裕だと思っていた。


 だが現実は甘くなかった。

 隠していた下心がバレて、クラスの女子から蔑まれる。

 有名な学園で、外見から不良な生徒はおらず、一人だけ浮きまくり。

 怖がって女の子は近寄ってこない。話しかけても逃げられる。

 おかげで、あまり交流のない他クラスですらアウト。

 男友達は多くなって楽しくはなったが、心は潤わなかった。


「……ま、今はとにかく妖怪共の殲滅か。ったく、この街でも化物の相手するとはな。フリーネちゃんが見逃した奴でも探すか」


 気を取り直して、手持ちの武器を確認する。

 振動で鉄すら裂ける超振動ナイフ一本。岩をも貫通する服部家特製拳銃が一丁。マガジンが二個。目くらまし用の煙玉一個。微妙なデザインの長方形秘密兵器が一つ。

 戦う羽目になるとは想定外のため、寮にも必要最低限の物資しか貯蔵しておらず、持ち合わせも余裕があるとは言えない。

 舌打ちして、その場を後にしようとすると、


「あのクソ野郎ぶっ殺してやる! 舐めやがって! 糞が! 人間の分際で!」


 怒りに満ちた叫びが聴こえてきた。

 ちょうど武蔵がもたれかかっていた壁の裏から。


「おらぁぁぁぁあああああああ!」


 錆び付いて脆くなっていた壁が崩壊する。割れた破片が拳銃に直撃し、遠くに跳ね飛ばす。

 取りに行きたいのは山々だが動くわけにはいかない。動けば敵も動く。人間と妖怪の差は歴然。

 取りに行く間に殺される。

 黙って見てみれば、出てきたのは大きな猿。茶色の体毛に真っ赤な顔。どうしてだか傷を負っていた。

 フリーネが起こす一方的暴力がなければ素早く察知できていたのであろうが、今は恨んでいる時ではない。

 離れていなかったら危なかった。転がる瓦礫のように粉砕されていただろう。


「何だテメエは」


 ギラついた視線が武蔵を貫く。

 何度も修羅場をくぐり抜けた経験がある武蔵は動じなかった。

 冷静に妖怪の特徴を頭の中のデータを照らし合わせていた。


(猿の妖怪……経立か。これといった弱点はねえが、特別強いわけでもねえ。だがこの状況はまずいな)


 武蔵は妖怪殺しを生業とする服部家の忍者だ。

 古くから妖怪を滅し、一般の人々に被害がでないよう務めてきた。

 忍者もまた世界の闇の一部。国境を越え、名前を変えて、様々な地域に根付いている。

 武蔵も忍の一員。様々な妖怪のデータが脳に詰まっている。

 世間の認識では、要人の暗殺やスパイの仕事のようなイメージがあるが、実際は違う。

 妖怪の脅威を、進歩した科学を用いて、人々を守る防衛集団の要素が強い。

 武蔵の持ち物もやけに近未来的な装備だ。おおよそ三〇年は一般社会より進んでいる。

 超常現象のような存在に対して、人間が対抗するには科学の異常な発展は当然の帰結だった。

 異能者でもない限り、人間は妖怪に無力なのだ。

 そういう流れがあり、兵器が尋常じゃない強化をされている。もはやSFだ。

 忍者の要素が欠片もないが、人目を忍んで戦っているので、あながち間違いでもない。


 武器がなければ鍛えた人間と大差ない武蔵は、この状況を打開するため、脳をフル回転させる。


「通りすがりのただの人間です」

「そうか。なら帰ってもいいぞ」


 予想外の危機を案外余裕に切り抜けられそうで、肩透かしだが、帰らせてもらえるならお言葉に甘える。

 フル回転しておいてひどい嘘だ。武蔵もひどいと思っている。


「だが待て」

「はい?」


 血に滲んだ顔がグロテスクに歪む。


「今すげえむしゃくしゃしてんだよ俺。つーわけで適当に殴られろ。殺しはしねえよ多分。そもそも一般人のわけねえだろうが」

「ですよねー」


 冷や汗が流れる。イチかバチか銃を拾いに行くかどうか。距離はおよそ八メートル。

 経立との距離は約一〇メートル。人間と妖怪のスペック差を考えると微妙な距離だ。

 あちらは武蔵を妨害するか殺すかに対して、こちらは拾って、狙いを付けて、引き金を引かねばならない。


(銃を拾うのは無理だな。リスクが高い。……不本意だがアレを使うしかないねえか)


 ズボンのポケットに入れていた特撮風の長方形の物体を出す。

 これの発動は時間がかかる。

 時間稼ぎをして、どうにか隙を作らねばならない。


「ちょっとお待ちになってください」

「何だ?」

(よし反応したぞ! 外見だけじゃなく中身も猿だな!)


 あとはうまく一定時間の猶予を貰えるよう誘導するだけだ。

 武蔵は大げさなジェスチャーを付けて、懇切丁寧に説明する。

 素とはかけ離れた言動になってしまっても、ここは隙を作ってみせる。


「いやあ僕の家は死ぬ前に必ず神にお祈りしろと言われていまして。例え火の中水の中あの子のスカートの中でも、お祈りしなければならないんですよ」

「それで?」

「もしかしたら死んでしまうかもしれないので、お祈りをさせていただきたいのですが」

「馬鹿かお前は」

「まあまあ人間の最後の望みだと思ってくださいよ。人間ですよ人間。妖怪さんからしたらゴミみたいな人間の小さな望みぐらい叶えてくださいよ。ねえ立派な妖怪さんだったらちっぽけな願望ぐらい叶えてくれますよね? ねえ?」

「黙って聞いてれば、好き放題言いやがって。めんどくせえから好きにしろゴミ」

(ゴミはテメエだけどなぁぁあああ! くそったれ猿妖怪が! 俺にゴミと言っていいのはクルミちゃんだけだ! このアホが!)


 経立は興が削がれたように、嘆息する。

 相当変人だと認識されてしまったようが、武蔵の思惑通りだ。

 こういう戦闘狂のような変人は、その上をいく変人っぷりを見せつけ、さらにプライドを逆撫ですると、なかなか効果がある。

 これでようやく、心おきなく秘密兵器を使える。

 心から使いたくないのだが、死ぬよりはちょっぴりマシだ。


 たとえそれが――


「いくぜ! 正義の証明を此処に!」


 長方形の物体を天に掲げる。

 経立は意味の分からない光景に目を疑う。


「魔に汚れし邪悪を解き放て!」


 掲げた腕を経立に向かって突き出す。


「研ぎ澄ませ! 日輪の刃を!」


 掛け声に応じて、物体が黄金に光り輝き出す。まさしく日輪が如く。 

 そして大きく両腕をクロスさせる。光がさらに増していく。


「シノビチェンジ!」


 物体だけでなく、武蔵の体全体が黄金色に迸る光に包み込まれる。

 絶大な光は武蔵に収束し、一つの形を作り上げていく。

 直視できない光量は段々と少なくなり、武蔵の姿が見えてくる。


 しかしそれは先程のまでの姿ではない。

 白銀の騎士兜にV字の金の突起。余計なパーツがついていないスマートな白いフォルム。

 胴には赤いラインが走り、背中には同じ色のマント。脚部は鋭利な刺がある。

 腰には白い柄が差しており、特撮にでも出てきそうな出で立ちだ。


 ――中二的台詞かつ外装になったとしても。


 変身が完了した武蔵は泣き叫び、経立に突貫する。


「ちくしょう! 何が悲しくて俺はこんな格好で戦ってんだ! 楓ちゃんを助けるためだと思ってこれを使う覚悟で来てみれば、俺いらねえし! むしゃくしゃするからテメエ吹っ飛びやがれぇぇええええ!」

「はあああああああああああああああ!?」


 これぞ服部家特製、対妖怪最新装備。『超戦士装甲(ウォーリアーアーマー)

 またの名を服部家の悪ふざけ。悪ふざけなのでこの世に一つしかない逸品だ。

 武蔵の父親である現当主の趣味をふんだんに盛り込み、忍の最新科学を用いて製造された最強の鎧。

 性能は上位妖怪とも肉薄するパワーと耐久力。使用者の身体能力を上昇させ、音速にも反応できるようにする特殊な機能が備えられている。

 外見は父親デザイン。


「初めは妖怪相手に有利だっつうから着てみればこの格好! しかも敵の前でしか変身できないクソ仕様! 親父は「ヒーローは敵の前で変身するから意味がある」とか言ってるしよ! 忍者だろうが! 無駄な機能つけてんじゃねえよ! それも戦う度に録画するしよ! 戦闘後に毎回見せ付けられる俺の気持ちがテメエにわかるかぁああああああ!」


 今まで溜まりに溜まった鬱憤を経立相手に吐き出す武蔵。

 もはやただの愚痴に変わってしまっている。

 この特撮装備が原因で武蔵は逃げ出したようなものなので、ストレスは尋常じゃない。

 経立は一方的に攻撃され続け、なんとか躱している。伊達に戦闘狂はやっていない。

 それでも躱すだけで終始押され気味だ。


「くそっ! 俺が人間なんざに! しかもこんなふざけた野郎に!」

「言いやがったな! 傷つくんだからなそれ!」


 武蔵は腰に差してあった刀身なしの柄を引き抜く。

 変身と同様、技名を心底泣きながら叫んだ。

 技名も言わないと発動しないという徹底ぷり。父親のこだわりがよくわかる。

 実戦には余計以外の何物でもないが。


「必殺! グランドセイバァァァァァァァァァ!!」



 無かったはずの刀身部分が青白く輝く。高温の熱を伴って蒸気を発生させる。

 次第に刀の形を作り上げ、太く厚い、辛うじて刃の形状のレーザーを生み出す。

 全長は三メートルにも及ぶ大刀だ。

 振り下ろされた超高熱のそれは経立の体を焼き尽くし、消滅させる。悲鳴をあげる暇は無かった。


 瞬殺。その言葉がぴったり当て嵌る。


 



 快勝間違いなしだが、武蔵の心はひたすら泣いていた。主に恥ずかしさで。


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