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白の魔法師と堕ちた俊英  作者: 夏目潤
第1章 旅と波乱の幕開け
6/20

5:謎を解く鍵

秋です。学園祭の季節です。

――ということで絶賛準備に追われている私です。

更新が遅れたのはそのためです。ハイ、反省してます。

今後もちょくちょく更新できない日があると思いますが、生温かい目で見守ってください。「お気に入りやーめたー」とかやられると泣いちゃいますよ!(泣くな)



声の主は、片手に酒ビンを数本持った大柄の男だった。酒臭いものの、まだローレほど酔ってはいないようだ。その後ろにも、数人の似たような男達がたむろしている。


どうやら今魔法を使っていたところを見られたらしい。なんという不運。


「あースンマセンねぇ~この子、今ちょっとそんな状況じゃ」

「勝負だあああああああ!」


ひらり、と跳躍したローレがフィルの言葉を遮って男の前に着地した。机の上の空の酒ビンを掴むと、ビシリと男に向かって突き出す。

それを見て、男はにやりと笑みを浮かべた。背後にいる数人の男達に目配せする。


「よーし、いい度胸してんじゃねーか姉ちゃん。表出ろや」

「フン、私をローレッタ・ジュディットと知って言っているのか!?」


自作のポーズを決めて、数人の男と共に店の外へ出るローレ。フィルは慌てて残った料理を口に詰め込むと、ローレ達の後を追う。


「ローレ、ちょ、やめとけ!」

「問答無用だ、もやし!私を誰だと思っている!?」


得意顔でポーズを決められ、額をおさえるフィル。もはや人格が崩壊している。普段の冷静沈着なローレは何処へいったのか。酒というものは本当に怖い。


店の表通りは、まだまばらにも通行人がいた。それを押しのけ、ローレ含む『テベレケ組』は勝手に勝負とやらの準備を始める。

男は、木の棒でガリガリと何やらフィールドのようなものを描き始めた。人二人が余裕で入るような、大きな長方形だ。


男は腕を回しながら言った。


「今から五分間、魔法アリのバトルだ。どちらかが倒れた場合、この長方形から出た場合はそいつの負けだ。それに…」


男は、マントを脱ぎ捨てたローレを舐めるように観察した。


ローレは、マントの下は薄手のワンピースに革の胸当てや同じく革のベルトしか身に着けていない。胸元の辺りは大きく開いており、傷一つない白い肌が覗いていた。おそらく通行人が男性の場合、十人中十人は二度見するだろう。


「負けた場合は相手の言うことを一つ聞いてもらうぜ」


にたにたと表情を崩す男達を見るかぎり、思うところは一つだった。ローレはそれを気にもとめず、普段の口調で淡々と告げた。


「良いだろう。ただし、私が勝った場合も同じことをしてもらうぞ」

「いいぜえ、その意気じゃねぇとな」


バキバキと指を鳴らす男。よほど勝つ気マンマンなのだろう。ローレは空色の髪をかき上げた。


「お~い、ローレ~……」


もやし男の細い声など、当然誰の耳にも届く訳がなく。


「それじゃあいくぜぇ!」


誰かの口笛。それが合図だった。


両者は低く腰を落とすと、猫のような瞬発力でとびかかる。

ローレの頭ほどもある男の拳が、その華奢な体に迫る。


それをかわし、ローレは左手で男の襟を掴むと勢いよく放り投げた。粉塵が舞う。

だが、男が長方形の外へ投げ出されることはなかった。器用に身を翻すと地面に着地する。


おおっ、と周りから歓声が上がった。


いつのまにか二人を囲むように人だかりができており、二人の勝負の行く末を興味深々といった様子で見つめている。


「ハッ、中々やるじゃねぇか嬢ちゃん」


男が体制を立て直す。バキリと手を鳴らすと、空中に魔法陣を描いた。あまり見たことがない、変わった形の魔法陣だ。


砂礫ジョフ・オイヴィ!」


その呪文に答えるように、地面が爆発的に盛り上がった。棒状に伸びた土から、細かい弾丸のようなものが発射される。


(高位魔法だな…これだけの魔法を使えるとなれば、魔力は相当…)


なら、とローレは砂でできた弾丸をかわしながら高速で魔法陣を描く。

一瞬にも満たないスピードで完成した魔法陣に向かって呪文を唱えた。


風切リュン・リーラ!」


魔法陣から生み出された風が、土の壁を粉々に切り裂いた。土煙で男の視界が奪われる。


ローレの髪が白く変色した。無表情な赤い瞳が輝く。

一際大きな歓声が上がった。ローレは続けざまに二つ目の魔法陣を描いた。


「ハッ、なめんじゃねぇぞ!」


ゴッ!という衝撃とともに、ローレが描いていた魔法陣がかき消される。舌打ちして距離をとると、男を正面から見据えた。


「俺はこんなこともできんだぜ」


ニタリと笑うと、男は両手を躍らせる。瞬間、あり得ないことが起こった。


――魔法陣が、散らばる星かなにかのように無限に現れたのだ。

それは、異様な光景だった。男の顔を、青白く光る魔法陣が覆い隠している。


「「!?」」


遠くのフィルにすばやく視線を向けると、その顔にはやはり驚愕の表情が張り付いている。

『魔法陣は、2つ同時には生み出せない』これが魔法学の大前提だからだ。


体内で生み出せる魔力にも限界はある。一つの魔法を練るのにも、実は莫大な魔力が必要となるからだ。

よほど大きな魔力を持つローレでさえ、一度に生み出せる魔法陣は3、4つが限界。

それを、この男は2つ以上、いや下手をすれば10以上も作り上げてしまったのだ。


だが。


(髪が、白くならない――!?)


強い魔力を使えば使う程、体の色素も奪われる。これだけの規模の魔法ならばなおさらだ。でも、この男にはなんの変化もない。

それはつまり、体内で魔力を練っていないということになってしまう。


だが、いつまでも驚愕してはいられなかった。


「驚いたか?地爆発ジョフ・グレア!」

「!」


地中が盛り上がり大爆発を起こす。とっさに上に舞い上がったローレの判断は正しかった。もしもあの中にいたら、今頃は五体満足ではいられないだろう。

内心冷や汗をかきつつ、丁寧すぎるほど正確に魔法陣を作り上げる。


一閃キャスト・ルベラ!」

「――ッ!?」


丁度、男は自分が引き起こした爆発で視界を奪われていた。勝算は一気にこちらに傾く。

ローレの放った魔法が粉塵を消し去り、男に直撃した。男の身が少し傾ぐ。


「ぐ…っ」

雷光キャスト・ウグル!」


死なない程度の電撃を男に浴びせる。男は、膝をつくと地面に倒れた。見事に気絶している。


沈黙。


見物していたフィルが、軽い拍手をした。


オオオオ、と辺り一面から歓声が上がる。ローレはワンピースについた土を払い、脱ぎ捨てたマントを羽織った。一時危ない場面もあったが、どうにか勝てた。


「約束は約束だ。私の言うことを聞いてもらおう」

「…ッ」


男一味が顔を歪めた。はなから自分達が勝つことしか考えていなかったのだろう。


「私たちの食べた分の食事代を払え。そしてあの男について少し聞きたいことがある」


水色に戻っていく髪をいじりながら言うと、男達は警戒した様子でローレを睨んだ。


「……デムランの何が知りたい?」

「ほう。あの男、デムランというのか」


男一人が店に戻って仕方なく金を払うのを見届けると、ローレは再び口を開く。


「デムランは二年前のエンベリー内乱の際、魔法兵として連れて行かれたか?」


男たちはしばらく沈黙した。だが、まだ酒が残っているのか一人の男が場違いにもペラペラとしゃべりはじめた。


「あー…アイツは二年前のエンベリーの内乱には参加してねぇよ。あの頃はアイツ、魔力がなかったんだからな」


その一言に、ローレはもちろんのことフィルまでもが驚愕を露わにした。


カエルの子はカエル。魔法師の子は魔法師。


この法則は、古来よりずっと覆されることのない大前提だ。

だから、ある日急にポンと魔力が発生するわけでもない。どんなに努力しても、魔力がない人間には一生魔法は使えない。


だが。


今の男の口ぶりからすると、デムランはまるである日突然魔力を手に入れたみたいではなかったか?


まるで、あの日のローレのように。


ローレは二年たった今でも、何故自分に突然魔力が宿ったのかハッキリと分かっていない。

だが、この状況。

自分と同じ境遇のものがいる、この状況。


焦燥する気持ちを押さえつけ、平静を装ったつもりのローレだがそれでも震える声を止めるとことはできなかった。


「……では、デムランは数年前まではただの魔法が使えない一般人だったんだな?」

「おう。アイツが魔法を使えるようになったのは――あ~数年くらい前――」

「オイ、それ以上余計なことをペラペラ喋るんじゃねぇ!!」


突如、男の仲間が声を遮った。その他の数人の仲間からも、無言だが重苦しい威圧感が伝わってくる。


それはまるで、開けてはならない箱を開けてしまった時のような。


眉を顰めるローレを睨むと、男達は気絶したデムランを連れてさっさと裏路地に逃げるように去ってしまった。


辺りから、男達がいた痕跡は跡形もなく消えた。

いつの間にか、先ほどのような賑やかな市場の風景がそこにあった。


子供の笑い声、威勢のいい売り子の声、婦人達のおしゃべりの声。

ただ、ローレとフィルの二人だけが釈然としない、といった様子でその場に立ち竦んでいた。


婦人達の長い井戸端会議が終了した頃、今までずっと黙っていたフィルが口を開く。


「……これは、思いがけない手がかりかもしれないね」


自分に何故魔力が宿ったのか。

その謎が解けるかもしれない。


「奴らは何かを隠している。おそらくデムランの魔力に関する重大な何かを」


目を細めるフィル。いつもの軽薄そうな空気は消え去り『元』天才魔法師だった彼が、そこにいた。


「……追うか?」


他にもっと言うことがあるだろうに、言葉が見つからない。

だがフィルは全く気に留める様子はなく、ヒラヒラと手を振った。


「下手にこちらがデムランのことについて嗅ぎまわると、相手も警戒する。ここはしばらく対策を練るとしよう」

「……ああ」


ずっと、知りたかった。


ずっと、怖かったのだ。


突然自分の中に入り込んできた、得体の知れないこの力が。


――この男に出会うまでは。


「ローレ?」


先に歩き出したフィルが不審そうにこちらを振り返るのを見て、我に返る。


五里霧中だった二年間に、ようやく道が見え始めた。


――焦らなくても、まだ時間はある。


そう、余るほど。




登場人物紹介5

●デムラン

大柄な男。ローレと対決し、敗北。

だが、魔法陣を無限に展開させ、ローレとフィルを驚愕させる。

ある意味で重要人物…?だが、作者は深く考えていないのでこれからどうなっていくかは分からない。自分の計画のなさに呆れる作者であった。

年齢…多分30歳くらい

好き…酒、女、強い奴

嫌い…真面目で融通のきかない奴、ハッキリしない奴

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