番外編 現代日本の裏金を公開監査し、国会議事堂を競売にかけます
東京都千代田区永田町、国会議事堂・本会議場。
テレビカメラがずらりと並ぶ中、予算委員会の質疑応答は、毎度お馴染みの不毛な茶番劇が繰り広げられていた。
「ですから! 派閥の政治資金パーティーにおける数千万円のキックバックについて、使途不明金の内訳を説明してください!」
野党議員の追及に対し、答弁席に立つ大物政治家・悪代官代議士は、ふてぶてしい笑みを浮かべて鼻を鳴らした。
「えー、その件につきましては、現在関係書類を精査中でありまして……」
悪代官は手元の資料に視線を落とし、棒読みで答弁を続けた。
「秘書が適切に処理したものと認識しております。私自身は一切関知しておらず、記憶にございません」
議場内から野次と怒号が飛ぶが、与党席の重鎮たちはあくびを噛み殺し、どこ吹く風で聞き流している。
「記憶にないで済む話ですか! 国民には増税を押し付けておいて、自分たちは裏金を非課税で懐に入れているんですよ!」
「えー、法律の趣旨に則り、適切に対応してまいります。以上です」
悪代官がせせら笑いながら席へ戻ろうとした、その瞬間だった。
キィィィィィン……ッ!!
本会議場の高い吹き抜け天井が、突如として激しい七色の光を放ち始めた。
ステンドグラスがビリビリと振動し、重厚な照明器具が一斉に明滅する。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「おい、天井を見ろ! 空間が割れているぞ!」
議員たちが悲鳴を上げて立ち上がる中、空中に巨大な次元の裂け目が出現した。
漆黒と黄金の魔導光が奔流となって溢れ出し、議場全体を圧倒的な威圧感で包み込む。
空間の裂け目から、カツン、カツンと澄んだ靴音を響かせて二つの影がゆっくりと降り立ってきた。
一人は、星屑を散りばめたような深い群青の最高級シルクドレスを纏い、プラチナブロンドの髪を気品高く輝かせる絶世の美女。
もう一人は、漆黒の軍服に純金の装飾を施したマントを翻し、腰に帯びた覇剣から神話級の威圧を放つ冷徹な美丈夫。
全宇宙の富を掌握した最高財務宰相エルザ・フォン・グランツと、ガリア帝国皇帝シリウスであった。
「な、何者だ貴様ら! 警備員! 衛視を呼べ!」
悪代官が脂汗を浮かべて怒鳴り散らす。
だが、駆け込んできた屈強な警備員たちも、シリウスが黄金の瞳を一瞥しただけで、その凄まじい覇気に当てられて腰を抜かし、床へへたり込んだ。
「騒がしいな。下等な儀礼すら弁えぬ蛮族の議場か」
シリウスが冷ややかに呟く。
エルザは胸元から愛用の黒羽万年筆を引き抜き、議場の中心で手帳をパチンと開いた。
「異次元金融監査要請コード【一般納税者の悲鳴】を受信し、現場へ急行いたしました。……当議場における過去50年間の財政執行ログを照会します」
「は、はぁ!? 監査要請だと!? 何を言っているんだこのコスプレ女は!」
悪代官が顔を真っ赤にして壇上を指差した。
「ここは日本国の最高権力機関だぞ! 部外者が勝手に立ち入っていい場所ではない! 警察に突き出して一生刑務所に入れてやる!」
「部外者ではありません。全次元通貨発行権および世界中央魔導銀行最高総裁の権限に基づき、不当利得の調査を開始します」
エルザは万年筆を空中で優雅に一閃させた。
「開示コード:【永田町・特別会計および裏金データベース全解凍】」
ピピピピピッ!
本会議場の空間全体に、数百枚にも及ぶ巨大な黄金のホログラムスクリーンが一斉に展開された。
さらに、議場内のテレビカメラを通じて、全国の地上波生中継、ネット配信、大型街頭ビジョンへ向けて、その映像が強制割り込み送信された。
「な、なんだこれは!? テレビの画面が切り替わらないぞ!?」
「ネットの動画サイトも全部この画面に乗っ取られたぁぁっ!」
全国数千万人の国民が見守る中、エルザの鈴の音のように透き通った声が、日本全土へ響き渡った。
「日本国民の皆様、こんにちは。グランツ公爵家筆頭財務官、エルザです」
エルザは手帳をめくり、悪代官をはじめとする議員たちへ万年筆の先を向けた。
「国民の皆様が汗水垂らして納めた税金が、どこへ消えていたのかをご報告いたします。……悪代官代議士。過去20年間にわたり、あなたが政治資金パーティーや公共事業の中抜きによって私的蓄財した使途不明金の総額――**【日本円にして480億円】**」
「な……っ!?」
「内訳:タックスヘイブンの隠し口座に300億円、愛人のタワーマンション購入費に50億円、高級料亭での飲食費の領収書偽造が130億円です。……帳簿の暗号をすべて解読いたしました」
巨大スクリーンに、悪代官直筆の裏金受領サインと、海外秘密口座の明細、さらには隠し金庫に積み上げられた札束の写真が超高画質で映し出された。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!? な、なぜそれを……!?」
悪代官が泡を吹いて卒倒しかける。
エルザの容赦なき追及は止まらない。
「さらに、そちらの越後屋議員。中抜きITシステム開発費の水増し請求によるキックバックが250億円。そちらの代官山議員、不要な基金への税金垂れ流しと天下り団体からの累積賄賂が380億円」
次々と名前を呼ばれる大物議員たちの顔写真と不正蓄財データが、日本全国のモニターに次々と晒されていく。
「当議場に所属する政治家および癒着団体による、過去50年間の横領・脱税・使途不明金の総額――**【金貨100万枚(日本円換算:約150兆円)】**」
日本全国が、完全な静寂ののち、凄まじい怒りの大歓声に包まれた。
お茶の間でテレビを見ていた市民たちも、SNSのユーザーたちも、歓喜と驚愕の声を上げた。
『うおおおお! 全部バレた!』
『使途不明金の正体がマジで出たぞ!』
『エルザ様! 徹底的にやってくれ!』
「う、嘘だ! 捏造だ! そんな証拠は無効だぁっ!」
悪代官が血走った目を剥いて叫ぶ。
「証拠が無効かどうかは、今この瞬間に証明されます」
エルザは万年筆をカチリと鳴らした。
「全次元金融協定第18条に基づき、不正蓄財者全員の全隠し口座、不動産、ならびに私財に対する【即時一括差し押さえ令状】を執行いたしました」
ピピピッ!
議場内の議員たちのスマートフォンが一斉にけたたましい通知音を鳴らした。
【緊急通知:全銀行口座および海外ファンドが差し押さえられました】
【現在の利用可能残高:0円】
「ぎゃあああああっ! 私の貯金が! スイスの口座がゼロになってる!」
「屋敷も車も、全部差し押さえの赤紙が貼られたぞ!」
昨日まで国民を見下してふんぞり返っていた政治家たちが、全員床にへたり込み、情けない悲鳴を上げて泣き叫んだ。
「さて、悪代官代議士」
エルザは氷のように冷徹な瞳で見下ろした。
「横領額150兆円のうち、差し押さえた私財で回収できたのは50兆円のみ。依然として【100兆円の未納債務】が残存しています」
「ひっ……!? も、もう金なんて一円も残っていないぞ!」
「ええ、知っています。ですから――債務不履行の追加担保として、この【国会議事堂の土地および建物】を今この瞬間をもって強制差し押さえいたします」
「な……なにぃぃぃぃっ!?」
エルザが万年筆を振ると、国会議事堂の重厚な大理石の壁一面に、巨大な黄金の【差押】の魔導刻印が焼き付けられた。
「これより、当議場を全世界公開オークションへ出品いたします」
その瞬間、背後に立っていたシリウスが悠然と前に進み出た。
「ロット番号01、国会議事堂の全敷地および施設。我がガリア帝国が【金貨100万枚(150兆円)】で即時落札しよう」
シリウスが指先を鳴らすと、天文学的な資金が即座に日本国の一般会計口座へと魔術的に送金・充当された。
「落札を確認いたしました。これにより、未納債務は全額完済となりました」
エルザは手帳をパチンと閉じ、全国中継のカメラへ向けて微笑んだ。
「日本の皆様へご報告いたします。回収いたしました150兆円は、全額【消費税の完全撤廃】ならびに【全国民への特別給付金】として口座へ直接還元されます」
日本中が、地鳴りのような万歳三唱に包まれた。
『エルザ様万歳!』
『消費税ゼロきたああああ!』
『神様、いやエルザ様ありがとう!』
「ひ、ひぃぃ……っ! わ、我々はどうなるのですか……!?」
床に這いつくばる悪代官が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてすがりついてきた。
エルザは手帳から数枚の労働契約書を取り出し、彼らの足元へ放り投げた。
「あなた方には、日本全国の【下水配管のドブさらい作業】および【道路の側溝清掃員】としての雇用契約を提示します」
「ど、ドブさらい……!? この私が、泥掃除をしろと!?」
「時給は1000円。交通費は自己負担です。国民の皆様が納めた税金の重みを、その手と足で泥水を啜りながら、一生かけて学んでください」
「嫌だぁぁぁっ! ドブ掃除なんて嫌ですわぁぁっ!」
泣き叫ぶ元大物政治家たちは、駆けつけた市民たちと警察官によって、無造作に議場から引きずり出されていった。
静けさを取り戻した議場で、シリウスがエルザの腰を抱き寄せた。
「ふっ、異次元の害虫駆除も実に見事な手並みだったな、エルザ」
「当然です。帳簿の不正を放置することは、経済の美しさを損ないますから」
エルザはふわりと微笑み、万年筆を胸元へと収めた。
「さて、シリウス。私たちの帝国へ戻りましょう。あちらでも、新しい世界中央魔導銀行の開行式が待っています」
「ああ。我が最愛の妻よ、永遠にお前と共に歩もう」
二人は再び七色の光に包まれ、次元の裂け目を通って優雅に帰還していった。
後に残されたのは、不正が完全に一掃され、明るい希望に満ち溢れた日本の青空と、ピカピカに磨かれた国会議事堂だけであった。




