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婚約者は私でなく「私の背後にいる聖女の力」が好きだったらしいが、その聖女は私なのだが?

作者: _mon_mon_
掲載日:2026/08/16

「リディア・フォン・クロムウェル! 私は今日、この時をもって君のような凡庸な女との婚約を破棄する!」


王立魔力研究所の壮麗な大広間に、冷たくも甲高い声が響き渡った。


静まり返った空間に、集まっていた数百人の貴族たちの視線が、一斉に私たちへと突き刺さる。


私は深く息を吸い込み、ゆっくりと顔を上げた。王家主催の魔力測定の儀式というこの晴れの舞台のために、私は銀糸の細かい刺繍が施された濃紺のシルクドレスを纏い、首元にはクロムウェル伯爵家伝来のサファイアのチョーカーを身につけている。プラチナブロンドの髪は侍女が三時間かけて複雑に編み上げ、一寸の乱れもなかった。


対する私の婚約者、アルベルト・フォン・ランカスター公爵子息は、豪奢な白の礼服の胸元をだらしなく着崩し、私の実の妹であるマリアの華奢な肩を抱き寄せていた。


「アルベルト様。本日は国を挙げての神聖な魔力測定の儀式ですわ。そのような冗談は、時と場所を選んでいただきたいのですが」


「冗談だと? 私が冗談でこのような公の場で、わざわざ声を張り上げて発言するものか! 私は本気だ!」


アルベルトは私の冷静な声に苛立ったのか、顔を赤くして叫んだ。


「私はもう、君のような魔力も魅力もない、ただの伯爵令嬢の肩書きだけの女には我慢ならないのだよ!」


「お姉様……ごめんなさい。でも、私とアルベルト様は、誰にも引き裂けない真実の愛で結ばれてしまったのです」


マリアがアルベルトの胸に顔を埋めながら、ひどく甘ったるい声で言った。


マリアは淡いピンク色のフリルがふんだんにあしらわれた可愛らしいドレスを着ており、そのストロベリーブロンドの髪には真珠の髪飾りが揺れている。まるで自分が悲劇のヒロインであるかのように、彼女の瞳には嘘くさい涙が浮かんでいた。


「真実の愛、ですか。公爵家と伯爵家の取り決めである歴史ある婚約を、個人的な感情の昂りだけで、一方的に破棄できるとお考えで?」


「ふん、相変わらず理屈っぽい女だ。だから君はつまらないのだ。私が真に求めているのは、君自身ではない! クロムウェル家に稀に発現するという『聖女の力』なのだからな!」


「それは、私が聖女ではないと断定してのお言葉でしょうか」


「当たり前だろう! 君から神聖な魔力など欠片も感じたことはない! 君はただの凡庸な、どこにでもいるつまらない女だ!」


周囲の貴族たちがざわめき始めた。ひそひそと囁き交わす声が、波のように広間を満たしていく。


しかしアルベルトは周囲の反応など気にも留めず、勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を見下ろした。


「覚えているか、リディア! 三年前、私が君の家に初めて顔合わせの挨拶に行った時のことを!」


「……ええ、もちろん存じております。あなたが私の淹れた歓迎のお茶を、一口も飲まずに香りが悪いと言って庭に捨てた日のことですね」


「あの時、私は君のあまりの魔力のなさに絶望したのだ! 数百年に一度、偉大なる聖女を輩出するという名門クロムウェル家の長女だというから期待して足を運んだというのに、君から感じる魔力は平民の小娘以下だったではないか!」


「それは……」


「しかし! その直後に庭園の薔薇園で出会ったマリア! 彼女は違った! 彼女の周りには目に見えないほど微かだが、しかし確かに、聖なる光の気配が漂っていたのだ!」


「アルベルト様ぁ……そんな昔から、私を見つめてくださっていたなんて、感激ですわ」


マリアはアルベルトの腕にすり寄り、その頬を赤らめた。


「当然だ、マリア。君こそが、我がランカスター公爵家に相応しい。真の聖女となるべき器なのだから」


「君は凡庸だが、君の妹は聖女の器かもしれない」


「……以前も、私にそうおっしゃいましたね」


「ああ、何度でも言ってやる! 君は凡庸だ! 取り柄が一つもない、ただの抜け殻のような女だ! 君のような空っぽの女が、この私の隣に立つなどおこがましいにも程がある!」


「お姉様も可哀想に……ずっと私への嫉妬に狂っていたのね。アルベルト様が私ばかりを特別扱いするから、毎晩枕を濡らしていたのでしょう?」


「マリア、私はあなたに嫉妬などしたことは一度もありませんよ。私はただ、自分の義務を果たそうとしていただけです」


「強がらなくていいのよ、お姉様。だって、私が美しく着飾るたびに、お姉様は地味な色のドレスばかり着ていたじゃない。聖女の力がないからって、いじけていたんでしょう?」


「私が地味な装いをしているのは、伯爵家の財政と領民の生活を案じてのことです。あなたが毎月のように新作のドレスを仕立て、高価な宝石を買い漁る莫大な費用を、一体どこから捻出していると思っているのですか」


「うるさい! 金の話など下賎な! マリアが美しく飾るのは、未来の公爵夫人として、そして国を救う聖女としての当然の嗜みだ!」


アルベルトが激昂し、私に向けて指を突きつけた。


「そもそも、君は婚約者としての気遣いすら皆無だったではないか! 去年の私の誕生日の夜会でも、君は私を放って壁の花になっていた!」


「あの時、あなたは会場に到着するなりマリアの手を取り、私を置いて二人きりでバルコニーへ消えていったではありませんか。私がどうやってあなたに気遣いを示せばよかったというのです」


「それは君が私を引き留めるだけの魅力を持っていなかったからだ! マリアの輝くような笑顔と、彼女から溢れる神聖な気配に、私は惹きつけられたのだ!」


「つまり、ご自身の不誠実な振る舞いを、私の魅力不足のせいにされるのですね」


「口答えをするな! この嫉妬狂いの悪女め! 君は自分の妹が聖女として目覚めかけていることに気づきながら、それを隠蔽し、自分の地位を守るためにマリアを虐げてきたのだろう!」


「虐げる、ですか。私がいつ、マリアを虐げましたか」


「知らぬとでも言うつもりか! マリアからすべて聞いているぞ! 君がマリアの教科書を隠し、マリアの食事に泥を混ぜ、マリアが私と会うのを邪魔するために部屋に鍵をかけて閉じ込めたと!」


私は思わず溜息を吐きそうになった。


「マリア。あなたがアルベルト様にそのような作り話をしているとは知りませんでした」


「つ、作り話なんかじゃないわ! お姉様はいつも私をいじめていた! 私が聖女の力を持っているから、怖かったんでしょう!?」


マリアはわざとらしく両手で顔を覆い、肩を震わせて泣き真似を始めた。


「マリアを泣かせるな! どこまで底意地が悪いのだ君は!」


「アルベルト様、少し冷静になってください。ここは王立魔力研究所であり、今日は魔力測定の儀式の日です。国王陛下も、間もなくお見えになる神聖な場です。このような私的な言い争いを見せるのは、ランカスター公爵家の名誉に関わります」


「公爵家の名誉だと? ふん、笑わせるな。今日この場で、マリアが真の聖女であることが誰の目にも明らかになるのだ。私が真の聖女を見出し、保護したとなれば、国王陛下も必ずや私の英断を褒め称えるだろう!」


「……それが、あなたの本心なのですね。私という人間ではなく、ただひたすらに、私の背後にあるかもしれない『力』だけを見ていたと」


「当たり前だ! 誰が好き好んで、君のような魔力底辺の無愛想な女を愛するものか! 私が愛しているのはマリアであり、マリアの内に眠る聖女の力だ!」


その堂々たる宣言に、周囲の貴族たちは呆れたような、あるいは面白がるような視線を向けている。


彼らの言葉はもはや、誰の目にも明らかな滑稽劇であった。しかし、彼らは自分たちがどれほど愚かな姿を晒しているかに全く気づいていない。


「騒々しいな。ここは王家が管理する神聖な魔力研究所だ。痴話喧嘩なら余所でやれ」


突然、広間の入り口から、低く、しかし圧倒的な威厳に満ちた声が響き渡った。


その声を聞いた瞬間、ざわめいていた貴族たちは一斉に沈黙し、波が引くように道を空けて深く頭を下げた。


そこに立っていたのは、夜空のように深い黒髪と、獲物を射抜くような黄金の瞳を持つ青年だった。漆黒の軍服に身を包んだその姿は、周囲の空気を一変させるほどの覇気を放っている。


「レ、レオンハルト王太子殿下……!」


アルベルトが慌てて頭を下げた。マリアもその美しさに目を奪われたのか、一瞬呆然とした後、慌ててスカートをつまんで礼をした。


「面を上げよ。アルベルト・フォン・ランカスター。先程から随分と威勢の良い声が聞こえていたが、私の聞き間違いでなければ、そなた、国王陛下の許可もなく、貴族間の正式な婚約をこの場で勝手に破棄すると言ったか?」


レオンハルト殿下は、静かな足取りで私たちの前まで歩み寄り、冷ややかな視線でアルベルトを見下ろした。


「そ、それは……! 申し訳ありません、殿下。しかし、これは我が公爵家の未来、ひいてはこの国の未来に関わる重要な決定なのです!」


「重要な決定だと? そなた個人の浅はかな感情の暴走ではなくか?」


「決してそのようなものではございません! 殿下もご覧になればわかります。今日、この魔力測定の儀式において、私の腕の中にいるマリアが真の聖女であることが証明されるのですから!」


アルベルトは自信たっぷりに胸を張り、マリアを前に押し出した。


「マリアが聖女に認定されれば、凡庸な姉であるリディアとの婚約を解消し、聖女を公爵家に迎えることは、国益にも適うはずです!」


「……なるほど。そなたは、このマリア嬢が間違いなく聖女であると、そう信じて疑わないのだな」


「はい! 私の目には狂いはありません! 彼女から溢れ出る神聖な光の気配は、本物の証です!」


レオンハルト殿下は、面白そうに目を細めた。そして、ゆっくりと私の方へと視線を移した。


「リディア嬢。君は、これで良いのか?」


殿下の黄金の瞳が、私を優しく、しかし何かを促すように見つめていた。


「はい、殿下。彼がそう望むのであれば、私は無理に引き留めるつもりはございません。私のような凡庸な女は、アルベルト様には相応しくないのでしょうから」


私は深くお辞儀をしながら、静かに答えた。


「よかろう。そこまで言うのなら、早くその『聖女』とやらの力を証明してみせよ。儀式の進行が遅れている」


殿下が合図をすると、魔力研究所の白衣を着た測定係が、広間の中央に置かれた巨大な台座の布を取り払った。


そこには、大人の背丈ほどもある、透き通るような巨大な魔力結晶の水晶が鎮座していた。


「さあ、マリア。君の力を見せてやれ! あの見下したような目で見ているリディアにも、君の偉大さを思い知らせてやるのだ!」


「はい、アルベルト様。私、頑張りますわ!」


マリアはふわりと微笑み、自信に満ちた足取りで水晶の前に進み出た。


広間は水を打ったような静けさに包まれた。すべての視線が、マリアの手元に集中している。


「聖なる光よ、私の内に眠る奇跡の力よ、今ここに示されなさい!」


マリアは大仰な身振りで祈りの言葉を紡ぎ、水晶の表面に両手をぴたりと当てた。


一秒、二秒、三秒と時間が過ぎる。


しかし、水晶は何も変化を起こさない。


「……あれ? おかしいわね。もう一度」


マリアは焦ったように水晶をバンバンと叩き、さらに強く手を押し付けた。


「光よ! 出なさい! 私は聖女なのよ!」


しばらくして、水晶の中心部が、ぼんやりとした微かに濁った黄色い光を放ち始めた。それは蛍の光よりも弱々しく、広間を照らすどころか、目を凝らさなければ見えないほどの微弱なものだった。


「なっ……なんだこれは! 何かの間違いだ! 係員、この水晶は壊れているのではないか!」


アルベルトが血相を変えて叫んだ。


測定係の魔導師は、手元の魔導具の数値を冷静に確認し、首を横に振った。


「いいえ、公爵子息様。水晶は正常に作動しております。マリア・フォン・クロムウェル嬢の魔力は、微弱な土属性。その魔力量は……一般的な平民の平均値すら大きく下回っております。光属性や、聖女特有の神聖力などは、一切感知されません」


「ば、馬鹿な! そんなはずはない! マリアは聖女のはずだ! 私がこの目で、彼女から溢れる光の気配を感じたのだぞ!」


「恐れながら、それは公爵子息様の思い込みか、あるいは香水などの魔導具の微弱な反応を誤認されたものと思われます。数値は絶対です」


係員の冷酷な宣告に、広間は爆発したようなざわめきに包まれた。


「平民以下だって?」「聖女どころか、ただの魔力不全じゃないか」「あんなに大口を叩いておいて、恥ずかしい……」


貴族たちの嘲笑と侮蔑の言葉が、容赦なくマリアとアルベルトに降り注ぐ。


「嘘よ! 嘘よ嘘よ嘘よ! 私からは光が溢れているって、アルベルト様がいつも言ってくれたじゃない! 私が聖女なんだから!」


マリアは半狂乱になって水晶を叩き続けたが、濁った黄色い光はついにふっと消えてしまった。


「マリア……君は、聖女ではなかったのか……? 私を騙していたのか……!」


アルベルトは信じられないものを見るような目で、へたり込むマリアを見下ろした。


「ち、違うわアルベルト様! これは何かの陰謀よ! そうよ、お姉様よ! お姉様が何か汚い手を使って、私の魔力を奪ったのに違いないわ!」


マリアが私を指差し、金切り声を上げた。


私はただ、静かに二人を見つめていた。


「醜態だな、アルベルト。己の目の狂いを、他人の陰謀になすりつけるか」


レオンハルト殿下が冷酷な声で吐き捨てた。


「で、殿下! これは何かの間違いです! どうかもう一度、再測定の許可を!」


「黙れ。測定は一度きりだ。……さて、リディア嬢。次は君の番だ」


殿下の促しに、私は静かに頷いた。


「はい、殿下」


私はゆっくりと歩みを進め、マリアがすがりついて泣いている水晶の前へと立った。


「リディア! 君なんかがやったところで無駄だ! 君に魔力などないことは、私が一番よく知っている!」


アルベルトが負け惜しみのように叫ぶが、私は彼を一瞥もせずに水晶に向き直った。


そして、首元のサファイアのチョーカーに手を触れた。


「殿下。この魔力抑制具を外す許可をいただけますか」


「ああ、構わない。存分に力を解放しろ」


私がチョーカーの留め具を外し、それを近くの台に置いた瞬間だった。


広間の空気が、ビリビリと震えた。


「な、なんだこの尋常ではない魔力の気配は……!」


周囲の貴族たちがどよめき、後ずさる。


私は静かに右手を上げ、水晶の表面にそっと触れた。


その瞬間、目も眩むような純白の光が、水晶から爆発的に弾け飛んだ。


光は激流のように広間全体を飲み込み、天上へと立ち昇り、天井のステンドグラスを突き抜けて王都の空を照らし出した。


温かく、優しく、そして圧倒的な神聖力を伴ったその光は、広間にいるすべての者の心身を浄化していくような感覚を与えた。


「こ、これは……伝説の聖女の光!」「間違いない、建国神話に語られる真の聖女の輝きだ!」「リディア嬢こそが、本物の聖女だったのか!」


誰もがその美しさと神々しさに息を呑み、その場に膝をついて祈りを捧げ始めた。


巨大な魔力結晶の水晶は、私の魔力に耐えきれず、ピキピキと音を立てて細かい亀裂を走らせていた。


光が収まった後、私は静かに手を下ろした。


振り返ると、そこには腰を抜かし、顔を青ざめさせて震えるアルベルトと、恐怖に顔を引き攣らせたマリアの姿があった。


「嘘だ……嘘だ、嘘だ! リディアが……君が、聖女だったというのか……!?」


アルベルトは信じられないというように首を振り、地這うように私へと手を伸ばしてきた。


私はその手を冷ややかな目で見下ろしながら、ゆっくりと口を開いた。


「ええ。婚約者は私でなく「私の背後にいる聖女の力」が好きだったらしいが、その聖女は私なのだが? ……私はずっと、そう不思議に思いながら、あなたの言葉を聞いておりました」


「なっ……」


「リディアは幼い頃から、その莫大すぎる聖女の力を制御するため、敢えて強力な魔力抑制具であるそのサファイアのチョーカーを常時身につけていたのだ」


レオンハルト殿下が、私の横に立ち、よく通る声で種明かしをした。


「彼女の力は強大すぎるがゆえに、抑制具をつけていれば外に漏れ出すことは一切ない。平民以下に感じられたのはそのためだ。王家とクロムウェル伯爵家は、彼女が成長し魔力の制御を完璧に身につけるこの日まで、彼女が真の聖女であることを秘匿していたのだ」


「そ、そんな……知らなかった! 私は何も知らされていなかった!」


「当然だろう。お前のような底の浅い男に、国宝である聖女の秘密を教えるわけがない」


殿下は嘲笑うようにアルベルトを見下ろした。


「しかし、アルベルト。お前は彼女の表面しか見ず、彼女の内に秘められた献身や優しさに気づこうともせず、ただ目に見える『力』と『名誉』だけを欲した。その結果が、この無様な姿だ」


「リ、リディア! 悪かった! さっきの婚約破棄は冗談だ! そうだ、私が間違っていた! 君が聖女だったなんて……私の妻は、やはり君しかいない!」


アルベルトは必死の形相で私のドレスの裾にすがりつこうとした。


私は静かに、しかし決定的な拒絶をもって一歩後ろへ下がった。


「触れないでください。あなたは先程、この神聖な場で、多くの証人の目の前で私との婚約破棄を高らかに宣言し、マリアを選びました。私はあなたの愛する『力』ではありませんし、あなたのような不誠実な方の飾り物になるつもりもありません」


「待ってくれ! 私を見捨てないでくれ! 公爵家には君の力が必要なんだ!」


「お姉様! 私もごめんなさい! 私が間違っていたわ、だから私を許して!」


マリアも鼻水を垂らしながら泣き叫ぶ。


「アルベルト・フォン・ランカスター。そしてマリア・フォン・クロムウェル」


レオンハルト殿下の声が、広間に冷たく響き渡り、決定的な断罪を下した。


「神聖な魔力測定の儀式を私怨で汚し、さらに国宝である真の聖女を不当に侮辱し、虐げた罪は極めて重い。ランカスター公爵家には王家から厳しい沙汰が下るだろう。お前の廃嫡は免れまい。そしてマリア嬢、君も修道院で一生をかけて己の傲慢さを悔い改めることになる」


「そ、そんな! 廃嫡など……! 殿下、どうかお慈悲を! リディア、私を助けてくれぇ!」


「嫌よ、修道院なんて嫌あああ!」


「衛兵! この見苦しい罪人どもを地下牢へ連れて行け!」


殿下の号令とともに、完全武装の衛兵たちが駆け込み、泣き喚くアルベルトとマリアの腕を乱暴に掴んだ。


「離せ! 私は公爵家の跡取りだぞ! リディアァァァッ!」


惨めな命乞いと絶叫が遠ざかり、やがて分厚い扉の向こうへと消えていった。


広間には、深い静寂だけが残された。


誰もが先程の騒動と、真の聖女の降臨という事実に圧倒され、言葉を発することができなかった。


そんな中、レオンハルト殿下が私の方へと向き直り、その厳格な表情をふっと和らげた。


「リディア。これで君を縛る不愉快な鎖は、すべて消え去ったな」


「はい、殿下。ご協力いただき、心から感謝申し上げます」


私は深く頭を下げた。


「いや、私はただ、君が彼のような愚か者から解放されるのをずっと待っていただけだ」


殿下は私の手を取り、その手の甲に恭しく口付けを落とした。


「私はずっと、魔力など関係なく、君自身の強さと優しさを想っていた。……私と婚約してくれないか、リディア」


黄金の瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。


その瞳に嘘や打算がないことは、長年彼を見てきた私には痛いほどにわかった。


「私のような者でよろしければ、喜んでお受けいたします。レオンハルト様」


私が静かに微笑んで答えると、広間を埋め尽くす貴族たちから、割れんばかりの祝福の拍手が巻き起こった。


その温かな拍手と歓声の中で、私は初めて、心からの安らぎと幸せを感じていた。

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