第三話
「……これは、その白拍子の骨花ということか。ならば貴殿は、白拍子との約束を果たさねばいけませんね」
花の茎をくるくると弄ぶ私の言葉に、旅人が頷く。骨花がここに在るなら、自然、白拍子は湖の水を飲んだということになる。
「貴殿が首尾よく事を運べば、いずれは白拍子の男とやらの骨花も地の底の湖に咲くという事か。ならばその花も摘んで、これと一緒にしてやったら如何でしょう。共に在れば、供養になるのでは」
ではその通りにいたしましょう……と、小さく笑う旅人に、骨花をお返しする。
中々に面白い、よく出来た話だと思った。骨花と同じくらい、よく出来ている。飄々として見えるこの方が、手間暇かけて作った物を少しでも高く売る為にこのような口上を考えたのであろうか、などと夢想をすると、何やら可笑しくて頬が緩み……気付くと両の目から涙が零れていた。
訳も分からぬまま、無様に嗚咽が漏れる。
ぎしぎしと音が聞こえそうな胸の軋みと、呑まれそうな寂しさに身を震わす私に、旅人が妙な事を言いだした。
ある方から貴方様宛の言伝を預かっているのです、と。
「ある方? そも、先程助けて頂くまで、我らは相見えたことは無いと思うが」
彼は首肯し、ですが間違いなく貴方様宛てなのです、と前置き、
『どうか私を想うのではなく、忘れて下さい。私も貴方への想いを置いてゆきますから』
突き放すような言葉が、すとん、と胸に落ち着く。そうか。屹度温もりの向こうに居た面影が消えてしまったのは、私のことを想ってくれた面影自身の望みなのだ。
ならば……私は腰かけていた朽木から立ち上がると、未だ熱を持ったままの眼を擦り、不思議な旅人にきっぱりと告げた。
「言葉の通りにします。貴殿には世話になりました」
精一杯の心で頭を垂れ、山を下る為の一歩を踏み出す。
「二輪の骨花、確かに一緒にいたしましょう」
背に掛けられた旅人の言葉に、私は振り返る事無く頷いた。




