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結婚式の10日前に婚約破棄をして義妹にすり替えをゴリ押しした婚約者の背後がものすごくブラックだった件

作者: すじお
掲載日:2026/03/02

 王都が春の祝祭に浮き立つその日、私は婚約破棄を告げられた。


 相手は公爵家嫡男、アシュレイ・フォン・ルーベルト。

 そして彼の隣に立っていたのは――私の義妹、リリアナだった。


「セレスティア嬢。君との婚約は、ここで解消する」


 あまりにも芝居がかった声音。

 集まった貴族たちの前で、彼はわざとらしく言い放った。


「私は真実の愛に目覚めたのだ。リリアナこそ、私の伴侶に相応しい」


 ざわめきが広がる。


 私はゆっくりと扇を閉じた。


「……それは、いつからの“真実”ですの?」


 問いに、彼は一瞬だけ目を伏せた。

 だがすぐに、勝ち誇ったように微笑む。


「最近になって、だ。彼女の誠実さに触れてな」


 ――嘘。


 私はその嘘を、三年越しで知っている。


---



 三年前。

 母を亡くした父が再婚し、義妹リリアナが我が家に来た。


 可憐で、控えめで、少し頼りなげな少女。

 私は姉として、彼女を守ろうとした。


 けれど。


 夜更けの庭園で、彼女が誰かと密会していると知ったのは、偶然だった。


 月明かりの下、抱き合う影。


 その相手は――アシュレイ。


 私は声を失った。


 けれど二人は気づかなかった。

 私の存在に。


 その時から既に、二人は恋人だったのだ。


 私との婚約が正式に整うよりも前から。


---


 アシュレイとの婚約は、家同士の結びつき。

 私の家、アルヴェイン伯爵家にとっては、悲願でもあった。


 だがその裏で、二人は密かに関係を深めていた。


 そして三年。


 彼らはただ愛を育んでいたのではない。


 根回しをしていたのだ。


 使用人の入れ替え。

 父の側近への取り入り。

 取引先との新たな契約。


 気がつけば、家の重要な部分には“ルーベルト公爵家寄り”の人間が入り込んでいた。


 知らなかったのは、私と父だけ。


 ――否。


 知らされなかったのだ。


---



「セレスティア様は冷たい方ですの。わたくし、ずっと虐げられて……」


 涙を浮かべるリリアナ。その言葉に、同情の視線が私へ突き刺さる。


 見事な筋書き。


 私は嫉妬深く傲慢な令嬢。

 彼女は健気な被害者。


 そしてアシュレイは、彼女を救う英雄。


 滑稽だ。


「……三年前から、ですわね」


 私が呟くと、二人の表情がわずかに凍った。


「何のことだ」


「お二人が恋人になられたのは。少なくとも三年前。

 夜の庭園で、何度もお会いしていましたもの」


 ざわり、と空気が変わる。


「そ、それは誤解で……!」


「誤解? では、当時あなたが身に着けていた蒼いブローチ。

 今もお持ちですわよね? 公爵家特注の品」


 リリアナの手が無意識に胸元を押さえた。


 証拠はある。


 私は三年、集め続けた。


 文通の写し。

 密会の記録。

 入れ替えられた使用人の雇用契約書。


「直前で“心変わり”したように見せたかったのでしょう?

 でも本当は、最初から私ではなく、彼女だった」


 アシュレイの顔から余裕が消える。


「貴様……いつから気づいて」


「最初からではありませんわ。

 でも気づいてからは、準備をしておりましたの」


 彼らが根回しをしたように。


 私もまた、根回しをした。


---


 その場にいた王太子殿下が、静かに口を開く。


「興味深い話だ。続けよ」


 私は深く一礼する。


「彼らは我が家を取り込むつもりでした。

 婚約破棄で私の名誉を落とし、父を失脚させ、

 リリアナを通してアルヴェイン家を掌握する」


 リリアナの瞳が、初めて剥き出しの憎悪に染まる。


「だって……! あの家は最初から私のものになるはずだったのよ!」


 会場が凍りついた。


「お母様が正妻だったら、伯爵位は私の血筋だったのに!」


 ――それが本音。


 愛も、婚約も、全部。


 家を奪うための道具。


 アシュレイは顔を青ざめさせた。

 どうやらそこまでは公言する予定ではなかったらしい。


---


「証拠はすべてこちらに提出済みです」


 私は視線を王太子に向ける。


「公爵家とアルヴェイン家の不正な資金移動、

 および乗っ取り計画の証拠として」


 ざわめきが爆発した。


 アシュレイが叫ぶ。


「貴様、嵌めたな!」


「嵌めたのは、どちらでしょう」


 私は静かに微笑む。


「計画的に直前の婚約破棄。そして妹への変更。

 ……三年越しの裏切りを、私は許しません」


---


 結果。


 ルーベルト公爵家は調査対象となり、

 アシュレイは謹慎。

 リリアナは修道院送り。


 夏の選挙中にこの悪事が外に漏れないよう、私は暴漢に襲われて入院していた。

 リリアナは知っていたくせに止めてなかったけれど、

後から「お姉様、大丈夫でしたの?」としおらしく言われたわ。


 あなたにはその時に止める力があったと言うのに。




(そんな政権が続くものかしら?)



 根回しは上手くても物事の本質は見誤るのがリリアナだ。

 誠実さのない政治政権が短命なことは誰よりも知っている。


 三年間、私は泣かなかった。


 奪われるだけの令嬢で終わるつもりはなかったから。


 彼らが愛と偽ったものは、野心だった。


 ならば私は誇りで応じる。


 もう二度と。


 誰にも、家も未来も、奪わせはしない。




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― 新着の感想 ―
義母にも沙汰があって欲しくもある。 が、2人の策略であったら、沙汰なしなのもしたかがないのか?
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