003 天才
「……なんだよ急に生意気になりやがって! ぶん殴られてぇのか!?」
クロウが怒鳴り、赤い顔で呪文を唱え始めた。すると、彼の掌に水の球体が集まり、光を放ちながら形を成していく。
「ちっ……!」
アキラは思わず目を見開いた。
(やばい……! 俺には魔法なんてない。勉強すらしてないんだぞ……。この水弾をくらったら絶対に痛い!)
だが、その顔はあくまで冷笑を崩さなかった。アキラは咄嗟にアミの体を引き寄せ、自分の盾にしたのだ。
「きゃっ……!」
アミの悲鳴と共に、水弾が彼女に直撃し、全身をびしょ濡れにした。
「この野郎っ……!!」
クロウが逆上しかけたその時――
「そこまでだ。」
低く重い声が響き、父親が姿を現した。
空気が一瞬で凍りつく。クロウは拳を握りしめて震えていたが、父の威圧に押され、動くことができない。アキラは平然とアミを突き放し、まるで何事もなかったかのように肩をすくめた。
「解散しろ。」
父の一言で場は収まり、皆が散っていった。
アミが濡れ鼠のようになって立ち尽くす中、アキラは例の紙を投げつけ、冷たい声で命じた。
「読め。大声でな。」
「……っ」
アミは悔しさに唇を噛んだが、従うしかなかった。朗々と読み上げられる文章が大広間に響く。
(くそっ……! 俺には字なんて読めないんだよ。あのクソ親父、わかってて紙を渡しやがったな……!)
アキラは奥歯を噛み締めながらも、驚くことに――アミが読む一字一句が、鮮明に頭の中に刻み込まれていった。
部屋に戻ると、殺風景な家具しかない光景にアキラは舌打ちした。
「なるほどな……。今まで俺をこんなふうに扱ってきたってわけか。」
そしてアミに命じる。
「家の図書館から魔法書を持ってこい。」
ほどなくして戻ったアミは、分厚い本を数冊抱えてきた。アキラは一冊を指差し、低く言った。
「今日からお前が俺に字を教えろ。今すぐだ。」
「……はい。」
アミはわずかに怯えつつも、逆らえなかった。こうして、奇妙な学習が始まる。
二時間後。
アミは疲労で肩で息をしていたが、アキラの目はまだ冴え渡っていた。
(俺……こんなに早く覚えられるのか? もう基本は読めるぞ……!)
しかも、手に取ったのは「魔法入門」の本だった。
アキラは口角を上げ、手を差し出す。頭の中で呪文を思い出し――
「……現れろ。」
「――ブシュッ!」
次の瞬間、彼の掌に透明な水球が出現した。
「なっ……!?」
アミは息を呑み、後ずさった。普通なら数週間、数ヶ月かかる基礎魔法。それをアキラはたった一度の試行で成功させたのだ。
「うそ……。あなた、一体……何者なの……?」