001 陰茎の喪失
木造と粗いセメントでできた壁に囲まれた部屋。
古びた窓から差し込む淡い光が、薄暗い空間をぼんやりと照らしていた。
固い木のベッドの上で、アキラはゆっくりと目を開けた。
まぶたを何度か瞬かせながら、彼は息を呑む。
――ここは……どこだ?
そう思った瞬間、
「ガラッ!」
勢いよく扉が開かれ、一人の少女が飛び込んできた。
「いつまで寝ているつもりなの!? 今日はお前が式典で演説をする日よ! さっさと起きなさい!」
少女の鋭い声が部屋に響き渡る。
その声を聞いた瞬間、アキラの頭の中に見知らぬ記憶が洪水のように押し寄せてきた。
……この身体の持ち主は、とある名家の「若様」。
しかし魔力は一切なく、頭も鈍く、周囲からは無能と蔑まれる存在だった。
今、アキラはその「出来損ないの若様」の身体に取り憑いているのだ。
「ふざけるな……! こんな場所、知るかっ!」
アキラは思わず怒鳴り返した。
少女は目を見開き、一瞬驚いた様子を見せた。
だが、すぐに不機嫌そうに鼻を鳴らし、踵を返して部屋を出て行った。
静寂が戻る。
アキラは額に汗をにじませ、深く息を吐いた。
そのとき、強烈な尿意が襲ってくる。
「くそ……トイレ……」
ふらつきながら隅へ歩み寄り、衣服を下ろした。
――そして。
「……っ!?」
アキラの全身が凍りついた。
そこにあるはずのものが、ない。
男性としての証――男根も、睾丸も、 spっかりと消え失せていたのだ。
「な、何だこれは……!? どういうことだ……っ!」
震える声が部屋に反響する。
胸を締め付けるような恐怖と混乱。
見知らぬ世界、見知らぬ身体。
アキラの悪夢は、まだ始まったばかりだった。