木星のきらめき①
太陽系5番目の惑星、木星
「木星」という呼称は、古代中国の五行思想に由来する。
五行とは、「木・火・土・金・水」の五つの要素が天地を構成するという思想体系で、それぞれが天体・方角・季節などに対応づけられていた。
方角は東、季節は春、そして意味は成長・拡張である。
古代中国では、天体の動きは「天帝の意思を映すもの」とされ、
中でも木星は12年周期で天空をめぐることから、暦と国家の運命を象徴する星とみなされていた。
「木星」は「歳星」とも呼ばれ、この“歳”こそが「十二支(子・丑・寅……)」の原点である。
つまり、干支暦の根幹は木星の運行周期(約12年)に基づいているのである。
西洋での木星の名「Jupiter」は、ローマ神話の主神ユーピテル(Jupiter)に由来する。ギリシア神話のゼウス(Zeus)と同一視される存在である。
ゼウス/ユーピテルは、雷を司り、神々と人間の秩序を支配する「天空の王」。
古代人が夜空に最も明るく、最も威厳ある星を見たとき、彼らは自然とそれを「神々の王の座」と感じ取っていたのだ。
*
木星──太陽系で最大の惑星。
赤道半径71,492 km、地球の約11倍。
その体積は地球の1321倍、だが質量は318倍にすぎない。
つまり、木星は“軽い巨人”だ。ほとんどが水素(約89.8%)とヘリウム(約10.2%)でできている。
上空の気温は−145℃(128 K)。
圧力は地球海面気圧の0.1気圧程度──地球でいえば成層圏のような薄さだ。
そこから深く潜るにつれ、気圧は10気圧、100気圧、やがて100万気圧(1 GPa)を超える。
この圧力下では、水素は液体に、さらに金属に変わる。
“金属水素”──宇宙で最も奇異な物質のひとつが、木星の核心を包んでいる。
その中心部の温度は約24,000 K、地球の太陽表面よりも熱い。
だが木星は恒星ではない。
重力収縮によってわずかに自ら光を放つ──太陽から受けるエネルギーの1.6倍を放射している。
つまり木星は、 “冷えきらぬ星の胎児”なのだ。
*
木星の表面に見える白と褐色の縞模様──それは風の流れそのもの。
東西方向に吹くジェット気流が十数本、緯度ごとに交互に走っている。
赤道付近では風速秒速120〜150 m、
極域でも秒速30 mを超える。
地球のジェット気流(秒速30〜50 m)など、そよ風に等しい。
その中に永遠の嵐がある。
大赤斑(Great Red Spot)──南緯22°に位置する巨大な反時計回りの渦。
直径16,000 km、地球がすっぽり入る規模だ。
観測史上少なくとも350年以上存在しており、今なお衰えていない。
内部の風速は秒速430 km/h(約120 m/s)。
その中心では、未知の化学反応が赤い色を生み出していると考えられている。
*
木星の雲は3層構造だ。
上層(0.5気圧付近)──アンモニア氷(NH₃)
中層(1〜2気圧)──硫化アンモニウム(NH₄SH)
下層(3〜7気圧)──水の氷と液滴(H₂O)
これらが嵐の中で混ざり合い、巨大な対流を形成する。
Juno探査機の観測では、雷の発生頻度は地球の約10倍。
放電は深さ50〜90 kmの雲層で起こり、電圧は数億ボルトに達する。
この過程で形成されるのが「マッシュボール(mushball)」。
アンモニアが水の氷を溶かし、再凍結してできる“冷たいスラッジ”。
それは直径数十センチから数メートルの塊となり、
秒速数十メートルで落下し、深層のガスに溶ける。
“液体の雨ではなく、溶けながら消える嵐の果実”──
まさに気象学と詩学が交差する現象である。
*
木星は太陽系最大の磁場を持つ。
その強度は地球の約20,000倍。
磁気圏の広がりは太陽に向かって700万 km、
夜側では太陽からサターン軌道(約7億 km)に達するほどだ。
磁気圏内では、イオ(衛星)から放出された硫黄と酸素のイオンが巻き上げられ、
プラズマ・トーラス(plasma torus)と呼ばれる光輪を形成する。
そこを電子が走るたびに、木星の極域でオーロラが閃く。
その輝度は地球のオーロラの数百倍、
紫外線帯では10⁶ワット/平方メートルを超えるエネルギーが放たれる。
この光は絶えず木星を包み、
星全体を“発光する電磁の巨胎”として宇宙に照らしている。




