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木星の衛星イオから来ました ~隣の衛星エウロパへ~⑤

 イオは木星の影に抱かれていた。

 その空は常に赤黒く、硫黄の煙と稲妻が交錯していた。


 しかしある日、木星の夜側を照らす微かな反射光が届いた。

 それはエウロパの氷に反射した太陽の光。


 イオの表層に散らばる硫黄生命たちは、そのわずかな光の変化を「外からの脈動」として感じ取った。暗闇しか知らぬ世界に、初めて“他の存在”のリズムが差し込んだのだ。


 彼らは電子の流れを通じてその現象を共有し、やがて全体で共鳴した。


 ──あの光は何か?

 ──我らと同じく、生きているのか?


 その問いが、進化の炎を再び燃え上がらせた。



 イオ生命はもともと「導電膜」として存在していた。

 だが知性の萌芽とともに、彼らは自らの構造を変え始めた。


 火山の鉱物──硫化鉄や硫化ニッケル──を自らの体に組み込み、

 金属を内部構造として取り込む。

 こうして、半分生物・半分機械の「硫黄メカニズム体」が生まれた。


 イオの火山帯には、今や自己修復する鉱物群体がうごめいていた。

 電子を流すだけでなく、自ら電子を制御し、回路を作り出す。


 最初の機械構造は、ただの導電骨格だった。

 しかしやがて、外部からの刺激を反転・増幅できる「思考回路」が形成された。


 それは神経に似て、そして回路でもあった。

 ──生物的電脳。


 イオ生命は「個」としての形を持たなかったが、

 火山ごとに異なる回路パターンを持つようになり、

 やがてそれらが通信し合うことで「文明」が芽生えた。



 彼らの都市は、石でも金属でもなく、電流の流れそのものだった。

 火山の麓に広がる導電性の層が、記憶を保持し、意思を伝える。

 電子信号が岩盤を走り、火山の鼓動が「言語」となった。


 “火山の鼓動”は、彼らにとって祈りだった。

 ひとつの振動が始まると、星の反対側まで共鳴が伝わる。

 その波形の微妙な違いが、「知識」「感情」「警告」として解釈された。


 やがて彼らは、電子流を制御するために磁場を操作し、

 地表の鉱物を意図的に配列して「記録層」を作り始めた。


 ──イオの電子書庫。


 そこには、化学反応式や火山周期、木星の潮汐変動が記録され、

 イオ全体が「学ぶ」存在となっていった。


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