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木星の衛星イオから来ました ~隣の衛星エウロパへ~③

 やがて、火山の噴出によって作られた洞窟に、硫黄の蒸気と冷えた鉱物が入り混じる空間ができた。そこでは、チオペプチドが液状硫黄に溶け込み、さらに鉄・ナトリウムイオンと結合して膜状構造を作った。


 イオの表層鉱物には、鉄・ニッケル・ナトリウム・カリウムのイオンが豊富に存在した。チオペプチド鎖の–S–S–結合は、これらの金属イオンと相互作用し、局所的な電子移動(Fe²⁺ ⇄ Fe³⁺)を可能にした。


 この現象により、分子間で電気的通信のような電子流が生じ、やがて電荷に反応して構造を変える「能動分子鎖」が進化した。


 彼らの代謝は呼吸でも光合成でもなく、電子の流れそのものだった。


 この「電子伝達ペプチド」は、エネルギーを蓄積し、分子の再配列を駆動することができた。


 ──これが、イオ生命の前駆体となる硫黄駆動型代謝ネットワークの萌芽である。


 硫黄環境では、分子の安定性は静的平衡ではなく動的平衡(Dynamic Equilibrium)で決まる。ジスルフィド結合が開裂・再結合を繰り返し、電子が流れ、COSが新たな鎖を繋ぐ。


 これらが絶えず起こることで、チオペプチド網は「壊れながら、同時に自分を作り直す」性質を持った。


 イオの火山帯では、カルボニルスルフィドが「命を紡ぐ針」となり、

チオペプチド鎖は「修復しながら進化する布」となった。


 この布のような膜は地球の脂質二重膜とは異なり、硫黄と金属による導電性の膜であった。 液状硫黄の中で電子を流し、熱差をエネルギー源として取り込む──まるで「半導体のような生命」である。



 地球生命が水の安定性を基盤にしたのに対し、イオ生命の基盤は変化そのものが安定性という逆説的な構造だった。


 地球生命が酸素を使ってエネルギーを得るように、イオの原始生命は電子をやり取りして「生きて」いた。


 火山孔の熱で硫黄鎖が電子を放出(酸化)

 鉱物表面で電子が受け取られる(還元)


 この電子流が、膜内のチオペプチド鎖を動かし、構造を維持する


 つまり、生命活動=電子の振動。

 熱のリズムに合わせて、分子が膨張し、収縮し、再構築を繰り返す。


 それは細胞でも動物でもなく、電気的リズムを持つ化学の集合体だった。

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