木星の衛星イオから来ました ~隣の衛星エウロパへ~①
1610年1月7日、ガリレオ・ガリレイは自作の望遠鏡で木星を観測し、
その傍らに「三つの小さな星」を発見した。
翌晩には四つになり、それらが木星の周囲を動くことを確認。
これが後に「ガリレオ衛星」と呼ばれるイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストである。
ガリレオ自身は当初、これらを「メディチ星(Medicean stars)」と呼び、フィレンツェのメディチ家への献辞とした。彼にとって衛星は政治的にも学術的にも「パトロンへの贈り物」だったのである。
しかし、ドイツの天文学者シモン・マリウス(Simon Marius)は独自に同時期に衛星を観測しており、1614年の著作『Mundus Jovialis(木星世界)』において、それぞれの衛星にギリシア神話に由来する名を提案した。
彼はこう記している。
「木星に付き従う者たちは、神話における彼の愛人たちの名を与えるのがふさわしい」
その結果、4つの衛星には次の名が定着した:
Io
Europa
Ganymede
Callisto
この命名は当初は一部にしか用いられなかったが、20世紀に入る頃には国際的に確立した。
ギリシア神話のイオは、アルゴス王女であり、大神ゼウスに愛された乙女である。しかし、ゼウスの嫉妬深い妻ヘラにその関係が露見し、ゼウスはイオを守るために彼女を白い牝牛へと変えた。
ヘラは牛となったイオを監視させるため、百の目を持つ巨人アルゴスをつけた。やがてゼウスの命でヘルメスがアルゴスを殺すが、ヘラはその目を孔雀の羽に移し、なおもイオを追い続けた。
イオは長い逃避行の果てに、ナイル川まで辿り着き、そこで再び人の姿を取り戻す。
この物語は、苦痛と変化、そして再生の象徴とされる。
その名を火山の衛星に与えたのは、まさに「苦しみと変貌を繰り返す存在」という象徴性ゆえであった。




