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月の民ですが、地球で進化し水星の民と出会う④

 その頃、深海探査機は別の異形を発見していた。

 海底ケーブルにまとわりつく、細長い導電体──水星の民である。


 彼らは元来、太陽に近い灼熱の環境に適応し、金属ゲルを基盤とした存在だ。 電流こそ生命であり、地下ケーブルの脈動を「食卓」としていた。


 水星の民は高温環境で金属触媒反応に適応してきた。電流を直接代謝に利用する点で月の民の捕食派と競合していた。特に送電網や通信ケーブルは両者にとって主要な「餌場」となる。


 地球で拡大を続ける捕食の徒と、電力を糧とする水星の民。

 二つの外来種は、やがて同じ資源をめぐって出会う運命にあった。



 満月が大地を照らす晩、都市の電力網には二重のノイズが走った。

 一つは月の民の捕食波。もう一つは水星の民の金属ゲルが生む鋭い干渉波。

 研究者のモニターには、互いに重なり合い、相殺し、時に増幅する波形が映し出されていた。


 ──争いは、まだ始まってはいない。

 だが電力網の深部では、既に二つの外来文明が接触していた。


 観測されるノイズは「ビート干渉」に似ている。月の民の律動波と水星の民の金属干渉波が重なり、新たな周波数成分を生じさせている。これは「資源競合」の初期兆候である。


 白き満月は静かに都市を照らしていた。

 森には共存の徒がまだ残り、都市の影には捕食の徒が潜む。

 そして深海の暗闇には、水星の民が電の糧を求めて広がっている。


 次の満月の夜、電力をめぐる最初の衝突が訪れるだろう。

 人類はその只中にありながら、まだ真実を知らない。

 そのとき人類は初めて、月と水星という二つの文明の狭間に立たされるのだ。


(終)

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