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月の民ですが、地球で進化し水星の民と出会う②

 森の夜。

 彼らは大樹の根の奥に、かすかな電の流れを感じ取った。

 ある群れは結晶を根に触れさせ、穏やかな拍を共有した。木々は枯れず、むしろ枝葉を繁らせ、果実を豊かに実らせた。

 彼らは「共存の徒」となった。


 一方で、別の群れは鹿の胸に耳を当てた。

 「トン、トン、トトン」──心臓の鼓動は力強く、規則正しく響く。

 結晶を突き立てれば、鹿は痙攣し、電流が奪われてゆく。

 命の拍を食む行為は甘美で効率的だった。


 心筋全体の活動電流は数十mA規模と推測される。月の民にとって一頭の大型哺乳類は「数日分の栄養源」となり得る。共存の徒は安定するが収量が少なく、捕食の徒は効率的だがリスクが高かった。


 そして彼らは「捕食の徒」となった。



 数千年が過ぎた。

 人は森に祠を建て、月の民を「守護」と「祟り」の両面で語った。


 ある村では、満月の夜に鹿が群れごと倒れた。人々は「月喰いの祟り」と呼び、怯えた。また別の村では、田畑が豊かになる森を「月下の守護神」と崇め、夜ごと供物を捧げた。


 祭りの太鼓が鳴ると、森の奥から応答の拍が返ることもあった。

 ──人々はそれを「月の拍子」と呼び、祭祀に組み込んだ。


 世界各地の民俗伝承に残る「森の精霊の拍子」は、群体の共鳴現象だった可能性がある。現代の地震計で解析すれば、周期的・人工的なパターンとして残るだろう。



 文明は進み、都市に電信が張り巡らされた。

 捕食の徒は新しい糧を見つけた──送電線である。


 導電性殻を持つ月の民が送電線に付着すれば、局地的な短絡やノイズが発生する。交流50/60Hzは特に強いリズム刺激であり、彼らを引き寄せる。


 電柱に群れがまとわりつけば、都市の明かりは一夜で消えた。

 停電は彼らの宴であり、人はそれを「影の怪異」と呼んだ。

 新聞には「原因不明の停電」と記されたが、地元の人々は知っていた。

 ──あれは月夜に現れるものだ、と。


 共存の徒は農村や森にとどまり、太鼓に応じて律動を返し続けた。だが伐採と開発によって、その数は減少していった。

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