土星の衛星タイタンから来ました⑤
誕生直後の第三の生命は、メタン湖に漂う泡のような小さな小胞だった。しかし個別の頭脳を持つ個体は、外界をより強く制御する必要に迫られた。そこで膜の構造を変化させ、単なる球ではなく、突起やひだを持つ形をとるようになった。
突起は「感覚器」として光や化学物質を集める。
ひだは表面積を広げ、反応効率を高める。
こうして「形」の差異が、生存に直結する時代が始まった。
浮遊だけでは環境に流されるだけだった。
彼らはやがて、膜の一部を収縮させて推進力を得る仕組みを編み出した。分子反応で局所的にガスを発生させ、水中ロケットのように動く。または膜の片側だけを振動させ、鞭毛のように進む。
この運動により、より光の多い場所、より栄養の豊富な場所へと自ら移動できるようになった。
動くようになると、大きさも重要になった。
小型個体は「感覚特化」──光や化学物質をすばやく感知して回避行動をとる。
大型個体は「処理特化」──内部に結晶状の情報構造を増やし、思考と記憶を蓄積する。
これにより、形態の多様化が進み、地球でいう「単細胞の多形化」から「原始多細胞化」へと近づいていった。
進化の圧力のもと、第三の生命は次第に 「形の個性」 を持つようになった。
羽根のような膜を広げ、湖流を利用して滑るもの。
螺旋状の体をくねらせ、泥を掘って潜るもの。
球形の外殻を硬化させ、衝撃から内部を守るもの。
もはや彼らは「泡」ではなく、姿を持つ生命へと変貌していた。
形を持ち、運動を手に入れたことで、外界からの刺激はより複雑になった。これに対応するため、内部の「脳」構造はさらに発達し、動きながら考えるという新しい知性が芽生えた。
動ける知性は、動けない群体よりも生存に有利だった。こうして「個の身体」と「個の頭脳」が強く結びつき、文明の前段階が整った。




