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土星の衛星タイタンから来ました④

 最初に誕生したハイブリッド小胞は、ほとんどが群れとして同期し、光の信号で全体知性を築こうとしていた。だが、その中にわずかな「異端」が生まれた。アジドソーム膜の構造に局所的な厚みがあり、内部の核酸分子が外界と隔絶されていたのだ。


 外と遮断された内部は、独自の化学反応場となり、やがて 「個としての情報処理」 が始まった。


 膜内部に結晶状の分子配列が形成され、そこに情報が蓄積される。光や化学刺激を入力として記録し、分子の再配列を通じて「経験」を保持する。これが「原始の神経回路」として働き、小胞ごとに独自の反応パターンが育っていった。


 やがて小胞は、群体の光信号を模倣しながらも、自分自身の判断を下すようになった。


 複数の小胞が融合して大型化すると、内部に繊維状の分子ネットワークが張り巡らされた。それは電子や分子を高速にやり取りする経路となり、やがてニューロン類似の構造を生んだ。


 こうして、ひとつの生命体の内部に「個別の脳」が芽生えた。


 群れが即時に記憶を共有するのとは異なり、個の頭脳は「忘却」と「思索」を経験した。時間をかけて内部で情報を整理し、未来を予測し、選択を下す。


 これにより 個性 が生まれた。


 ある個体は、光信号を読み解く学習に長け、またある個体は化学物質を感知して環境を操ることを得意とした。群体の均質な知性を離れ、多様な個の才能が芽吹いていった。


 個別の頭脳を持つ生命体たちは、互いに光で交信しながらも、完全な同調を避けた。それぞれが異なる「視点」を持つことで、群体全体はより強固で柔軟なネットワークとなった。社会的協力と個の自由が併存する進化は、やがて文明を築く礎となった。


 地球生命は「個体の脳」と「種の進化」に頼る。


 タイタン生命は、最初から「群体知性」を選んだが、その一部が「個別の脳」へと飛躍した。


 この進化の道は、人類の脳に似ていながら、より低温環境に最適化され、分子レベルで再構築可能な神経網を持つ。つまり彼らは、死後も「脳」を他の膜に移植できる存在となり、個の記憶を継承する文明へと進化した。

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