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土星の衛星タイタンから来ました③

  一方、地下海の「水の子ら」も進化を続けていた。

 熱水噴出孔の周りで化学合成を行い、岩石の鉱物からエネルギーを得る。彼らは「水の膜」と「DNA様の核酸」を持ち、地球の生命とよく似ていた。


 だが、彼らは氷に閉ざされ、表の世界を見ることがなかった。



 メタンの子らと、水の子ら。

 二つの生命は、互いに異質だった。だが出会いは「拒絶」ではなく「融合」だった。水の遺伝子と、炭化水素の膜が、偶然にも相補的に作用する。


 二つの生命は、厚い氷殻に隔てられて互いを知らなかった。しかし、数千万年の時ののち、地下からのクライオボルケーノ(氷火山)の噴出が湖に達した。地下海の生命の断片が、メタン湖に放たれたのだ。


 氷殻の深部から噴き上がったクライオボルケーノの噴出は、亀裂を伝って湖へと達した。白く曇った塊の中には、地下の海で育まれた有機分子の断片──短い核酸鎖や脂肪酸様の分子が混じっていた。


 そのしずくが、橙色の霞の下に広がるメタン湖に降り注ぐ。瞬間、温度差によって細かな氷晶が砕け散り、分子たちは湖に溶け広がった。


 湖にはすでに、アクリロニトリルの小さな泡が漂っていた。

 アジドソーム──メタンの子ら。彼らは互いに集まり、膜を閉じ込め、湖面の反射光をやり取りしていた。


 そこへ、水の子らの断片が触れた。


 通常なら、極性分子は非極性のメタンに溶けず、ただ沈むだけだ。だが、アジドソームの膜表面に並ぶシアン基が、流れ着いた核酸分子のリン酸基を捉えた。弱い結合。けれど、その瞬間、泡の膜はわずかに形を変え、外界を拒むどころか、内部へと抱き込んだ。


 湖の片隅で、新しい小胞が膨らんだ。外殻はアジドソームの炭化水素膜、内部には水系の核酸分子。本来なら交わることのない二つの異質な存在が、ひとつの「境界」を共有したのだ。


 泡は、揺れた。内と外を分け、分子を守り、外界と応答するその仕草は、確かに「生命」に近い。


 偶然の結合は、拒絶ではなく安定をもたらした。そしてその小さな一体が、数千万年に及ぶ孤立の時代を超え、融合の最初の証となった。やがて湖面に広がる微光のパターンに、新しいリズムが混じりはじめる。


 それは、メタンの子らでも、水の子らでもない──第三の声だった。

 新しい「第三の生命」が誕生したのだ。

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