水星の民ですが、地球人と接触しました④
*地球の民
以降、世界各地の海底ケーブルで電流異常が頻発する。
都市が停電し、航空機が地上に留め置かれ、金融市場が混乱する。
各国政府は表向き「自然現象」と発表したが、内部文書は明確に記していた。
――「水星起源と推定される電流生命体による資源吸収行為」。
停電が繰り返され、人々は怒号を上げた。
政府は会議を重ね、ついに軍事利用が検討される。
「EMPを使え。磁場で焼き払え」
軍は動いた。
軍事組織は強磁場フェンスとEMP兵器を開発、海底に配備した。
その目的は抑止と防御にあったが、結果的に対象にさらなる「痛覚」を与えることになった。
観測者Cは報告する。
「EMP照射により複数体が痙攣、崩壊。その直後、残存個体が集合し、吸収速度を急激に高めた」
つまり、攻撃に対し攻撃で応じるのではなく、奪取行動を強化するという群体的適応が確認された。
結果として、人類側のインフラ障害はより深刻化した。
停電は夜を丸くし、都市を原始へ戻す。
病院では発電機が唸り、信号は赤のまま凍り、子どもたちは空の星を初めて数えた。
「テロではない。攻撃でもない。行為は生存だ」
だが映像は、暗闇に走る灰白の影を何度もリピートし、人々は名前をつけた――水星の亡霊。
*水星の民
彼は“彼”ではなかったが、便宜上「彼」と呼ぶ。
ノードL-17、群体の一部、個にして群。
群体記憶は、焼けた痛覚を何度も再生し、外界のモデルを更新した。
――蒼の民は電流を持つ。
――電流は食卓だ。
――蒼の民はそれを毒にも変える。
――避けよ、奪え、守れ。
L-17は同輩とともに、海底の川――ケーブル――に沿って移動した。
近づくと心は飢え、離れると飢えは薄れ、渦のような誘惑が全身を撫でた。
蒼の民は光で話す。音で話す。L-17はそれを持たない。だが電場の癖を読むことはできた。街ごとに違う癖。夜ごとに変わる拍子。
「彼らは踊っている」とL-17は思った。
踊るものは、秩序を持つ。秩序は奪える。




