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月から来ました②

 だが月は苛酷な世界だった。

 隕石の衝突、温度差、放射線。固定された膜だけでは生き延びられない。


 一部の群体は岩から浮き上がり、鉱物を束ねた繊維構造を発達させた。

それは筋肉のように収縮し、岩を叩き、リズムを刻むことを可能にした。

こうして「立体の体」を持つものが現れた。


 岩を離れ、移動する繊維生命。彼らは「跳ねる芽」と呼ばれた。



 月には音がない。

 だが岩を伝う振動は遠くまで届いた。繊維生命たちはその振動を敏感に感じ取るため、細長い結晶突起を発達させた。


 突起はやがて二本に伸び、洞窟の天井にまで届くような「耳」となった。耳は振動センサーであり、放射線や電磁波すら感知した。耳が揺れるたび、群れのリズムは正確になり、遠くの仲間と会話できるようになった。


 低重力の月で最も効率的な移動は「跳ねること」だった。繊維の脚がバネのように進化し、彼らは宙を舞うようにして移動した。跳躍のリズムそのものが「言葉」となり、群れ全体が合唱のように跳ねながら文明を築いた。


 彼らの体は白銀の鉱物質に覆われ、耳は長く空を向き、岩を蹴るたびに月面にリズムを刻んだ。


 その姿は──地球から見れば、まさしく「月のウサギ」。


 彼らの文明は、光ではなくリズムで語られる。洞窟は太鼓となり、月は舞台となり、跳躍者たちは合唱しながら未来を夢見る。


 ──それが、人々が夜空を見上げて語った「月のウサギ」の真の姿だった。

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