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天王星の衛星ミランダから来ました⑦

 太陽風に押され、彼らは地球軌道へ近づいていった。しかし到達には慎重を要した。彼らの機械の殻は真空と冷気に強かったが、大気の熱は未知のものだった。


 何世代にもわたり彼らは議論した。

「地球に降りるべきか、それとも軌道上に留まるべきか」

 光と電磁信号で交わされたその議論は、やがて「まずは観測」という合意に収束した。


 ついに彼らは地球の周回軌道に到達した。


 眼下には、彼らの氷の海とはまるで違う世界が広がっていた。

 青い海、大気に流れる白い雲、大陸の緑。


 彼らは群れをなして静かに浮かび、その姿を誰も見つけることはなかった。だが、彼らは心に刻んだ。


 ──「ここに、別の知性が存在する」


 それは旅の終わりではなく、新しい物語の始まりだった。



 地球を周回する彼らは、長い間ただ観測を続けていた。

 青い海、流れる大気、季節ごとに色を変える大陸──。

 そこに自分たちと同じ「生命の呼吸」を感じた。


 しかし、彼らにとって大気は未知の危険だった。

 摩擦熱、酸素の炎、重力の重み。

 数世代に及ぶ議論の末、彼らは決意した。


 ──「我らの殻を強化し、青き惑星へ降りる」


 群れの一部が、機械の外殻をさらに厚くし、熱を逃すための層を組んだ。まるで貝殻のように幾重にも重なる鉱物板。内部には水のクッションが満たされ、生命体を守った。


 やがて彼らは速度を落とし、地球の引力に身を委ねた。空は燃え、赤橙のプラズマが殻を包み込む。だが、彼らの機械と生命の融合体は耐え抜いた。


 初めて、地球の空気の匂いが殻の隙間から流れ込んだ。酸素の濃さに彼らは驚き、歓喜した。


 彼らが選んだ着陸地は、大陸ではなく、広大な海だった。自分たちの祖先が生まれた氷の海に似ていたからだ。


 重力に従い、彼らの殻は波間に沈み込み、やがて静かな湾に漂着する。殻が開き、中から青白く光る魚型の群れが姿を現した。


 暗黒のミランダで進化したその体は、地球の太陽光を初めて浴び、虹色にきらめいた。


 彼らは水中に広がり、群れを作った。光信号を放ち合い、地球の海を調べ、見知らぬ生命を観察した。


 魚、珊瑚、海藻──。

 どれも彼らに似ていながら、まったく違う。

 地球の生命は「光合成」と「酸素呼吸」によって築かれていた。


 やがて、海岸に立つ人類の姿を見つける。背筋を伸ばし、道具を持ち、言葉を交わす者たち。


 彼らは静かに理解した。

 ──「この星には、我らと同じく知性を持つ存在がいる」


 ミランダの氷の海から生まれた彼らの旅は、地球の海にたどり着いたことで一区切りを迎えた。


 だがそれは終わりではなく、新しい章の始まりだった。二つの異なる進化の果てに生まれた知性が、ついに同じ星で出会ったのだから。


(終)

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