天王星の衛星ミランダから来ました⑤
数百万年の時が流れた。
魚型生物の中でも、より複雑な信号を操れる群れが優勢となり、氷下の洞窟の岩肌に鉱物を並べて「光を反射する装置」を作り出した。
光は増幅され、遠くの仲間へ届く。彼らは初めて「道具」を手にしたのだ。
やがて発光信号は洞窟の奥で反射を繰り返し、暗黒の海の中に光の都市のような空間が広がっていった。
魚型生物たちは、長い間「光」と「群れの秩序」だけで暮らしていた。光信号で会話し、洞窟の壁に鉱物を並べ、光を反射させて遠くの仲間へ意思を伝える。
しかし、ある群れは気づいた。
──「鉱物はただ反射するだけではない」
鉄や硫黄を含む鉱物の破片に触れると、電流のような刺激が流れた。それを利用すれば、信号をもっと強く、遠くへ送れる。
やがて彼らは、岩肌に導電鉱物を並べ、回路の原型を築き始めた。
魚型生物の神経は、元から電気信号を基盤にしていた。だから鉱物回路を使うのは自然な進化だった。
鰭の先端にある感覚繊維で鉱物を押し、並べ、つなぐ。電流が走れば、まるで外部にもう一つの神経網を持ったようだった。
こうして「光文明」は、「電気文明」へと姿を変えた。
電気回路を拡張すると、岩を熱して溶かすことができた。氷の洞窟に彫られた溝を伝い、温水を流す。熱の制御が進むと、氷を削り出して形を整えることが可能になった。
仲間はそれを「人工の殻」として利用した。岩と氷と鉱物で作られた殻は、彼らの体を守り、推進器を強化した。
──最初の機械的装置だった。
生物たちはやがて、自分たちの身体を超える力を欲した。鰭の代わりに金属の板をつけ、電流で駆動する。発光器官の代わりに、鉱物結晶を組んで強力な光を放つ。
体と機械の境界は曖昧になり、彼らは半生物・半機械の存在へと変わっていった。
群れは、もはやただの「魚の集団」ではなかった。機械を使う者、機械を修復する者、回路を設計する者。分業はますます進み、やがて「階層」と「組織」が生まれた。
洞窟の奥には巨大な鉱物都市が築かれ、電流が脈打つ音が轟く。
それは海底に眠る機械の都だった。




