天王星の衛星ミランダから来ました①
夜空に散らばる星々の中、ひときわ目立たぬ淡い光点。
イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルは、自作の望遠鏡でそれを観測した。当初は恒星だと思われたが、位置が日ごとに動いていた。
──それが太陽系第7惑星の天王星。人類が初めて発見した「望遠鏡時代の惑星」である。
古代から知られていた水星・金星・火星・木星・土星に続く「新しい惑星」は、人類の宇宙観を揺さぶった。世界は七つではなく、もっと広がっている──その感覚を初めて味わったのだ。
その天王星であるが、現在発見されているだけでも27個の衛星がある。
代表的なのは、5つの大型主要衛星で、ミランダ (Miranda)、アリエル (Ariel)、ウンブリエル (Umbriel)、チタニア (Titania)、オベロン (Oberon)という名前がついている。
ミランダの軌道よりも内側にある、天王星の環の近くを回る14個の小さな氷の塊は、内衛星呼ばれる。
その他は、遠く離れた外縁に、不規則な軌道を持つ小天体群で不規則衛星と呼ばれる。これらは捕獲された小惑星やカイパーベルト天体である。
5つの大型主要衛星のうちミランダとアリエルは、大気は無いが氷の奥深くに、潮汐力によって液体状態に保たれている地下水が埋蔵されていた。
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地球から見るミランダは、望遠鏡の中に浮かぶ、微かな点にすぎなかった。
天王星の周りを巡る小さな衛星──直径わずか470km。月や木星の衛星と比べれば、取るに足らない存在である。
だが、その表面には奇怪な模様が刻まれていた。
巨大な断崖、ねじれた地形、まるで「パッチワーク」のように継ぎはぎされた世界。そこには、天体の過去を封じ込めた「記録」があった。
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ミランダという名は、シェイクスピアの『テンペスト』に登場する乙女に由来する。彼女は嵐の中で新しい世界に触れる存在。人類にとって衛星ミランダは、まさに「嵐の外に眠る未知の世界」を象徴していた。
文学者はミランダを「太陽系の忘れられた乙女」と呼び、科学者は「生命進化の可能性を秘めた実験場」と呼んだ。
もはや人類にとってミランダは単なる氷塊ではなく、可能性を秘めた場所である。




