水星から来ました④
宇宙は苛烈だ。水星から直接飛び立つには、太陽重力井戸を越えねばならない。彼らはロケットを使わなかった。
代わりに彼らは、電磁帆を作り上げた。水星の鉱物で編んだ超伝導格子を展開し、太陽風の流れに乗って宇宙へと押し出されたのだ。
最初の探査機は無人の「金属の種子」だった。それは数千年の航海を経て、地球の軌道に達した。
*
やがて、彼ら自身がその旅に乗り出した。金属とゲルで構成された人型の生命は、電磁帆の内部で群体ごと眠りにつき、数百年の旅を耐えた。
そしてある夜明け、蒼く光る惑星の大気圏に、彼らの船影が差し込んだ。
地球の海を初めて見たとき、彼らは長き夢が現実となったことを悟った。
その姿は、人のようでいて、人ではなかった。灰白の皮膚は半透明に光を透かし、眼のように見える結節は電場を感じ取る。
だが、立ち姿は人間に酷似し、「遠い親類の幻影」のように見えただろう。
彼らは言った。声ではなく、電磁の震えとして──
「われらは蒼を夢見、蒼に至った」
水星の灼熱と闇に生まれた生命は、科学を紡ぎ、群体の記憶を積み上げ、ついに蒼き地球へ到達したのだった。
(終)




