表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/82

木星の衛星エウロパから来ました⑥

 ──ある時、海底の裂け目から熱水の噴出が弱まり、周囲の温度が数度下がった。すると、群れの一角で、膜の構造がわずかに揺らぎ始めた。内部の鎖は、寒冷に耐えられず崩れかけたのだ。


 だが別の群れは、温度変化を感じ取るかのように、硫黄を用いた鎖の架橋を増やし、膜を厚くした。


 彼らは環境の変化に応答したのだ。


 やがてこの応答は群れ全体へと広がった。ある群れが膜を厚くすると、隣の群れもそれを模倣し、さらに隣の群れも同じ変化を示した。


 それはまるで、ひとつの信号が群れ全体を駆け抜けるようだった。


 まだ神経も電気もない。ただ化学反応の連鎖と、分子の模倣にすぎなかった。


 だが確かにそこには、「環境の刺激 → 群れの応答」 という最初の「感覚」が芽生えていた。


 この仕組みは温度だけではなく、硫黄濃度の増減や、金属イオンの変化にも及んだ。


 ある群れが「危険」を察知すれば、その変化は次々と周囲に伝わり、群れ全体が同時に対応する。


 やがてそれは、まるで海底の絨毯が一斉に震えるかのような光景を生み出した。


 ──個々は短命な泡にすぎない。だが群れが共鳴するとき、そこにはひとつの巨大な「生き物」のような姿が現れた。


 こうして群れは、ただ生き延びるだけではなく、「感じて応答する存在」となった。


 その感覚はまだ単純で、「熱い」「冷たい」「豊か」「乏しい」といった大まかな違いに過ぎなかった。


しかし、それは確かに意識の種だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ