表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/65

6、この事件は



(なんで、こんなに驚いているのかしら…?)


 よくわからないが、顔が両頬怪我をしているのが痛々しいと思い、思わず両手でそっとふれた。男の子はビクッとなったが気にせず、早くよくなればいいなと思いながらハンカチで泥を拭う。


 すると、痛かったのか、先ほどの恐怖が今来たのか。涙がポロっとこぼれ落ちてきた。


「あ、ごめんなさい。痛かった?」

「いや、違う...大丈夫...だ。ありがとう...。...騎士は?」


 一粒流れると止まらなくなったのか、ポロポロと涙を流しながらも首を振り、お礼を言ったあと、はっとしたように問いかけられる。


 まぁ、攫われそうになるなんて誰でも怖いわよね、と1人で納得しつつ返答する。


「あ、あれは嘘なの。でも私の護衛はすぐにくると思うわ」


 話している間にも「お嬢様!どちらですか!」と私を探している声が聞こえた。

 返事をするとすぐに駆けつけてくれた。警邏の騎士も呼んでくれたようで、もうすぐ来るとのことだった。

 

(これでもう、大丈夫かしら。それにしても...)


 男の子も泣いたのは一瞬で、すでに泣き止んでおり、護衛と警邏の会話を聞いているようだ。最近、行方不明の申し出が数件があったそうだ。自発的にいなくなったものか、人攫いか。何も手掛かりがなく、調査は進んでいないようだ。


(これは、小説でもあった人攫い事件と同じなのかしら...)


 小説でアスターが誘拐されそうになり、男主人公の王太子であるアレクシスが助けるという事件がある。その事件がきっかけで2人は知り合うことになる。

 小説が始まるまであと7年ほどあるため、まだ先の話だと思っていたが、そうではないのかもしれない。


 考え込んでいると、サラが来て帰りを促された。事情聴取も護衛騎士が1人残るのと、被害者である男の子がいれば十分だそうだ。


 ちらっと男の子の方を見ると目が合った。


「あ、の、名前は...」

「お嬢様、お急ぎください。」


 何か喋りかけたが、サラと声が被り聞こえなかった。サラは入り組んだ薄暗い路地裏に、あまり私をいさせたくないようだ。

 仕方がなく帰ろうとひと声をかけるため男の子を振り返った。


「それじゃあ、私は失礼するわ。気をつけて帰ってね」

「あっ...」


 にっこり笑って挨拶すると、男の子は何か言いかけていたが、サラにつれられて路地裏を後にした。



 じっとこちらの後ろ姿を男の子が見つめていたなんて気づくこともなく。




 先ほどいた通りまで戻ると、アスターが泣きそうな顔で心配そうに近づいてきたので、無事なことを伝えて馬車に乗り込んだ。

 お土産を買うことが出来なかったが、1人誘拐されるのを阻止できたので、まぁよしとしようと思う。


 馬車に揺られ、外の景色を眺めながら、小説の内容を思い返す。小説の誘拐未遂事件は教会が絡んでいて、ある1人の教会関係者が人を誘拐し、人身売買をしていることが原因だった。


 この国の貴族は王室派・教会派・中立派で成り立っており、ハーディング公爵家は王室派となっている。そしてお父様は宰相を勤めている。


 この世界は今は少なくなったが魔物がおり、昔はとても多かったそうだ。


 魔法や剣などで魔物を倒していたが、そこにこの国では聖女が生まれ、聖なる力で魔物に対抗し、大幅に数を減らしていったそうだ。そのため、女神信仰が強い。教皇も国に対しての発言力が強く、王室派と対立することもしばしばあるそうだ。


 ここ100年ほどは、魔物も数をら減らしたまま増えることもなく、教会の魔物討伐での稼ぎも減ったため、その教会関係者は人身売買でお金を稼いでいたという話だった...はず。


(今回、あの男の子を助けることが出来たことで抑止力になればいいのだけど......)


その教会関係者が誰だったのか。それを覚えていない。忙しくてざっと流し読みだったせいでこんなときに思い出せないなんて。どうやら記憶能力がいいのは今世だけのようだ。


公爵令嬢とはいえまだ9歳なので、この誘拐は教会が主導しています。なんて言っても証拠もない中で信じてもらえないだろう。

 それにそもそも、今回のことが小説の中の事件とは全く関係のないものの可能性もある。


 ぐるぐる考えていると、とんっと肩に重みがかかった。見てみるとアスターが気持ちよさそうに寝ている。


(そういえば、楽しみで眠れなかったって言ってたものね...)


 アスターの顔を眺めていると、自身も眠気に襲われ、うとうとと眠ってしまった。


 向かいに座っているサラとマーサは、微笑ましい光景を馬車が公爵邸につくまでの間、温かい気持ちで眺めていた。



 屋敷に着いた時に目が覚めたが、アスターは変わらず寝ており起きなかった。

 疲れているだろうからと、執事が寝かせたまま部屋に連れて行ってくれた。


 私も疲れていたが、走ったことで汗をかいたためお風呂に入りたかったので、お風呂に入ってさっぱりすることにした。


 今日行った可愛い雑貨屋さんにあった鈴蘭の香りの入浴剤をいれてもらう。


(そういえば、咄嗟に鈴蘭を持ったまま追いかけて行ったけど、そのあと鈴蘭はどこにいったかしら…?)


 おそらく男の子を助ける時に無意識にどこかに置いた気がする。買った花の中にまだ鈴蘭があったため、まぁいいかと思いなおし、お風呂を満喫することにした。




読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ