52、それぞれの末路
次で最終話となります。
立太子の儀の夜会から1か月がたった。
本来であれば貴族の裁判は時間をかけて行われるものだ。しかし王太子の婚約者であり、新緑祭からさらに民衆の支持が高まっていたらしい私への蛮行ということと、オーウェン先生の活躍ですぐに証言や証拠が集まった。そのため裁判は異例の速さで執り行われ、関わった者たちへの処罰が言い渡された。
オーウェン先生は大活躍したようだけど、何をしたのだろうか。アレク様に聞いても濁されて教えてもらえなかった。
結局、ドレージュ公爵家は取り潰しとなり、ドレージュ公爵とヴァネッサは処刑となった。
ドレージュ公爵は過去の余罪も含めて追及された。ヴァネッサは最後まで私は悪くない!悪いのはあの悪女よ!と叫んでいたそうだ。
しかしドレージュ公爵が私を欲していた話と、そしてヴァネッサにはもとより興味もなければ期待もしていないという言葉を聞いて呆然としたあと、しばらくして発狂し、それから何も話さなくなったそうだ。
その話を聞くと、毒親と言われるものだったのかと、ヴァネッサもある意味では被害者なのではないかとかわいそうに思えた。しかし一線を越えてしまったのは許されることでもないのだろう。
また、その蛮行を知っていて止めもしなかったメイフェル伯爵家の人たちは、長男は何も知らなったため何もお咎めはないが、伯爵夫妻は土属性の適性があることから鉱山での労働を課せられた。
そして今後はオーウェン先生を当主として家は存続するそうだ。
「は…?当主とかなんでそんな面倒なこと…」
とはオーウェン先生の言葉。ものすごく嫌がっていた。
「あ、でももしこの間の噂みたいなことがあったらいつでもおいで。爵位もあるなら安心でしょ?」
「心配するな。そんなことは一生、どう転んでも、俺が死んでも絶対にありえない」
そんなことを言ってアレク様に言い返されていたという一幕もあった。
ポイズナー大司教に至っては、女神様うんぬん言っていたが全て独断で行っていたようだ。
教会の資金難で、ともっともらしいことを言っていたが、ほぼその資金はポイズナーが私的に使っていたことも分かった。
今回教会はポイズナーのしでかしに気づかなかったことで王室に大きな借りを作ることになった。
本来であれば教会の者は教会の独自の法により裁かれる。しかし今回はことがことだけにポイズナーは教会から除籍され、一般の司法により裁かれることとなった。
今回のことを重く受け止めたポイズナーの上司であった枢機卿は教会を辞することも決まったそうだ。
お父様は、お母様の仇をうてたしほっとしているかもしれない。
今日はお母様方の命日ではないけれど、報告を兼ねてお父様とアスターと3人でお墓参りにきている。
お母様の遺体は棺桶に入れることができなかったから形だけかもしれないけど、お父様は毎年命日には必ずきているらしい。
ちなみにアスターのお父様で、私の叔父になるエリオット様のお墓もお母様の横にある。
そして報告を終えたお父様は感極まったのか涙を流していた。
12年かけても諦めずにやっと解決したのだから、感動もひとしおだろう。もう執念だったのだと思う。
でもお父様のそんな顔は初めて見たのもあり、アスターと2人でわたわたしてしまった。
私も城での保護はもう不要なため、アレク様はめちゃくちゃ渋って拗ねていたが公爵邸に帰ってきた。
お父様の気持ちもわかり、婚約解消をしないのなら結婚も視野に入ってきたため、これからは短い期間かもしれないが親孝行をしようと思った。
それを伝えるとアレク様は、そんなことを言われたら、何もいえないじゃないか、と言って快く?送り出してくれた。
おそらく前世、親孝行もできず早くに両親を亡くしたことも考慮してくれたんだろう。
ただそれでも以前と変わらず、毎日お茶会することにはなりそうだ。
ーーーーーーー
実はドレージュ公爵とヴァネッサ、ポイズナー大司教はまだ生きている。魔力持ちが貴重な世の中で、処刑するのはどうかという議論になったからだ。
生涯幽閉され、魔力を搾り取られ続けることとなったのをシェリルは知らない。
ちなみに魔力を搾り取られるのはとてつもない苦痛を伴う。それこそいっそ殺してくれと言わんばかりの苦痛だそうだ。
ただ死んでそれで終わりとしたくなかったものたちの気持ちも汲まれた罰だったといえる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数日。
以前の日常がもどり王太子妃教育を終えてのお茶会、ふと思っていたことを口に出した。
「そういえば……私を狙ってたとか、いろいろ聞きましたけど、いまだにそんな実感もないまま事件も終わってしまいました…」
命の危険を感じたのは新緑祭のときだけ。それもあまりよくわからないうちにお父様が刺されていた。
あとから実は狙われていたんですと言われても、誘拐もされてなければ怪我をしたわけでもないのであまり実感がなかった。
「まあ、それもそうかもしれないな。シェリルには言ってなかったからな」
「え?」
「実際に、シェリルが俺の婚約者になってから何回か暗殺者が差し向けられたことはある。事前にハーディング公爵が潰していたり、王家の影が動いたりしていた」
それこそ両手じゃ足りないくらい、と言いながらもアレク様は私を膝の上にのせたからか、ご機嫌で私にマドレーヌを食べさせようとしている。
だがしかし。それを聞いた私はたまったものではない。知らないところでいろいろと動いていたのであれば教えてほしかった。
それじゃあアマリアのあの反応も……
マドレーヌを押し退けて確認する。
「もしかして、ヴァネッサには誕生日パーティーでしか直接何かされた記憶はないのですが、それは…」
「ああ、そっちはアスターが潰していたな。俺も動いたことはあったが…半分くらいはアスターが対処していた」
私の知らないところで何やらいろいろと動いていたらしい。
そんなことも知らず私はひとりのんきにのほほんとしていたのか。
そう考えるとなんともいたたまれない。
そして姉なのにアスターに守ってもらっていたなんて。なおさら。
考えると私だけ蚊帳の外ではないか。アレク様とアスター、お父様には私を守ってくれていたことに感謝すべきだとわかってはいる。
私が鈍いのも悪いということはわかる。
わかってはいるが私だけ、と思ってしまうのもしょうがないと思う。
何も言えずにいるとアレク様はふっと笑った。
「ふふっ、ごめんシェリー。ふてくされないでくれ。情報を得るためにも必要だったんだ。そのおかげで情報が集まってから、すぐに動けたんだよ。……まぁ、そもそもシェリルを危険に晒すなんて選択肢はないのだけど」
最後の言葉はボソッと呟いていて聞こえなかった。
「…でも、教えてくれても、よかったと思います…」
「せっかくのんびりと、学ぶことはあっても好きに過ごしているのを邪魔したくなかったんだよ。前世はそんな余裕、なかっただろうから…」
「アレク様…」
アレク様は少し困ったような顔でしんみりとそう言う。
…が、しかし。
「!?にゃ、にゃにを…!」
アレク様の両頬を指でつまんでじとっと睨みつける。
「今までのことは、終わってしまったので何も言いません。でも、これからは違います。何かあったときは、すぐに教えてください。……これからもずっと、一緒にいるのであれば」
アレク様は目を大きく見開いた。
そして次第にくしゃっと泣きそうな顔になる。
私たちにとって、「ずっと」という言葉は絶対ではない、とわかっているからなおさら。私が言葉にしたことで伝わったのだろう。
私がアレク様の妻として王太子妃になる覚悟を持ったことを。
「…あぁ、そうするよ。これからもずっと…ずっと、一緒にいるために……」
「はい、そうしてください。…ふふっ、すっかり泣き虫になりましたね」
私は両頬に手を添え、目尻に溜まった涙に口付けた。
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