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前世、妹と恋人に裏切られた悪役令嬢は恋愛なしの穏便な道を平凡に生きていくはずだったのですが...  作者: はな


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50、アレクシスの前世⑤

これで前世編は最後です。


 思い立ったら行動は早かった。


 ロープはなかったのでネクタイでもいいかと2.3本繋げて片方に輪を作ってみた。どこに吊るそうかと電気の照明につけれるか試していた時、インターホンの音とドンドン!というドアを叩く音が静かな部屋に響いた。


『斗真!斗真!いるんだろう!開けろ!開けなくても鍵開けて入るぞ!!入るからな!!』


 するとすぐにガチャガチャっと音がして玄関のドアが開いた。


 父さんと目が合い、部屋の状況をみて俺が何をしようとしていたのか悟ったのか、目を見開いて驚愕している。


『──っ!お前!!』


 しかしすぐに靴を脱いでどたどた入ってきたかと思うと殴られた。


『一体何をしようとしていた!親不孝者が!!!』


 数日何も食べていない身体にはダメージが大きく、軽々と吹っ飛んでいった。


 父さんはすぐに近づいてきて、俺の胸ぐらを掴んだ。


『もう一回聞く。何を!しようとしていた!!……答えろ!!!』


 そう怒鳴られたところで父さんの肩に手が置かれて、義母さんも来ていることに気づいた。


 それでも父さんは俺から目を離さなかった。


『透さん、ひとまず落ち着いて。話を聞かなきゃいけないのでしょう』


 ひとまず、手を離して、と言われ父さんは怒りが収まらない中、渋々手を離した。



『父さん、義母さん……なんでここに……』

『…斗真くん、久しぶり。いきなり来て驚いたでしょう。でも私たちも驚いたんだから。…何があったか、教えてくれる?』


 弟からの連絡があっても必ず時間ができたら返していたのが連絡がなく、それを父さんと義母さんに伝えたらしい。

 その後、いくらメッセージを送っても既読もつかないから会社に連絡したそうだ。すると休んでると聞いて家に押しかけたようだった。


 その話を聞いたあと、自分の状況をポツリポツリと話した。最初は話したくない気持ちもあったが、最初は話すのもたどたどしく、つっかえつつだったが、次第に言葉が溢れてきた。


 瑠璃と5年ほど付き合っていたこと。

 父さんと義母さんと和解出来たのは瑠璃の存在が大きかったこと。

 瑠璃の家は親も早く亡くしており、妹と2人で今まで頑張っていたこと。

 妹のほうも就職先も決まったこともあり、プロポーズをしようとしてたこと。

 瑠璃の妹と相談しつつ計画を練っていたら浮気と勘違いされたこと。

 家を飛び出して交通事故にあったこと。



 ──そして今。瑠璃のもとへ行こうとしたこと。




『父さんや義母さんに…わかってもらおうなんて思ってないよ』


 最後に吐き捨てた言葉に父さんは立ち上がり、また胸ぐらを掴んできた。


『俺が…最愛の人を亡くした気持ちがわからないと思うか?お前の母さん…佳穂を誰よりも愛していた!今でも愛している!なのに!俺にはわからないと思うのか斗真!!』


 その言葉にはっとした。父さんと俺は同じだった。考えなくてもわかることなのに。でも何故そう思ったのか。


『でも、父さんは死にたいとか思ったことないだろう!?現に生きてるじゃないか!俺は……もう生きる意味もわからないんだ!』


 もう瑠璃のいない世界で生きていたくもなかった。生きる気力もなかった。そばにいかせてほしい。

 そういう想いで言葉を叫んだ俺に父さんは思いっきり左頬をまた殴ってきた。


『しゃんとせぇ!!』



 親父に殴られた。今日2発目。殴られたのはそれこそあの瑠璃と出会った日ぶりだと頭の片隅で考える。


 今度は後ろにベッドがあったため吹っ飛ばされずに済んだ。


『俺が、どうして佳穂のあとを追わなかったか!!なんでわからない!!お前がいたからだ!!佳穂が命をかけて守って!残してくれた大切なお前がいたから!!俺はお前のために何がなんでも生きなきゃいけなかったんだ!!』


 その言葉に唖然とする。しかし何よりも驚いたのは父さんの目から涙が流れていることだった。

 生まれてこの方、父さんが泣いたのは見たことがない。

 それこそ、母さんが亡くなった時でさえ──



『瑠璃さんのことは、残念だった!それは本当にそう思う。だが!!こんなことをして瑠璃さんが喜ぶと思うか!!瑠璃さんが大切にしていたモノはなんだ!お前がそれを守らないでどうする!!』


 それを聞いてハッとした。

 瑠璃は自分よりも他人を優先するような子で、紫苑をとても大切にしていた。

 それこそ多分俺よりも。

 自分自身よりもずっと、ずっと。


 そう、瑠璃が望むわけないんだ。自分の後を追って欲しいなんて。

 むしろ自分の代わりに紫苑をお願い、とかいうだろう。


 どうして気づかなかったんだろう、瑠璃の想いに。


 それこそ長く付き合ってきたからすぐわかるはずなのに。


 涙が溢れてきて止まらなくなる。

 そんな俺をみて父さんは俺を抱きしめてきた。


『俺は…父さんは。お前の気持ちが誰よりもわかると思う。だが、お前のしようとしたことは間違っている。それは自己満足で瑠璃さんのためになんか何一つならない。瑠璃さんのためにもしゃんとしなさい』

『……っ……う、……うぁぁぁ!』


 いい歳して父さんの腕の中で子供のように泣いた。


 それからは、きちんと会社に出社して以前と変わらないような生活を送った。

 瑠璃がいないという違和感は拭えないが、それでもなんとか生活をしていた。


 瑠璃が何よりも大切にしていた紫苑が幸せになるのを見届けるまでは──


 その思いでただただ生きていた。


 紫苑はあの日、彼氏を紹介しようと思っていたようだ。その彼氏が今紫苑を支えてくれているようだった。

 ときおり様子を見に行っているうちに、だいぶ紫苑も持ち直しているようだった。


 3年くらい時間はかかったが。

 おそらく、紫苑も社会人になりバタバタしたことにより紛れらわすことが出来たのかもしれない。


 そしてまた、それから2年後。

 改まった様子で話があると言われて久しぶりに家に呼ばれた。

 家は瑠璃がいた時のままだった。感傷に浸ってると紫苑の彼氏もいることなら気がついた。


 そうしたら、結婚しようと思うと告げられた。


 心から祝福した。俺と瑠璃はできなかったけど、紫苑には瑠璃のためにも、瑠璃の分も幸せになってほしかった。

 もちろん、勝手に義兄さんぶっているのもあるが。

 紫苑には新しい家族を作ってほしいと思う。

 その彼氏もここ5年ほどの付き合いでまともないい奴だとわかっているから。


 さらにその1年後、結婚式が執り行われた。身内だけのものだったが俺も呼んでもらえたので参加した。瑠璃の遺影とともに。


 そのときに、紫苑に言われた。


『お姉ちゃんをいまだに思ってくれてるのは嬉しい。嬉しいんだけど、私、とーまさんにも、幸せになってほしいんだ』


 でも、俺は瑠璃がいないと何も感じない。瑠璃がいないと幸せになんてなれないんだとここ数年で痛感していたところだった。


 そしてときおり、瑠璃と昔雨宿りした公園にきていた。瑠璃が事故にあったところでもある。


 ベンチに座ってぼーっと子供達が遊んでいるところを眺めていると、そばの花壇に鈴蘭が咲いているのが視界に入った。


『私、鈴蘭が好きなんです。小さくて可愛くて』


 こんな時でも思い出すのは瑠璃の言葉。

 瑠璃が好きだと言っていた花。


(そういえば瑠璃はきっと、1番最初に会ったのは会社だと思っていたんだろうな)


 そんなことを思いつつもボコボコにされたカッコ悪い自分など、思い出して欲しくもないからこれからも言うつもりはなかったけれど。


 鈴蘭を見てから帰ろうかと公園をでたとき。


 ボールで遊んでいた子供が、公園の外に飛んでしまったボールを追いかけてでてきたのが見えた。


 子供は気づいているのかいないのか、車がこちらにきているが、前屈みになっている少年の姿は低い木が邪魔をしていて運転手からは見えていないようだ。


『危ない!!』


 思わず少年に向かって手を伸ばした。

 少年の腕を必死に掴み、車道から歩道へと引っ張ったが、その反動で俺の体は車道に残ったままだ。


 今までのことが走馬灯のように蘇る。


 あれから6年も経っているのに、やっぱり心を占めるのは瑠璃のことばかり。


 もう、瑠璃の心配していた紫苑は自分の足で立って幸せを掴み取った。

 それを見届けて、もう何のために生きて行けばいいのかわからくなっていた。

 母さんが命をかけて守ってくれた命だとわかっている。わかっているけど、それでも。


(これで、やっと瑠璃に会える)


 最後に思ったのはそんなことだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ガタンっと音が響き思考が現実に戻ってきた。

 馬車が止まったようだ。


「アレクシス殿下、到着しました」


 御者席に座らせていたルカに返事をしつつも、シェリルをみるとぐっすり眠っている。


 これから今回の事件のことで忙しくなるのは目に見えている。

 束の間の休息ということで馬車では2人きりにしてもらった。


 そっとシェリルを横抱きにしてしっかりと抱き直し、馬車からそっと降りる。


 ふと真夜中なのに明るいなと空を見上げ、思わず笑みが溢れた。


 もうこんな時間なのに満ち足りた気持ちで、この世の何よりも愛しい存在を腕に抱きながら、城に足を踏み入れた。



 今夜は満月だった──



読んでいただきありがとうございます。

もうあと少しで終わりますのでお付き合いいただけると幸いです。

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