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前世、妹と恋人に裏切られた悪役令嬢は恋愛なしの穏便な道を平凡に生きていくはずだったのですが...  作者: はな


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49、アレクシスの前世④




『あ、お、おかえりー..お姉ちゃん..…』

『る、瑠璃、早かったな!お、おかえり!お、お疲れ様!』


 紫苑の言葉にハッとして、プロポーズ計画のことも先ほどの会話からばれてないかなど、動揺しすぎてしどろもどろに言葉を発する。


 しかし瑠璃は目に涙をいっぱい貯めてこちらを睨んでいた。

 まさか計画がバレたかと焦りがくる一方で、そんな顔も可愛いと思う俺はどうしようもない。


『浮気するくらいなら別れてって言ったのに...。しかも相手が紫苑だなんて思ってもなかった...』

 


 ところが予想外の言葉が聞こえ、一瞬理解できない。しかし理解できても身に覚えがない。

 瑠璃の目からは涙が零れ落ちている。


『な!浮気とかなんのこと...』

『ここ最近よく2人でこそこそ内緒話してるし、この間見たのよ、ホテルに2人で入っていくの...』

『ホテル?なんのこと...はっまさか...!』

『お姉ちゃん!違うよ!そんなんじゃなくて!』



 プロポーズ計画の進捗確認とかで、時折紫苑に確認されていた。ディナーのために夜景がきれいなホテルへ下見のため行ったが、それには紫苑も同行したことを思い出した。


 下見に同行したのはこれが唯一。たしかに今の瑠璃が見たものだけで判断するなら俺は浮気をしていると思われてもおかしくないかもしれない。


『もういい。裏切るような人たちなんて...…さようなら』


 その言葉を最後に瑠璃は家を飛び出してしまった。俺も紫苑も動揺と混乱からすぐに今の出来事が理解できなかった。

 少し呆然としてしまったが、雨が窓に叩きつけられる音ですぐに我に返った。


 紫苑にはこの雨だと風邪をひくかもしれないので、瑠璃が戻ってきたときにすぐあったまれるようにお風呂の準備を言いつけ、すぐさま追いかけた。


 俺が紫苑と浮気?ありえない。紫苑も同じことを言うだろう。俺はこんなにも瑠璃だけを愛してるのに。

 良かれと思った行動がこんな形で裏目にでるなんて。


 雨の中、走って瑠璃を探していると、昔瑠璃と雨宿りした東屋がある公園のところまで来たことに気づいた。

 思わず立ち止まりはずむ息を整えていたが、自分がいる公園の反対側に、雨でびしょ濡れになって下を向いてふらふら歩いている瑠璃を見つけた。


『ーー瑠璃っ!!』


 思わず名前を呼び、駆け寄ろうとした。瑠璃はびくっと体を揺らし振り返ったが、俺の姿を確認すると後ずさってしまった。

 それでも必死でひとまず誤解をとかなくてはならないと駆け寄ろうとする。


『こっちに来ないで!!』


 瑠璃の今まで聞いたこともない拒絶の言葉に足が一瞬止まってしまう。


 しかしその一瞬で瑠璃はまだ信号が赤にも関わらず横断歩道に飛び出した。瑠璃は背を向けていたことと、激しい雨音で気づかなかったのか、トラックがこちらに向かってきていた。

 慌てて名前を呼び、瑠璃を助けようと手を伸ばすも、距離があったので届くはずもなく。トラックの急ブレーキの音とと、ドンっという音が響き渡る。


 瑠璃は俺の目の前でトラックにはねられた。


 今目の前で起こったことも理解できず、咄嗟に横たわっている瑠璃に駆け寄り声をかけ抱き起す。瑠璃はピクリとも動かない。激しい雨に赤い色が混じっている。

 だんだんと自分の感情が追い付かないまま、頭はこの状況を理解してくる。


『うわあああああああああーー!!!!』





 びしょびしょで血まみれの瑠璃をだきしめた。その後、どうやって帰ったのか、何がどうなったのか覚えていない。


 気づいたらもう瑠璃のお葬式だった。


 ふと見ると紫苑もごっそり表情が抜け落ちた顔で挨拶に来る人に頭を下げている。親戚ももういないため、瑠璃の友人や会社の人だけでとても小規模だった。最後にふらっと紫苑に近づき、紫苑も俺に気づいた。


『とーまさん…来てくれて、ありがとうございます』

『……当たり前だろう。俺の…大切な人なんだから…』


 天涯孤独となった紫苑に、数人の参列客は事情を知っている者も多く、沈痛な面持ちをして見ている。

 思考が回らず、絶望していた俺は自分が夢の中にでもいるんじゃないかという心地で事実だけを口にした。


 茫然とただただ立っていると、しばらくして瑠璃が火葬場に運ばれることとなった。



 火葬場に到着するも、最後に瑠璃の顔をみてあげてくださいと案内の人に促される。火葬場まで来たのは俺と紫苑だけ。


『瑠璃…』


 別れの挨拶なんてできなかった。

 名前を呼ぶことしかできなかった。


 事故にあったが、体の損傷はひどくとも奇跡的に顔は比較的損傷も少なく。ただ眠っているようにしかみえなかった。

 これは夢なのではないかと思うくらいで。


『お姉ちゃん…こんな妹で、ごめんね…今まで、あ、あ、あり…が、とう……ずっと…ずっとずっと…大好き…だよ』


 紫苑は泣きそうになりながらも頑張って言葉を述べている。何も言えない俺なんかより、10歳も年下なのに、よっぽど大人だ。

 そんなことを考えながらも現実を受け止められず、どこか他人事のように眺めてしまう。


『それでは、時間です』


 蓋をされ、棺桶ごと火にくべられようとしたとき。


『──っ!やめて!お姉ちゃんを燃やさないで!!お願い!!お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!』


 ずっと葬式の間中、泣くのを我慢していた紫苑が棺桶に縋り付いて離れず、泣き叫んでいる。


 係りの人が困ってこちらをみるも、その光景をみて急に現実に引き戻された感覚で、気づけば俺の目からも涙が零れ落ちていた。


『わ、私のせいで、お、お姉ちゃんに、勘違いさせちゃった!!!これから…これから!幸せになってほしかったのに!!!私のせいで、ずっと、ずっとずっと!!やりたいことも出来ずに我慢していたのに!!これからだったのに!!とーまさんが幸せにしてくれるはずだったのに!!!私のせいで……!!私の……せいで……!』


 先日のすれ違いは紫苑のせいではなく、俺がプロポーズ計画に浮足立って、何も知らない瑠璃が何を感じるのか、考えが及ばなかった俺のせいだ。


 泣き叫び、棺桶にしがみついている紫苑に近づいた。


『違う、違うよ紫苑。俺の…俺のせいで…俺が、不甲斐ないばかりに…』


 一度涙が零れると、もう止まらなかった。紫苑と一緒に泣きじゃくり係の人を困らせた。


 少ししてからしぶしぶ棺桶から2人で離れた。

 係りの人がほかの応援を呼んできて引きはがされたともいう。



 お葬式も終わり、夜、家に帰ってきたが何も手につかずただただぼーっとしていた。


 明日からはまた会社に行かなくてはならない。頭ではわかっているが、何もする気が起きない。


 スマホが鳴り、弟からの電話だったがでれなかった。出る気もなかったが正しいけど。


 ただただぼーっと一人暮らしの家のベッドに腰掛けていたら、気がつけば日が登っていた。


 会社に行く気にもならなかった。ある程度溜まっていた有休を使うことにしようと、しばらく体調不良だとか適当に理由をつけて休むことを上司に連絡してスマホをほおった。


 ベッドに寝転がり、天井をみつめる。


 しばらくそうしていた。お腹は空かないが喉は乾くためたまに水を飲み、トイレに行きたくなったらトイレにも行って。


 最低限の生活はしていたと思う。


 そうして何日過ぎたのか──


 この部屋には瑠璃の痕跡が多くある。誕生日にもらった写真立て。もちろん飾っている写真は瑠璃とのツーショット。

 ハンカチやネクタイ、一緒に行った旅行先の神社で買ったお守り。

 何回かもらった手紙。今どき手紙っていうのも珍しいけど、親からよく手紙をもらっていたとか。

 手紙を何度も読み返した。誕生日おめでとうという内容や、日頃の感謝をこめた手紙など数十枚。


 瑠璃の痕跡はたくさんあるのに、瑠璃はいない。そしてだんだんと実感していく。


 瑠璃は死んだ。死んだんだ──


 もうここで生きていける気がしなかった。全てがどうでもよくなった。


 ──そうだ、瑠璃のところにいこう


 そう思うとすっと身体から力が抜けて楽になった。 



読んでくださりありがとうございます。

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