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5,カフェへ行くだけのはずが


 次の日、お出かけ用のワンピースに着替えて玄関ホールまで行くと、すでにアスターが待っていた。


「お姉様!!」


 アスターは私に気づくと嬉しくてたまらないといった顔で駆け寄ってきた。人懐っこい犬を彷彿とさせられる。


「お姉様、とても...とても綺麗です!!」


 祈るように両手を組み、頬を赤くして目をキラキラさせている。


 今日は髪はおろしており、若草色のワンピースを着ている。そこまで感激するほどではないと思うのだけど。


「アスターも似合っていて可愛いわ。」


 にこっと微笑みながら、素直に思ったことを伝える。実際に淡い黄色のワンピースにセットなのか同じ色のリボンがついたカチューシャはよく似合っている。


「ありがとうございます!でも、私なんてどうでもいいのです!!」

「いや、そんなこと...」

「今日のお出かけが楽しみで昨日なかなか寝付けなかったんです!行きましょう!!」


 本当に楽しみにしていたみたいで、アスターはスキップをしながら馬車へと向かった。

 サラとマーサと馬車に乗り込み、護衛騎士数人とともに街へ行った。

 

 まだ朝食後なのでお腹は空いていないため、お昼にカフェに行くことにし、それまではいろいろとお店を巡ることになった。

 可愛い雑貨屋さんや服屋さんをみつつ、欲しいものがあればお買い物をしているとあっという間にお昼になったため、話題のカフェに行くことになった。

 

 カフェでは季節ごとに、その季節にあった期間限定のケーキや紅茶があり、今は苺のようだ。

 あまり量は食べれないので、サンドイッチは少なめにしてもらい、デザートに私は苺のショートケーキ、アスターは苺のタルトを食べる。

 紅茶も苺のお菓子によくあう、あっさりとしつつも芳醇な苺の香りでとても美味しかった。


 カフェも満喫して、大満足だった。有名なお菓子屋さんで使用人たちにお土産を買ってから帰るため、お菓子屋さんに向かった。



「お花いりませんか?」


 途中で小さな女の子が花を売っていた。籠の中に前世から好きだったスズランをみつけ、こんな歳から働いていて偉いなと思ったのもあり、買うことにした。


「1つもらおうかしら。おいくら?」

「銅貨1枚です!」

「じゃあこれを。もう働いていて、偉いのね」

「...お母さんが、いなくなっちゃって...お母さんがしてた仕事を変わりにしてるの」

「え?お母さんがいなくなってしまったの?」

「そうなの...1週間前に...。お父さんも私も探してるんだけど見つからなくて。今日もお仕事終わったら探しに行くの...」


 まだ敬語も中途半端にしか使えず、見様見真似で花売りをしていることがうかがえる。

 行方不明なのか。それは大変なことではないのか。

 そしてどうやら、籠の花がなくならないと仕事も終わらないらしい。


「そういうことなら、そのお花全部買うわ」

「え!そんな!....いいんですか?」

「探すのは手伝ってあげられないから申し訳ないけど...」

「ううん!ありがとうお姉ちゃん!」


 満面の笑顔でお礼を言うと、花を渡して走り去っていった。

 

 それを見送って、鈴蘭を一つだけ手に持ち、花を馬車に乗せておくようにサラに頼み、街の様子を眺める。


 人攫いか、自らでていってのか。それはわからないが、子供の自分にはどうすることもできない。


 アスターが少し先で「お姉様ー!こちらです!!」と叫んで手を振っているので、そちらに向かおうと足をむけたとき、通りかかった路地裏の方から言い争う声が聞こえた。


 ふいに見てみると、茶髪の同い年くらいの男の子が、抵抗しているが連れ去られそうになっているのが見え、建物の影に消えた。


(大変っ!!)


 咄嗟に体が動き、追いかける。護衛騎士もいるため誰かは後を追ってきてくれることを信じて、とにかく追いかける。


 一瞬見失うも、争う物音が聞こえてその方に向かって走ると、先ほどの男の子のだろう声が聞こえた。


「放せ!!こんなことをしてただですむと思っているのか!」

「さぁ、どうなるんだろうなぁ。どうにかなる前にお前をどうにかしなきゃな。いいかげん、大人しくしろ!」

「うっ」


 追いつきもの影から様子を覗き見ると、男の子がいかつい大男に殴られたところだった。

 男の子は殴られた拍子に、ふっとび地面に倒れ込んだ。大男が追い討ちをかけようと近寄ろうとしたところで、とっさに大声をだした。


「騎士様!こっちです!男の子が攫われそうになってます!」


「ちっ」


 大男は声を聞いてぴたっと動きを止め、舌打ちをして急いで去って行った。


 急いで男の子に駆け寄り、大丈夫か声をかけた。

 顔を覗き込んでみると、殴られたからか口の端が腫れており、切れて血が出ている。急いでハンカチを当てて血をふく。


 幸い、全体的に土や泥がついて汚れているが怪我はそこだけのようだ。


 何も言わず動かないことを不思議に思い顔をみると、男の子は茶色い目を大きく見開いてこちらを見ていた。






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