47、アレクシスの前世②
次の日、また河川敷に行ったら会えるかもしれないと思い向かっていると、雨が降ってきた。そのため近くの公園にあった東屋に避難した。
通り雨のようだから様子を見ていたら、こちらに走ってくる人影がみえた。
それがまさかの昨日の少女だった。手で頭を覆い、足元を見ながらも必死に走ってきた。東屋に到着して前を向いた時、目があった。
ビクッと肩がはねた。
そんなにびっくりするかとふっと笑ったら、笑われたことがわかったのか、赤い顔になって言い訳をする。
『人がいるのに気づかなかったんです...』
そんなところも可愛くみえる。
(ん?可愛い?……まぁ子供だしな)
『...昨日、お家に帰って…大丈夫でしたか?』
『...ああ。まぁめちゃくちゃ怒られて泣かれたけど。...親と腹を割って話せたよ。君がアドバイスしてくれたおかげだ。ありがとう』
『そ、そんな!私は思ったことを言っただけだから!…でもいい方にいったならよかったです!』
少女は花が咲いたような、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに言った。
ひとまず、お礼が言えたことにホッとする。それからポツリポツリと話すうちに雨が止み、別れた。
昨日、今日は本当に偶然会ったみたいで、ランドセルの名札に『わたせ るり』と書かれたのを見たのを最後に会うことはなかった。
この出来事から、いろいろとスッキリとした心地で、高校生らしく、部活はしていなかったため勉強に力をいれた。
親にだいぶ心配をかけていたこともわかったので、安心して欲しかったのもある。
2年頑張ったおかげか、俺が通っていた高校では初の難関大学にも合格し、順風満帆な大学生活を送った。
彼女も出来たことがあったが、どうしても触れたいとも思えなかった。手を繋いでもなんだかゾワゾワした違和感があり、失礼かもとは思いつつもそれ以上は何も出来なかった。そして振られることが何度かあり、俺には恋愛は無理だなと諦めた。
自分は実は同性愛者なのではと思ってしまうくらいには無理だと感じる。同性愛者に偏見はないが、自分がそうだとは思っていなかったから少し悩んだりもしたのはいい思い出だ。
そして結局その後、本当は興味もなく、ただ面倒くささしか感じなかったから彼女も作らなかった。
ときおり、あの少女のことを思い出し、元気かなと思うくらいになっていた。
そんななかで大手の商社に就職できた。4年目になるとき、短大卒業の新入社員で営業補佐をしてくれるらしい、化粧気はないが綺麗な女の子が俺の部署に配属された。
最初は見たことある気がする、と思っている程度だったが、自己紹介のとき名前を聞いて引っかかった。すぐには思い出せなかったが、ふとした瞬間にあのときの子だと思い出した。
それから以前にも増して気にかけるようになった。
何事にも一生懸命頑張っているところをみると、俺も頑張らないとな、と思う。
最初は思い出の子だからと思っていたが、だんだんと無意識に姿を探してしまったり、美味しいものを食べればあの子も好きかなと考えたりするようになっていった。
そんな時、たまたま帰りが同じ時間だったのか、帰ろうとしたところで瑠璃が男性社員に話しかけられているところを目撃した。
瑠璃は見た目もよく、分け隔てなく人と接して、何事にも一生懸命なところから男性社員にも人気があることはなんとなくわかっていた。
それもなんとなくもやもやしていたが、実際目の当たりにすると、黒い感情が湧き上がってくる。
『渡瀬、話中のところすまないが、少し仕事の話でいいか』
困っていそうだったのもあり、その黒い感情を隠して思わず声をかけた。
すると、困惑しつつも少しホッとした顔をした瑠璃に甘い気持ちが胸に広がる。
のちに考えるとあれは好きだったから嫉妬したのだとわかるのだが、この時はまだ鈍い俺はわかっていなかった。
とくに用はなかったが、ひとまず連れていってやり過ごす。
『あの、城田さん、仕事の話って……』
『いや、本当は用事なんてないんだ。ただ少し困っているように見えたから……』
困っているように見えたのは気のせいだったら、とふと思い、早まってしまったかと少し焦る。
『あ、そうだったんですか。気にかけてくださりありがとうございます。少し困っていたので助かりました』
『……よく、あるのか?』
『そ、うですね…。よく、お食事に誘っていただいたりはするのですが…家で家族が料理を作って待っているので、お断りすることが多くて…。せっかく誘っていただくのに、毎回とても申し訳ないのですが……』
会社などの参加必須と思われる飲み会などは大丈夫だそうだが、いきなりは厳しいそうだ。さっきは断ったのにそれでもと食い下がってきたため困っていたそう。
それはアプローチされているんだよ、と気付かせてあげた方がいいのか。それとも。
悩みつつもそのあとは駅まで送ってから別れた。
帰り道、ふと通りかかったアクセサリーショップのウィンドウにシンプルな指輪があった。瑠璃に似合いそうだなと思っていたら、気づいたら買ってしまっていた。
男避けにいいかと思い、次の日の朝、呼び出して指輪をあげた。
瑠璃は目をぱちぱちさせていた。そんな顔も可愛いなと思いつつ、彼氏でもないのにいきなり指輪をあげるのはいかがなものか、とはっと我に返った。
『…これ、家にたまたまあったんだけど、急なお誘いが減るおまじないがあるって聞いたから。ここにつけとけ』
『あ、ありがとう、ございます…』
そう言って右手の薬指につけてあげた。さすがに左にはつけれなかった。サイズは瑠璃の指を思い出して勘
その時にはもう流石に自分の気持ちには気づいていた。なんで姿を探してしまうのか。なんで他の男が声をかけているともやもやするのか。
でも、困ってるところをみたことから自分のことでも困らせるわけにはいかないとも思った。
それからは誘いも減ったようで安心していたのだが。
たまたまトイレからでた時、隣の女子トイレから何やら俺の名前がでている会話をしている声が聞こえた。
流石に女子トイレの前で待つのは気が引けて迷っていると、俺が構うのは面倒見がいいだけだとかなんとか言っている声が聞こえてくる。
なんのことだと思っていると、瑠璃の声が聞こえてくる。
『わかっています。…申し訳ないのですが、呼ばれてますので、失礼します』
出てくるとわかり、慌ててすぐその場を後にする。
俺のせいで、と思いつつもその件もあったことでより気にかけてしまう。
そして何の腹いせか仕事を押し付けられていることもあった。
逆効果になるかもとは思いつつも、いつも定時で帰っているから、何かあるのだろうと思い手伝ったことも何度かある。
そんなこんなをしていたら、たまに帰り時間がかぶったときに一緒に駅に向かう道中で、だんだんと仕事の話以外もするようになっていった。
ある日の駅までの帰り道で、両親はもう亡くなっていて妹と二人暮らしをしていること、祖母も4年前までいたが亡くなったと話してくれた。
身内のことを話してくれるまで気を許してくれてることが嬉しい反面、苦労してきたことを心苦しく思う。
『それは…大変だな』
そんなありきたりな言葉しか出てこなかった。
心身ともに余裕がないことで今までアプローチされても、そんなこと頭にないから気づかないのかもと思った。
『両親が亡くなったのは5年生の頃、祖母がなくなったのも4年前なので、もう今の生活には慣れました。あとは妹が無事大学を卒業して就職してくれれば安心なんですけど』
なんで一生懸命働いているのか、昔の河川敷でのあの言葉は両親がなくなったことが起因しており、大人びていたのも、妹をしっかりと育てなければと何もかも背負い込んでいたからだと納得した。
そのとき強く俺がこの子を支えたい、頼ってほしい、助けたいと思った。
その衝動のまま思わず手を握り、人が少ない方へ手を引いていった。
今まで告白は何度かされたことがあるが、自分から告白なんてしたことがない。心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うくらい、緊張からかバクバクと脈打っている。
繋いだ手は汗をかいているかもしれない。
そんなことを思いつつも、溢れ出した気持ちを伝えずにはいられなかった。
『いきなりで驚くかもしれないけど、俺は渡瀬が好きだ。俺にお前を支えさせてほしい。俺と付き合ってくれないか』
『え…?』
『今はすぐに返事しなくていい。ただ、俺がそう思っているって知って欲しかった』
『わ、わかり...ました』
びっくりして頬を赤く染めた顔は可愛かったが、返事はまだいらない。気持ちを知ってほしいなどと逃げの言葉を言ってしまった自分に内心呆れる。
それでもずっと伝えたくても伝えられなかった気持ちを伝えられて、清々しい気持ちもあった。
読んでいただきありがとうございます。




