42、本当の黒幕は
「本当にこんなことをしてよかったのでしょうか…?」
「しょうがないだろう。これも女神様の思し召しだ。こうなることもこの方の運命だったのだろう」
「でも…」
「くどい。そう何度もいわせるな。これが初めてでもあるまいに」
「こんな高位な身分の方は初めて…」
「えーい、うるさいぞ!少し黙っていろ!」
細身の若い男と中肉中背の中年の男が話しているところで目を覚ます。
部屋に引きづりこまれたとき、眠り薬もかがされたのか、それ以降の記憶がない。
今はベッドに寝かされていたようで、服装は変わっていない。体だけ縛られて猿轡をはめられ、魔力封じの手錠をされている状況だ。
見たことがない部屋だが、埃っぽさはない。可愛らしい部屋で妙に小綺麗である。
外は暗く、部屋は蝋燭が一つ灯されていて薄暗い。
動いてしまったせいで手錠のこすれる音ががちゃっとこの小さな部屋に響き渡る。
「ん?…気が付いたか」
「……」
中年の男のほうが気が付き、こちらを振り返る。
猿轡のせいで何も話すことができなかったため、にらみつけるだけにとどめる。
「ハーディング公爵令嬢、お久しぶりですね。ポイズナーです。あなたの魔力鑑定をさせていただきました。覚えていらっしゃいますでしょうか」
「……」
「…おい、猿轡を外して差し上げろ。何も話せないではないか」
そこにいたのはポイズナー大司教だった。
ポイズナー大司教が若い男に指示をだすと、失礼しますとぺこぺこしながら猿轡を外してくれる。
「…ここに連れてきて、どうするつもりかしら」
「…ここはドレージュ公爵の別邸です。今後はここでドレージュ公爵と幸せに暮らしてください」
「なぜ、ドレージュ公爵…?私はアレクシス王太子殿下の婚約者。お断りするわ」
「まだ、婚約者、でしょう?妻ではない。それに、貴方様の気持ちはどうでもいいのです。これは女神様の思し召しですよ」
ポイズナー大司教はニヤリと下卑いた顔で笑う。
「どういうことかしら」
「今、教会は資金難でしてね。貴方様を献上すれば毎年城1つは買える金額を寄付してくださるとのことなのですよ。…まあ、もともと寄付金はか公爵家からは多めにいただいているのですが…」
「そんなことのために…」
「……貴方様はお金で苦労したことがないから、そんなことが言えるのですよ」
吐き捨てるように言ったその言葉には、恨みを込めたようなそんな言い方だった。
「…いままで市井の人たちが行方不明になっていたのも、あなたたちがお金欲しさに誘拐していたのね?」
「そこまでご存じでしたか」
「何故、そんなことを…」
「…特別に、はなむけとして教えて差し上げましょう。昔は…」
そしてポイズナー大司教は語った。
一昔前、教会は聖魔法で魔物を討伐する依頼が頻繁に入っていたため、資金不足になることもなかった。しかし、100年ほど前から魔物の数も減りはじめ、それと比例してだんだんと依頼も減り、収入が減っていった。
そして国では禁止されている人身売買に手を染めたそうだ。教会は孤児院が併設されているところが多く、やりやすかったからだ。
最初は孤児院から見繕っていたが、魔力が多いほうが高く売れることがわかり、次第に市井の人たちにも手を出していったそうだ。
そして5年前、シェリルが魔力鑑定をするとき、城が3つほど買えるくらいハーディング公爵が寄付をしたことでしばらく資金の問題はなくなった。
ちょうど王太子も誘拐されかけたとかで見回りなどが厳しくなったので、しばらく様子をみていたのだが。
資金は不思議とすぐになくなるもので、またひとまず孤児院から商品を見繕うことになった。
しかし、ここにきてシェリルがしていた慈善活動が邪魔になってきたらしい。
そして教会派の貴族からはヴァネッサを王太子妃にするため、シェリルが邪魔だとよく聞いていた。
そこにドレージュ公爵からの依頼がはいったとのことだった。
「…理由はわかったけど。リスクが大きすぎるわ」
「まあ、見返りを考慮するとリスクは大きくなるものです。貴方様は世間的には亡くなったことにさせていただきますので、ご安心ください」
そう言ってポイズナー大司教はにっこり笑う。
「…前は失敗してしまいましたが、もう失敗しないでしょう」
「…前?」
「おっとうっかり…。まあ、いいでしょう。特別サービスです。ご自身のお母様のことですからね」
「え?」
ポイズナー司祭は嬉しそうに話しはじめる。
「ドレージュ公爵のお話なのですが。貴方のお母様であるアシュリー様に、若いころ一目ぼれをしたそうです。手に入れようにもすでにハーディング公爵と恋仲であり、現国王陛下やハーディング公爵のお兄様に阻まれて間に入ることは叶わなかったそうで。もたもたしているうちに人妻になり子供までできた。ご自身も政略結婚の相手と結婚して子供も出来たのに諦めきれなかったらしく、教会の懺悔室にきて話していました。そんな話を聞いた私は彼の力になることにしたのです。寄付金もはずむとのことだったので。そこで能無しと言われている者は魔力暴走を起こして跡形もなくいなくなる事から、事故を装って誘拐することを提案したら、すぐに行動に移していましたね。まあ、結果はうまくいかず、本当に魔力暴走が起きてしまいアシュリー様は亡くなられましたが…」
「そ、れは…」
「そして…今回はアシュリー様によく似たシェリル様に目をつけられたみたいですね。たしかに、成長するにつれて似てきていらっしゃる」
「それは…」
「いまだに想い続けているなんて、純愛ですね……。それにしても本当に美しく……」
そういってまじまじと見つめてきたポイズナー大司教は、はたと固まると近づいてきた。
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