39、一方通行の
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(なんでオーウェン先生がここに…)
「…っ放しなさい!無礼者!私を誰だと思っているの!!」
オーウェン先生は小脇にまるで丸太を抱えているかのように、土の枷で腕と胴体を固定されたヴァネッサを抱えている。
一瞬ぽかんとしてしまうも、すぐ我に返り現状を確認する。
吹き飛ばされた外套集団は、おそらくオーウェン先生の魔法で生み出された木の枝や弦によって拘束されている。
そして最初に倒れた一人は倒れた場所から動いていない。
「……あの、オーウェン、先生…どうして、ドレージュ公爵令嬢を抱えて…」
「あぁ、君を探していたところに木陰から覗き込んでいる不審者がいたから、拘束してみたんだけど…それがこれだったんだよね」
あっけらかんとそういい、いまだ喚いているヴァネッサをほいっと芝生の上に落とした。
「きゃっ!痛!お、前!!こんなことをしてタダで済むと…」
尚も真っ赤な顔で怒り喚いているヴァネッサをとても煩わしそうに顔をしかめて片耳を塞いで見ている。
「うるさっ…あんたが放せっていったんじゃん…」
いつのまにかいつものオーウェン先生の雰囲気に戻っていることに少しほっとする。
ふいにいきなり静かになったヴァネッサに目を向ける。
すると憎悪をふんだんに含んだ碧眼の瞳と視線が絡んだ。
「……っ」
今まで生きてきた中でも見たことがないほど冷え切った眼差しに、心臓が跳ねる。
ヴァネッサの表情や視線からは強い怒りが感じられ、ぞくりと鳥肌が立った。
こんなに怒りを向けられたことは前世も今世もないと思う。
「アレクシス殿下に愛想をつかされた悪女が。まだ婚約者の座にしがみついてみっともない。いい加減に彼を解放しなさいよ」
「……アレク様は私のことを望んで婚約者にしてくれたの。しがみついているわけじゃ「そんなのお前の勝手な妄想よ!アレクシス様を誘惑でもしたんでしょう!?」
話そうとしたら遮られてしまい話せない。
一応外套の集団と関係があるのか確認しようと声をかける。
「この人たちは「悪女のくせに、私からアレクシス様も王太子妃の座も奪ってさぞ気分が良いでしょうね」
「え?そんなこと……」
「じゃあ何? 私のことを馬鹿な女だと嘲笑っているわけ?いつもみんなの前では良い子ぶって…そういうところが本当に気持ちが悪いのよ!」
何を言っても聞く耳を持とうとしないのは幼い頃から変わらないらしい。
そもそも関わらないようにしていたから、こんなに恨まれるほど交流もなかったはずなのに。
アレク様を呼んできたほうがいいかもしれない。会話を諦めて一度会場に戻ろうと背を向ける。
そうして早足に会場へと戻ろうとした時だった。
「逃げる気!?返しなさいよ!!全部、私のものだったのに!!ずっとアレクシス様が好きだったのに……!」
「……っ」
「ずっとアレクシス様の妃になるんだって!血の滲むような努力をしてきたのに!!それをポッとでの見た目しか取り柄のないお前なんかに奪われてたまるもんですか!!」
背中越しに聞こえたヴァネッサの叫びが静かな庭園にこだまする。
思わず振り返った先にいた彼女は俯き「こんなの間違ってる」「こんなのおかしい」と繰り返している。
声を掛けることも躊躇われ、胸の前で両手を握りしめる。
アスターはそんな私に寄り添い、ヴァネッサを睨みつけている。
するとピタッと静かになったかと思えば温度のない目で私を見つめる。
「……お前なんて、死んでしまえばいいのに」
そうヴァネッサが低い声で呟いたとき。
「──それはシェリルに対する脅迫か?」
アレク様の声が静かな庭園によく響いた。
いつも綺麗だと思う黄金色の瞳は氷のように冷え切っていて、鋭くヴァネッサを見据えている。
「ア、レクシス、様…?」
「いや、そもそも殺人未遂の容疑があるな」
ヴァネッサは拘束されたまま膝を芝生につけた状態でアレク様を驚愕の表情で見上げている。
「な、ぜ、ここに…」
「もちろん、愛する婚約者を守るためだよ。ひっかかってくれて助かったよ」
アレク様は騎士を引き連れていた。その騎士たちがオーウェン先生の魔法で拘束されている者たちを捕縛するため動き出す。
アレク様はその様子を確認すると、私のほうへまっすぐ向かってくる。
先ほどの冷え切った表情が嘘のように、心配そうな表情をして私に怪我がないか全身確かめ始める。 確認を終えるとほっとしたのかぎゅうっと抱きしめてくる。
「アレク様。怪我もなにもありませんよ」
「確認しないことには安心できなくて。シェリーに何かあったと思うだけでも…」
魔力封じの手枷も追加されて、拘束されたまま立たされたヴァネッサはその様子を呆然とみてつぶやいた。
「なんで……」
ぽつりと零れた言葉だったが、不思議と響いて聞こえた。
「なんで、なんで、なんで!!嫌!嫌よ!!アレクシス様!私の旦那様になってくれるのでしょう?私をあなたの1番に…王太子妃に!そしていつかは王妃になって一緒にいてくれるって…!!」
騎士たちに拘束されつつもヴァネッサは暴れ、涙ながらにアレク様に訴えかける。
なぜヴァネッサがここまで見当違いのことを信じているのか不思議に思う。私でもヴァネッサに対するアレク様はひどく塩対応であったと感じていた。勘違い、というにはいささか不自然さを感じる。
私をかばうように前にでたアレク様は、無表情にヴァネッサを見据える。
「私がお前を好きになることはない。これまでもこれからも、何があっても俺が愛するのはシェリルだけだ」
そう言ってアレク様は私のことを抱き寄せた。
それを見たヴァネッサの両目からは、大粒の涙がはらはらと零れていく。
「…う、うああ…あああ…っ」
ヴァネッサは子どものように泣き、彼女の声だけが夜の庭園に響き渡る。
最初はただ好きな人に振り向いてほしかっただけなのかもしれない。
小さな嫉妬だったのかもしれない。
でも、一線を超えてしまった。
──私も前世、一歩間違っていればこうなっていたかもしれない。
私は騎士たちに連れていかれる彼女の姿を、最後まで見送った。
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