???視点
誰かはわかると思いますが…
『お前は王太子妃に、ひいては王妃になるんだ。だから一層勉強も何もかも完璧にこなすんだ』
『はい。お父様』
そう言うしかなかった。
それ以外に──お父様に認められる方法を、私は知らなかったから。
物心つく前からマナーや教養を叩き込まれ、必死に覚えていった。
努力をしなければ何も身につかない私は、本当に努力を重ねた。
そして、実際に一目見たほうがいいだろうとお父様に連れていかれた王宮で、アレクシス王子に初めて会った時、身体に電撃が走った。
キラキラと輝く綺麗な金髪と黄金色の瞳、白磁のように白い肌。
この世の言葉では言い表せないほど、美しいと感じさせる容姿。
その王子に目が釘付けになり、動けなくなった。 お父様がアレクシス王子と話している。
まだ幼いはずの声さえ綺麗だった。
『こちら私の娘です。どうぞお見知りおきを』
『よ、よろしくお願いいたします…!!』
お父様の声で慌てて我に返り、挨拶をした。
緊張してしまったが、うまく挨拶できただろうか。
『あぁ、よろしく。アレクシスだ』
にこやかに微笑んではいるものの、どこか素っ気ない返答だった。
しかしそんなことは気にならなかった。
私を見て話してくれている、それだけで頭がいっぱいだった。
(私は、この方と結婚するわ……!!)
それからは、お父様が王宮に行くたびについて行き、アレクシス様を探して話しかけた。
少しでも可愛いと思ってもらいたくて、ドレスも吟味し、化粧も努力した。
それでも、いつもどこか素っ気なくあしらわれている気がした。
私の努力が足りないのかもしれない。
勉強もおしゃれも、どんな努力でもアレクシス様のためなら頑張れた。
そんなある日、家に来ていた貴族が話しているのを盗み聞きしてしまった。
『ハーディング公爵令嬢はとても素晴らしいと聞いた。なんでも一度ですべてを覚え、一を説明すれば十を理解するのだとか。そして第一王子の婚約者にと国王陛下も望んでいるそうだ』
(……一度ですべてを記憶する? 第一王子の婚約者に……?)
第一王子が次期王太子、次期国王になるだろうことはお父様から聞いていた。
私はその王子様と結婚するのだと信じていた。
『シェリル・ハーディングか……』
『今は亡きハーディング公爵夫人に似ていて、まだ幼いが美しくなりそうだと。あの厳しいことで有名なザマス伯爵夫人などの家庭教師たちからは称賛の嵐だそうだ』
『ハーディング公爵家とは、また厄介な……』
そんな話をしながら、お父様たちは去っていった。
(シェリル・ハーディング……その女が私の場所を奪おうとしているの……?)
そんなの許さない。
あの方の隣は私のもの。
それは、ずっと前から決まっているの。
そんなときに催されたアレクシス様の10歳の誕生日パーティー。
アレクシス様は遅れてくるというので、シェリルの情報を集めた上で会場内を探した。
すると周囲の人々がある一か所を見つめていた。
頬を赤くして熱い視線を送る者もいれば、話しかけるタイミングを伺うようにうろうろしている者もいる。
そちらに家門の分家の娘たちと向かい、ハーディング公爵令嬢を初めて見ることができた。
プラチナブロンドの髪は風に揺れて輝き、ハーディング公爵家に受け継がれるとされる桃色の大きな瞳は長い銀色のまつ毛に縁どられている。
少し釣り目がちだが、どこか儚さのにじむ容姿だった。
……綺麗だと思った。
認めたくないのに、目を逸らせなかった。
だからこそ──気に入らなかった。
親切心で「私がいるから大それたことは考えないように」と教えてあげたのに、最初は逃げようとしたくせに、最後にはこの私に言い返してくるなんて。
頭にきてジュースをかけてしまったが、アレクシス様はその場にいなかったから、バレてないと思った。
しかし、どこで話を聞いたのか、アレクシス様には知られており、苦言を呈された。
私は、間違っていない。
だって──あの女が、先に私の場所に入り込んできたのだから。
これは何かの間違いだ。
帰宅後、お父様に怒られた。
するならばれないようにやれ、と。
そうか、ばれなければいいのか──そのときはそう思った。
私はあの方のために血のにじむような努力を続けてきた。
それを、ぽっと出のあの女が邪魔するのは絶対に許さない。
あの女は私をあざ笑っているのかもしれない。
……あんな女に、負けるはずがない。
しかし、私の決意とは裏腹に、アレクシス様の婚約者にあの女が決まった。
あんな女よりも私の方がふさわしいのに。
こんなの間違っている。
性格の悪い、見た目しか取り柄のない女の何がいいのか。
婚約披露会でも、どうやったのかアレクシス様を味方につけて、またしても言い負かされた。
アレクシス様はあの女に洗脳されているのかもしれない。
しかもその会のあと、アレクシス様があの女にご執心だという噂が流れているようだ。
それもあの女が流したに違いない。
どこまでも性格の悪い女だ。
アレクシス様は騙されているのだ。
──あの悪女に。
私が、アレクシス様をあの悪女から助けてあげなくちゃ。
その後もことあるごとにあの女を貶めようとしたが、アレクシス様と、あの庶子の小娘にことごとく阻止された。
あの女はのんきにしているのがなおさら気に入らない。
そして第一王子アレクシス様は、婚約者のハーディング公爵令嬢を溺愛していると噂されるようになった。
そこは私の場所なのに。
──取らないでよ。
あれからもアレクシス様に話しかけているが、あの女の前では何も言えず、あまり会話もできていない。
悲しくて悔しくて惨めで、視界が真っ赤に染まる。
(どうして私がこんな思いをしなければならないの?)
全てはあの女、シェリル・ハーディングのせいですべてがうまくいかない。
ふつふつと怒りが込み上げる。自分の方が先に交流があると嫉妬し、誘惑してアレクシス様を誑かしたに違いない。
絶対に許さない──と、強く手を握りしめた。
「……あの女なんて」
喉の奥から、言葉がこぼれる。
「……いなくなればいいのに」
その瞬間、自分で言った言葉に、胸がどくりと跳ねた。
(……いなくなれば?)
一瞬、思考が止まる。
(……そうだわ)
すとん、とまるで最初からそこにあった答えのように、心に落ちてくる。
(いなくなればいいのよ)
そうすれば、すべて元に戻る。
あの方の隣は──最初から、私のものなのだから。
「……待っていてください、アレクシス様」
唇が、ゆっくりと歪む。
「今、あの女から解放して差し上げますわ」
読んでいただきありがとうございます。




