31、思わぬ反撃?
いいねやブクマなどありがとうございます!
とても嬉しく励みになります!
「アレク様!どうして、会ってくれないのですか?私とて我慢の限界が来ると怒ります…のよ…」
アレク様の机の上にある書類は、思っていたほど多くはなかった。
やっぱり忙しいとは私を避けるための口実か、それともやっと今一区切りついたタイミングだったのか。
しかし久しぶりに会ったアレク様の顔色が悪いことに目がいく。クマがとても濃くなっていて窶れている。
アレク様は目を見開き驚いているのがわかる。
そんな私もこんなひどい顔色をしてると思わなかったので、きっと同じような表情をしているだろう。
女性騎士が後ろでアレクシス殿下、申し訳ありませんと言っているのが聞こえる。
はっとしたアレク様は「いい、下がってくれ」と言い、近くにいたルカ様が扉を閉めて室内には3人になる。
その様子に勢いが削がれ、乗り込んだ勢いとは裏腹にお互い見つめ合い沈黙が落ちる。
するとアレク様はふっと息を吐き出し、感極まったような、泣きそうな顔で微笑んだ。
「…自分のために、怒れるようになったんだな…」
「…はい?」
いきなり紡がれた言葉に理解が及ばない。
たしかに自分のこと以外で怒ることも多いが…自分のことで怒ったことは今までなかっただろうか。
…そもそもあまり怒った記憶がない。
それこそヴァネッサに言い返したあの誕生日パーティーくらいだろうか。
今のアレク様の言葉はどういう意味なのか。
『もっと自分のために怒っていいんだ』
ずいぶん昔の記憶が頭を過ぎる。ただ今はそれじゃないはず。じゃあどういうことか。
「昔、言っただろ。『もっと自分のために怒っていいんだ』って」
「──え」
まさか。いやそんなはず。でもどうしてそれを、アレク様が知っているのか。
驚愕の表情で目を見開いて私をじっと見据えているアレク様を凝視する。
「やっぱり……記憶があるんだな。…瑠璃」
瑠璃。その言葉にドクンっと心臓が脈打つ。次第にバクバクと早鐘を打っていく。
アレク様は顔をゆがめて泣きそうな顔になっている。
逃げなきゃ。その気持ちでいっぱいになり後ずさるも、いつの間にか私の前に来ていたアレク様に手を引っ張られ抱きしめられた。
「っ!ほんとに………!本当に、ごめんっ俺がっ!俺が、不甲斐ない、ばっかりに…瑠璃を、殺してしまった…」
私を抱きしめたままボロボロと泣き出したアレク様は…謝っている。
戸惑いと困惑で固まっていると、急に静かになり抱きしめられている力が抜けたと思ったら、ズシリとアレク様の体重がかかってくる。
咄嗟のことでその重さを支えきれず、バランスを崩して後ろに倒れそうになる。
アレク様をぎゅっと抱きしめて、きたる衝撃に備えるも後ろから支えられた。
そろそろと確認してみるとルカ様だった。
「突然触れて申し訳ありません。アレクシス殿下はここのところ休まずずっと仕事をしていたので、限界がきたのでしょう。…先ほどおっしゃっていたことは私には分かりかねますが……」
困惑した様子のルカ様だったが、とても心配そうにアレク様を見ている。
このままにしておくのも、ということでアレク様の部屋の寝室に運ぶことになった。
アレク様の部屋に入れる人は制限されていることもあり、ルカ様がアレク様を背負って連れて行ってくれた。
以前アレク様の部屋にきたときより少し荒れていたが、ものがそれほど多くないためかただ生活感のある空間にとどまっている。
部屋の奥にある寝室には初めて入る。
ルカ様には私が看病することを告げ、医者だけ手配をお願いした。
真っ青な顔でベッドで眠るアレク様を見つめる。
5年ほど付き合いがあるが、寝顔を見るのは初めてだ。
寝顔だともうなくなったと思っていたあどけなさは残っているようだった。顔色は最悪だが。
(先程のはやっぱり……)
そのとき、ノックの音が響きルカ様が医者をつれて戻ってきた。診察結果は過労と栄養失調。よく寝て、よく食べればすぐよくなるとのこと。
医者は診察を終えると出て行ったが、ルカ様はそのまま残った。やはり心配なのだろうか。
ルカ様とはそんなにお話ししたことはない。いつも挨拶程度で終わっている。
「…ハーディング公爵令嬢。不躾ながら、お伝えさせていただいてもよろしいでしょうか」
「…はい。何でしょう…」
アレク様のことが関係あるのだろう。
「アレクシス殿下は事件から1週間ほど、寝食を削って捜査にあたってました。すべてはハーディング公爵令嬢が狙われたからだと、最初は思っていたのですが…。それ以外にも何かあったのか、あまりにも休まないので無理やり自室に閉じ込めて寝かせようともしたのですが、休んでいなかったのか部屋がこの有様で…。何かから逃げようとしているのか焦燥感のようなものを感じるんです。私の気のせいかもしれませんが…」
その言葉にどくんっと心臓がはねる。
アレク様と最後に話したこと。それは婚約についてだった。冷静に話せそうにないからまた後でと言っていた。私に会ったら向き合わなきゃいけないから余計会いたくなかったのだろう。
「殿下が、こうもおかしく…んんっ失礼。必死になるのは貴方様のことだけなのです。私にはお2人の関係について、とやかく言う資格はありませんが、アレクシス殿下の話を聞いてあげてくれませんか。初めてだったのです、殿下が泣いたのを見たのは。過労による情緒不安定のせいもあると思いますが…。いつだって、殿下の心を動かせるのは貴方様だけなのです。…その、ルリ、様が何者かはわかりませんが、浮気などではないかと。それをお伝えしたく思いました。…お時間をいただき、ありがとうございます。私は一度、下がらせていただきますね」
ルカ様は何かあればお呼びくださいと言って一礼して部屋から出て行った。
しばらくアレク様の様子をみていると、ふと、視界に入ったものがあった。
ベッドサイドテーブルの上に置かれた写真立て。そこには写真ではなく鈴蘭の押し花が飾ってあっる。
鈴蘭は今は王太子の象徴花になっている。だから何もおかしなことではないが…
もし、私の予想通りなのであれば…
逃げなきゃ、と思った。もし本当にそうであれば、婚約の破棄もしくは解消も正規の手続きを踏む余裕はない。
でも、あの反応は一体……
そして私は前世のことを思い出していた──
読んでいただきありがとうございます。




