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前世、妹と恋人に裏切られた悪役令嬢は恋愛なしの穏便な道を平凡に生きていくはずだったのですが...  作者: はな


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クロード・ハーディング②


 季節が廻り、気温が下がりときおり雪も降るころ。

 誕生日が遅めのアシュリーの魔力鑑定が行われ、アシュリーの人生は一変した。


 魔力量は王族に匹敵するほど多いが、属性がない。つまり、魔法を使えないということだった。ごく稀にいる体質の人間で、昔から”能無し”としてあつかわれ嫌忌されている。


 アシュリーへの家族からの扱いはひどいものになった。両親からは存在を無視され、姉のナターシャは昔から妹が気に入らずその鬱憤をぶつけた。


 ナターシャはアシュリーの5歳年上の姉だ。クオーツ伯爵家は2人姉妹のためナターシャが婿を取り家を継ぐ予定だったため厳しく育てらた。

 それに比べアシュリーは家を継ぐわけでもないのでそこまで厳しくもない普通の教育を施され、見た目も相まって親に可愛がられている。とナターシャは思っている。

 実際は伯爵夫妻の対応は2人に対してはどちらも変わらずそっけないものだったのだが、ナターシャはそう思わなかった。


 そんな私はとくに能無しということでも、心配ではあったが気にしていなった。そのため、しばらく会えなくなったことでようやくその事態に気づいた。人の漏れ聞こえた話から、アシュリーが閉じ込められて暴力をふるわれているかもしれないことを知った。

 

 そんなアシュリーを救うため、兄上に相談した。直接乗り込むことは、失敗した場合アシュリーがより一層ひどい扱いを受けかねない。ここは公爵家の力を使いつつ慎重に動く必要がある。そして幼い自分たちには、未来の地位の力で保護することしかできなかった。


 仕方がないとはいえアシュリーが兄上の婚約者になるのはとても嫌だった。

 自分の気持ちに疑問を覚える。

 それはなぜか。


 そのときにすとんと腑に落ちた。今までのことを思い返す。


 なぜ一緒にいると落ち着くのに胸が苦しくなるのか。

 それはアシュリーのことが好きだから。

 好きだから、兄上の婚約者になってほしくない。


 しかし、そんなことも言ってはいられない。アシュリーがどうなっているかもわからない状況で、すぐに動かなければならない。

 よっぽどのことがなければ公爵になる兄上と、何も持っていない私とは比べるまでもない。


(アシュリーは兄上の婚約者になる。この気持ちは消そう)


 自覚したばかりの恋心は消すことを決め、そしてアシュリーを兄上の婚約者にするために動き出した。


 渋る両親を兄上は最近発表された論文をもとに得意の話術で説き伏せた。そして伯爵家に話を持ち掛けたところ二つ返事で了承し、なんとか兄上の婚約者にすることができた。


 それから公爵夫人になるための勉強、つまりは花嫁修業として公爵邸でアシュリーが暮らせるように手配した。


 そしてやっと会うことができたのは会えなくなってから2月後だった。魔力鑑定をしてから2か月ということでもある。


 久しぶりに会えたアシュリーはやせ細っており、顔もやつれていた。のちほどメイドに聞いた話だと痣も数か所確認できたそうだった。


 ひとまずは医者に見せ、しばらく療養が必要だったため休ませた。


 アシュリーはベッドで休んでいるときに、ここ2か月でおこったことを話してくれた。噂以上にひどいことをされていたようで伯爵家に怒りを覚える。


 ご飯は与えられず、見かねたメイドがこっそりと残飯のようなごはんを1日1回あるかないかで与えられ、掃除や水仕事をさせられてナターシャからは毎日暴力を受けていたそうだ。


 そしていきなり訳も分からないまま、いつ振りかわからないお風呂にいれられ、以前着ていたような服をきせられ、公爵家に連れてこられたらしい。


 アシュリーに兄上の婚約者になったこと、花嫁修業のために公爵邸で暮らせるようになっていることなどを説明する。するとぽろぽろと涙を流し、次第に大きな声で泣き出した。

 ひとしきり涙を流し終わった後、ひとまずあの家から抜け出せたと実感して安心したのかほっとした顔で寝息をたてた。


 それからゆっくり療養して身体ももとに戻ったころ、公爵夫人になるべくアシュリーは勉強をはじめた。恩を返すために頑張ると言って勉強に励むアシュリーをみると、以前とは違う痛みが胸に広がったが、見ないふりをした。



 それから5年。出かけるのもお茶をするのも3人で過ごすことが多かったが、次第に2人を見るのがつらくなった。パーティーで兄上がアシュリーをエスコートするとき。2人で挨拶をしているとき。


 そして2人と距離をおきつつあったころ。



 夜、就寝時間をすぎ、暗くなった部屋でベッドで寝がえりをうったとき、コンコンっとガラスがノックされた音が響いた。

 こんな時間に侵入者かと身構えるも、窓をみて気が抜ける。バルコニーのところにエリオットがいた。

 しかし服装が寝巻ではなく、街で見るようなラフな格好に、外套をまとっている。


 一体どうしたのかと窓をあけ中に入るよう促すも、ここでいいという。


「クロード、寝る時間にすまないな」

「それは構わないのですが…こんな時間にそんな格好でどうされたんですか?」

「ふふっ、ちょっとな。…就寝の挨拶だ」


 まったく答えになっていないと思ったが、そのまま言葉を続けた。


「……クロード、お前は頭がよく賢い。俺が当主になるよりもクロードが当主になったほうがいいだろう。それに俺は堅苦しいのとか、苦手だしな」

「いえ、そんなことは…私は社交性も愛想もありませんし…。兄上、どうされたのですか?」


 様子がおかしいと思い、問いかけるもどうもしないよ、という。

 兄上は俺の頭をわしゃしわしゃ撫でながら笑って言った。


「アシュリーのこと、頼むぞ。幸せにな」


 頼むとは一体。


 兄上の言葉にただの就寝の挨拶にしては大袈裟なように感じ疑問が浮かぶも、人間関係を疎かにしていた俺はそのまま流してしまっていた。


 その翌日。目が覚めると屋敷は騒然としていた。理由を聞くと兄上に何かあったらしい。


 的を得ない話を聞くもよくわからなかったため兄上の部屋に向かう。すると兄上の部屋では外でも中でもばたばたと数人行きかっていた。すると私に気づいた執事が手紙を持ってきた。机に置いてあったものだという。


 よく状況が呑み込めないまでもひとまず開封して中身を検めるも、その内容は全く予期しないものだった。



 兄上は就寝の挨拶という別れの言葉をのこして失踪した──


読んでいただきありがとうございます

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