クロード・ハーディング
クロードお父様のお話ですが、前の話と少しかぶっている部分もあります。
昔から人と関わるのは得意ではない。
いつも周りに話があうものはいない。頭の中で考えていることがどんどん進んでいくのに、言葉にするとより時間かかることが煩わしく、思考と話が乖離していく。
そのため私にとって人と話すというのは、ただただ面倒くさく煩わしいものだった。
そんな子どもらしくないだろう私に2つ年上の兄上は飽きることなく面倒を見てくれた。
親が不仲だったこともあり、寂しい思いをさせないようにと兄上なりに考えていてくれたのかもしれない。
そして成長するにつれて兄弟での差が顕著になってきた。
兄上は社交性が高く話術にも長け、いつも周りに人が集まるような太陽のような人だった。
対して私は無表情・無口・無愛想と3拍子揃っており、少し遠巻きに見られていた。
ただ兄弟仲は兄上のおかげでとてもよかったと思う。よく一緒に過ごしていた。
そんなある日、公爵領の本邸の庭で兄上と過ごしている時、銀髪に空色の瞳をした女の子が迷い込んできた。
どうやって公爵家の庭まで入ってこれたのか。
「…あなたたち、だぁれ?」
(いや、それはこっちのセリフなんだけど)
兄上も少し警戒したように少し俺の前にでて女の子に声をかけた。
「…僕はエリオット。こっちは弟のクロード。…君は?」
「私はアシュリー。ちょっと道に迷っちゃって…よければ道を教えてほしいんだけど…」
「アシュリーか。よろしくね。どこからきたのか教えてくれる?」
「いいわ!こっちよ!」
アシュリーはにっこり笑って意気揚々と歩き始めた。話を聞くと迷子になって彷徨っていたところ、迷い込んできたようだ。
案内されるままについていくと庭の奥にある塀の下の方に子供1人がギリギリ通れるような穴が空いていた。
(ここを通ってきたのか。なぜわざわざ…)
たしかによくみるとアシュリーの着ているワンピースは払ったようだがところどころ土がついている。
「ここよ!塀があるから中に人がいるかと思って通ってみたの!」
「こんなところに穴が空いているなんて…。教えてくれてありがとう。じゃあ家まで送るからこっちに来てくれる?」
「うん!ありがとう!」
兄上は驚いていたが、アシュリーを案内しようとした。
するとアシュリーはほっとしたように笑ってついていった。
正面の玄関まで案内している途中話したことで、アシュリーは隣の領地のクォーツ伯爵家の人間だとわかった。
どうやらピクニックにいって青い鳥を見つけて追いかけたところ、一緒にいた人たちが迷子になったから探していたらしい。
(いや、迷子は君だろう)
内心思っていたが口にはださず、成り行きを見守る。もっぱら話すのは兄上だった。
エリオットはクォーツ伯爵家へ、と御者に告げてアシュリーを馬車に乗せて見送った。
なんとも元気な令嬢だった。
もうしばらく会うことはないだろうとその時は思っていたのだが──
「あ!」
驚いた声に思わず振り向くと、口に手を当て驚いた顔でこちらをみているアシュリーがいた。
あれから2年経ち、私も10歳になる年だった。
王子の誕生日パーティーにて。
人と関わるのが嫌で会場の端の方に避難しようとしていたところ、声が聞こえた。
「あ…」
思わず声が漏れ、目と目があったままお互いしばし固まった。
兄上が遠目でも俺の様子がおかしいことに気づいたのか、友人の輪を抜けて駆け寄ってきた。
「クロード、どうし…あれ?君はもしかして、アシュリー?」
アシュリーもエリオットに気づいたのか目をさらに大きく見開いた。
「…お久しぶりです。だいぶ前ですが、あの時は助けてくださり、ありがとうございました…」
アシュリーは恥ずかしいのか頬を赤くしてもじもじと挨拶とお礼をいった。
礼儀作法を学んだのか敬語になってはいるが、もじもじしては台無しなのではとは突っ込まなかった。
そしてあの時のことは覚えているようだ。
「いや、大丈夫だよ。気にしないで。それより久しぶりだね。元気だった?」
エリオットがにこやかに話しかけると嬉しそうにアシュリーは話しはじめた。
「はい!お陰様で。お2人も変わらずお元気でしたか?」
そこから2人の会話は弾み、私はそれをなんとはなしに聞いていた。
当時の国王はパーティーが好きなようで、子供向けのパーティーも、頻繁に開催されていた。公爵家ということもあり、同い年の王子とは幼い頃から交流があり、幼馴染である。
そのせいもあって頻繁に開かれるそのパーティーにも参加させられていた。そしてこの一部始終を誰かがみていたのか。アシュリーも必ずパーティーにはいた。
そしてアシュリーとはパーティーで会ううちに、兄上がいなくても話すようになった。
『私のお父様とお母様はね、周りに人がいるところでは仲良しのふりをするんだけど、家だとずっと大声で喧嘩しているの。私のことも、お姉様のことも見ているようでみていないの』
『うちと同じだな。ただこちらは言い合いなんかしてないけど。お互い必要以上に関わらないって感じかな』
時折、愚痴までいえる仲になった。
『兄上はすごい。とても優しくて人望があって人が集まってくる。僕はそんなふうになれないから…』
『私は、クロード様がとても優しい人だって知っているわ。もっと自信をもって』
いつだったか。ハーディング公爵家に仕えている家臣が言っていたことが少し気になったときに出た言葉だった。それに対してアシュリーはハーディング公爵家の次男としてではなく、私自身を見てくれて言葉をくれた。
アシュリーは公爵家というだけで、次男の俺にも色目を使ってくる令嬢たちとは違った。
いつもは煩わしく面倒くさいとしか思わない会話もアシュリー相手だと苦ではない。
また、2人で話す時はアシュリーも言葉が砕けてより一層会話は弾んだ。
いつからか子供が集まるパーティーなどで会うたびに2人で話すようになった。そこに兄上も加わって3人で話すこともあったし、王子のランドルフもまれに加わったりしたが。
ただの幼馴染だったはずなのに。
最初はこの気持ちがなんなのかわからなかった。
いつからだったのかもわからない。
気づけばアシュリーのことを好きになっていた。
アシュリーといると落ち着く。
アシュリーの優しさにふれるたび、可愛らしいところを見る度に胸が苦しくなる。
しかしアシュリーに恋をしていると自覚したのはアシュリーが兄上の婚約者になるときだった──
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